古民家リノベーションの魅力と注意点

この記事を書いた人
徳田 倫朗
宅地建物取引士

株式会社イーアライアンス代表取締役社長。 宅地建物取引士。 国内では、アパート・マンション、投資用不動産の売買や不動産ファンドの販売・運用を手掛けるほか、海外不動産(アメリカ・フランス)についても販売仲介業務を行うなど、不動産・リノベーションに関して幅広い経験と実績を有する。

この記事のざっくりとしたポイント
  1.  古民家のリノベーションにより古き良き日本家屋を残すことができる
  2. 固定資産税が新築よりも安く済む場合がある
  3. 住宅ローンが使えない場合や住宅ローン減税の適用を受けられない場合も
趣のある古風な日本家屋には、現代の住まいにない落ち着きと重厚さがありますよね。

事務員

徳田編集者

最近ではこういった古民家をリノベーションして、古き良き日本家屋の良さと、現代ならではの住み心地の両方を兼ね備えたマイホームを手に入れたいと思う人が増えているようです。

今回は古民家リノベーションの魅力と注意点について、事例を交えながらご紹介します。これから新居を考えている方は、新しいリノベーションの潮流となりつつある古民家リノベーションについても目をむけてみてはいかがでしょうか。

 古民家とは?

「古民家」という用語には、法令上定まった定義はありませんが、一般的には築50年以上の伝統的な工法を用いた木造住宅を指すことが多いようです。都市の中心部では少なくなってきましたが、郊外では築50年から100年程度の木造住宅が残っているところがたくさんあります。

徳田編集者

住まうほどに美しい味わいを見せる古民家は、サスティナビリティの重要性が高まっている現代社会にもマッチするものです。

「空き家バンク」を整備している自治体が増えて古民家が探しやすくなり、また古民家に住んでみたいという人が増えてきたことから、近年になって古民家のリノベーション事例が積み上がってきました。リモートワークが普及し、郊外に移住する余裕ができたという人も多くなってきたことも追い風となっています。

 古民家をリノベーションするメリットとは?

 

古民家には、現代の日本家屋にない魅力があります。周囲の自然と調和して建つ古民家には、旧来からの生活の息づかいが感じられますし、また心の安らぎを感じることもあるでしょう。古民家をリノベーションするメリットにはこのような印象的なものもありますが、建物としての質の高さや税金面など、新築の建物にはない利点があるのです。

 古き良き日本家屋を残すことができる

リノベーション後の古民家をみるとむき出しになった柱の趣をそのまま残したものが多いことに気づくと思います。これは、壊すのがもったいないほど良い建材が使われていることが多いからです。中には、ヒノキやケヤキなど数百年の年月にも耐えられる建材が使われていることもあります。

現代の住宅は大量生産の建材で建築され、住宅の平均寿命は約30年と短いものになっています。これは、過剰な木材の乱伐による自然破壊の一因になっており、見過ごせない問題です。さらに古い住宅を取り壊すにも費用と手間がかかることから放置され、空き家問題が深刻な問題となっています。

MEMO

古民家のリノベーションはこれからの循環型社会に適合した新しい住まいのあり方です。自然保護の観点からも、活かせるものを活かして未来に住まいを遺すことができるというメリットがあります。

税金面のメリットがある

古民家をリノベーションして住まいにする場合には、固定資産税が新築よりも安く済む場合があります。

固定資産税は土地と建物に課税されますが、建物の固定資産税は固定資産税評価額に一定の税率を乗じて計算されます。建物の評価額は評価替えの度に下がっていきますので、古民家ほどの古い建物であれば、かなり評価額が抑えられていることが多いのです。

徳田編集者

もっとも、リノベーション部分については新しく価値が付加されたものとして評価額に影響します。そのため新築同様の費用がかかるようなスケルトンリノベーションの場合には、固定資産税額は新築の場合とあまり変わらなくなります。

加えて、バリアフリー対策や省エネ対策、耐震補強などに関係するリノベーションには国や自治体が用意する補助金が活用できますし、住宅ローン減税も条件を満たせば併用して適用可能です。

金銭面においても大きなメリットがあるんですね!

事務員

古民家をリノベーションするなら知っておきたい注意点

古民家リノベーションには大きなメリットがありますが、事前に確認しなければならない以下のような注意点があります。

古民家リノベーション前に確認すべきこと
  1. 住宅ローンが使えない場合や住宅ローン減税の適用を受けられない場合も
  2. 工期が長くなりやすい
  3. 新築並みの費用がかかる場合も
  4. 耐震性・断熱性に劣る
  5. バリアフリーの概念がない
  6. 