- 不動産取引の「重要事項の説明」を担う国家資格で、合格率は15%前後
- 試験に合格後は都道府県知事の資格登録を受け、宅地建物取引士証の交付を受ける
- 独学で受験することに自信がない場合は通信講座がお勧め
2015年までは宅地建物取引主任者と呼ばれていましたが、2015年の宅建業法の改正により「宅建士(宅地建物取引士)」と呼ばれるようになりました。宅建士は毎年20万人前後が受験する、最も人気の高い資格の一つです。他にも様々な資格がある中、資格取得の登竜門的な立ち位置にあります。
「今年は宅建士の資格を取りたい!」と考えておられる方はいませんか?実は、効果的な独学による勉強により合格できる資格でもあります。建設・不動産に関する様々な資格を有する不動産コンサルタントが宅建士の概要や令和2年度試験の難易度と合格率、仕事内容・年収・将来性、取得するメリット、勉強法について解説します。
\編集部が徹底比較/
毎年20万人が受験に挑む宅建士とは
宅建士(宅地建物取引士)とは宅建試験に合格し試験を実施した都道府県知事の資格登録を受け、当該知事の発行する宅地建物取引士証の交付を受けた者です。宅建士が行う必要のある業務は、宅建業法に規定される以下の3点となります。
- 重要事項の説明(第35条)
- 重要事項説明書への記名押印(第35条)
- 書面(契約書等)への記名押印(第37条)
出典:「宅建試験の概要」 一般財団法人不動産適正取引推進機構
宅建士の試験概要
宅建士の試験概要を下表にまとめます。
受験費用 | 8,200円 |
試験日 | 試験は毎年1回、10月の第3日曜日に開催 ・2022年は、10月16日(日)に開催されました。 (実施告知は2023年6月予定) |
スケジュール | 6月:実施告知 7月:申し込み開始 8月:試験会場通知の送付 10月:宅建試験 12月:合格発表 |
試験実施方法 | 全問マークシート方式(四肢択一式)、出題数:50問、 試験時間:2時間 ・民法等 :14問 ・宅建業法 :20問 ・法令上の制限 :8問 ・その他関連知識:8問 |
試験の基準及び内容 | 宅地建物取引業に関する実用的な知識を有するか否かを判定することに基準が置かれます。 (宅建業法施行規則7条) 試験内容は、下記の通りです。 (宅建業法施行規則8条) ①土地の形質、地積、地目及び種別並びに建物の形質、構造及び種別に関すること ②土地及び建物についての権利及び権利の変動に関する法令に関すること ③土地及び建物についての法令上の制限に関すること ④宅地及び建物についての税に関する法令に関すること ⑤宅地及び建物の需給に関する法令及び実務に関すること ⑥宅地及び建物の価格の評定に関すること ⑦宅地建物取引業法及び同法の関係法令に関すること |
合格基準点 | ・過去10年間の宅建の合格率は、15%~17%で推移 ・合格基準点は、50問中31点~38点 ・約75%正解できれば合格 ・令和4年度の合格率は、17.0% (受験者:226,048 人、合格者:38,525 人) |
宅建の資格証明書発行と登録について
宅建士の試験に合格しますと受験地の都道府県知事の登録が可能です。
登録をした都道府県知事から宅地建物取引士証の交付を受けると、宅建士として業務が可能になります。登録の際には、国が実施する講習を受講する必要があります。
ただし、「登録の際に宅建業の実務経験が2年以上ある場合」「宅地建物取引士証交付の際、試験合格後1年以内の場合」は各講習が免除されます。
ただし宅地建物取引士証の有効期間は5年です。宅建士として業務を引き続き行うためには更新が必要です。
令和4年度の宅建士(宅地建物取引士)の難易度と合格率
令和4年度の宅建士試験の難易度は、どうでしたか?
全体的には得点しにくい問題が多く、合格ラインは36点でした。
宅建士の資格取得難易度
令和4年度の宅建士試験は民法等と法令上の制限の一部において難易度が上がりました。全体的には令和3年度よりも得点しにくい問題が多くなり、全体の合格ライン(36点)は下がりました。科目ごとの傾向を下表にまとめます。
試験科目 | 試験問題の傾向 |
権利関係(14問) | 改正民法の細かい知識を問う問題が多く出題されましたが、主要な改正点からの出題は少ないです。 権利関係の合格ラインは、昨年より下がる傾向です。 ・Aランク(簡単)の問題:3問 ・Bランク(中間)の問題:10問 ・Cランク(難問)の問題:1問読解力を問う「判決文型」の出題が定番化しました。 「事例型」も例年同様に出題されました。 想定合格ラインは、14問中8点 |
宅建業法(20問) | 例年と比較して、平易な問題が多いです。 改正関係では、 ・民法の種類もしくは品質に関する契約不適合責任の改正点を受けた出題 ・解約手続きに関する改正点を受けた出題宅建業法は、確実に得点を重ねていかなければならない科目です。 想定合格ラインは、20問中17点 |
法令上の制限(8問) | 出題対象は、主要法令に限られました。 ・都市計画法:2問:「開発許可の申請・建築制限等」に関する出題 都市計画に関する出題 ・建築基準法:2問:「建築確認・改正論点を含む単体規定」に関する出題 :「集団規定」に関する出題 ・宅地造成等規制法:1問:「土地立入」「宅地造成の定義」に関する出題 ・土地区画整理法:1問 ・農地法:1問:第3条~第5条に関する出題 ・国土利用法:1問想定合格ラインは、8問中6点 |
その他関連知識 (8問) | 法律改正点 ・統計資料をおさえておくと得点できる問題が出題 ・税法:印紙税・不動産取得税に関する出題 ・不動産鑑定評価基準からの出題想定合格ラインは、8問中6点 |
宅建士の合格率
令和4年度の宅建士試験の受験申込者数・受験者数・受験率・合格者数・合格率は下表の通りです。
令和4年度 | 令和3年度 | 令和2年度 | 令和元年度 | |
受験申込者数 | 283,856名 | 256,704名 | 204,163名 | 276,019名 |
受験者数 | 226,048名 | 209,749名 | 168,989名 | 220,797名 |
受験率 | 79.6% | 81.7% | 82.8% | 80.0% |
合格者数 | 38,525 名 | 37,579名 | 29,728名 | 37,481名 |
合格率 | 17.0% | 17.9% | 17.6% | 17.0% |
合否判定基準は50問中36問以上正解した者が合格者となりました。(正解率:76%)
(登録講習修了者は45問中31問以上正解した者が合格者となりました。)
宅建士の仕事内容や年収、将来性について
宅建士の将来性はどうですか?
宅建業法で宅建士の設置義務が規定されていますので、不動産部門を有する会社には必要です。将来性は高い状態を維持し続ける見込みです。
宅建士の仕事内容と年収
前述した3つの宅建士の業務は宅建士しか行うことができない規定となっていますので、不動産業界においてはなくてはならない資格となります。
宅建士の仕事内容
宅建士の主な仕事内容を下表にまとめます。
主な仕事 | 仕事内容 |
重要事項の説明(宅建業法第35条) | 不動産物件を売買 ・貸借する人に対して、下記内容の重要事項を説明します。 ・建築基準法・都市計画法などの関連法令との適合性 ・瑕疵がある場合の取り決め ・登記申請時期 ・設備状況(水道・電気・ガス) ・契約の解除条件、など |
重要事項説明書への記名押印(宅建業法第35条) | ・重要事項説明書を買主もしく賃借人に提示し、 説明書に沿って具体的に説明を行います。 ・買主もしくは賃借人の質疑に対し、説明を加え、 納得していただいた段階で重要事項説明書に記名押印をします。 |
書面(契約書等)への記名押印 (宅建業法第37条) | ・買主に対しては売買契約書を、賃借人に対しては賃貸借契約書を提示し、法的な適合性を説明して、問題ないことを確認します。 ・買主もしくは賃借人が納得できれば、売買契約書もしくは賃貸借契約書に記名押印をします。 |
宅建士の年収
宅建士は不動産を取扱う部門のある会社であれば必要な人材であるため、年収も比較的高くなります。近年では平均年収が500万円前後で推移しています。また資格手当を出す会社も多く、その相場は月に5,000円~5万円です。
宅建士の将来性
宅建士の将来性は高い状態を維持し続ける見込みです。宅建業法では会社が不動産を取扱う場合、従業員の5人に1人以上が、宅建士を配置することを義務付けしています。特に不動産業界は人材の出入りが激しい業界となります。したがって宅建士所有者の安定的な確保は会社の死活問題にもなりかねませんので、需要は増加傾向にあるのが現状です。
宅建士を取得するメリット
宅建士を取得するメリットは何ですか?
就職に有利に働く点やキャリアアップになる点、資格手当がもらえる点などがあります。
建設・金融・不動産業界への就職に有利になる
建設・金融・不動産業界は土地・建物を取扱う機会が特に多くなるため、宅建士は必要な資格となり、所有していますと就職に有利になります。不動産業界は言うに及ばず建設業界においても自社の支店展開や顧客からの土地・建物の確保の要望など日常的に不動産業務を行います。また金融業界においても特に銀行については顧客からの住宅ローンやアパートローン、その他の建物の建築に伴う融資打診を受けることが多数あります。
その融資審査に伴う物件調査などでも宅建士の所有者は重宝されます。他にも商社や鉄道会社・外食産業・デパート・運送会社・税理士事務所など、不動産関連部門を有する会社は多数あり、宅建士の確保は必需といえます。
士業の中でも資格取得難易度がそこまで高くない
宅建士は他の士業(弁護士・司法書士・社会保険労務士・税理士・不動産鑑定士・一級建築士など)と比較しますと資格取得難易度はそこまで高くありません。士業の中でも比較的合格し易い資格となります。近年の合格率は15%~17%前後、合格正答率は70%~75%で推移しています。過去10年間の受験者数、合格者数、合格率、合格点を下表にまとめます。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 合格点 |
令和2年度 | 168,989人 | 29,728人 | 17.6% | 38点 |
令和元年度 | 220,797人 | 37,481人 | 17.0% | 35点 |
平成30年度 | 213,993人 | 33,360人 | 15.6% | 37点 |
平成29年度 | 209,354人 | 32,644人 | 15.6% | 35点 |
平成28年度 | 198,463人 | 30,589人 | 15.4% | 35点 |
平成27年度 | 194,926人 | 30,028人 | 15.4% | 31点 |
平成26年度 | 192.029人 | 33,670人 | 17.5% | 32点 |
平成25年度 | 186,304人 | 28,470人 | 15.3% | 33点 |
平成24年度 | 191,169人 | 32,000人 | 16.7% | 33点 |
平成23年度 | 188,572人 | 30,391人 | 16.1% | 36点 |
資格取得により一定の知識があることの証明になり独立やキャリアップにつながる
宅建士の資格取得により不動産に関する法律(宅建業法、建築基準法、都市計画法、税法など)について、ある程度の認識を持つ証明になります。したがって、独立する場合には有利に働きますし、キャリアアップに繋がり易くなります。
誰でも受験資格があり、女性の社会復帰にも役立つ
宅建士試験の受験条件はなく誰でも受験資格があり、女性の受験者数も増加しており、女性の社会復帰にも役立ちます。政府が推奨する「働き方改革」により職場環境が改善され、女性にとっても働き易くなる傾向にあります。職場の改善策の具体例としては以下が挙げられます。
- 産休・育休の普及、産後の早期復帰手当
- リモートワーク(在宅勤務)の普及
就職する企業によっては資格手当が5,000円〜50,000円が支給されることも
宅建士は不動産部門を扱う会社としては必需の人材であり、企業によっては資格手当が5,000円~50,000円/月を支給するところもあります。年収に換算しますと、6万円~60万円にもなり、1か月分の給料以上に匹敵する額となる場合もあります。資格の有無は年収にも大きく影響します。
不動産業界での需要がとにかく高い
不動産業界において宅建士の需要は高止まり状態といえます。国際化・多様化・業際化・高齢化などの変化に伴い、不動産業界の業態も大きく変化をしています。以下に対応できる宅建士は特に需要が高くなる傾向にあります。
- 1外国人世帯の増加
- 高齢者単身世帯の増加
- 空き家、空き地などの増加
宅建の資格は独学で大丈夫?効果的な勉強法について
宅建試験に独学で臨む勉強法について教えてください。
少なくとも1週間に6日、1日2時間の勉強ペースを約半年間継続することが大切です。あと、宅建業法の完全攻略がポイントになります。
独学で勉強するなら必要な勉強時間は250〜300時間
宅建士試験合格には独学で勉強する場合、勉強時間としては250~300時間が目安となります。1週間に6日、1日2時間の勉強ペースを維持しますと、約半年で合格ラインに達するというシミュレーションです。4月頃から始めますと良いタイミングで受験することができるシナリオです。独学での勉強時間が250~300時間を要する理由は以下の通りです。
- 不動産に関わったことのない人の場合、専門用語の調査・理解から始める必要があります。
- 独学で勉強することが初めての人の場合、ペースを掴むまでに時間がかかります。
- 誰も監督する人がいないので、時間を無駄に過ごす可能性もあります。
過去問を解き、試験内容の傾向を身につけよう
過去に出題された数年分の問題を解くことにより、試験内容の大まかな傾向が理解できます。出題分野ごとの出題数も毎年ほぼ変わりません。令和2年度のデータを下表にまとめます。
出題分野 | 出題数 | 合格ライン | 合格正答率 |
権利関係 | 14問 | 8点 | 57% |
宅建業法 | 20問 | 17点 | 85% |
法令上の制限 | 8問 | 6点 | 75% |
その他関連知識 | 8問 | 6点 | 75% |
合計 | 50問 | 38点 | 76% |
出題数が最も多い分野が宅建業法からの出題です。宅建業法において高得点を取れるか否かが、合格できるか否かの目安になります。独学にて勉強を進める場合、先ずは宅建業法から始め、満点近い得点を取れるまで過去問にて習得することが大切です。
独学に自信がない、挫折してしまったら通信講座を利用しよう
独学に自身がない場合や挫折してしまった場合には通信講座を利用することをお勧めします。通信講座のメリットは、以下の通りです。
- 講師や他の受講生と一緒に勉強を進めることができますので、モチベーションを上げることができます。
- 定期的に講義がありますので、勉強のペースの目安を掴むことができます。
- 時間制限の中で問題を解く演習もありますので、本番での解答ペースを掴むことができます。
まとめ
以上、宅建士の概要や令和2年度試験の難易度と合格率、仕事内容・年収・将来性、取得するメリット、勉強法について解説しました。企業の不動産関連部門が宅建士の確保に努める傾向は今後も続きます。主要な会社は宅建士の資格取得を奨励しており、資格手当を手厚く施す企業もあります。
また不動産業界においても国際化・多様化・業際化などが進む中、それらの変化に対応できる宅建士が求められています。その様な状況下において宅建士の資格取得に挑戦して合格し、不動産のスペシャリストとして活躍されることをお勧めいたします。
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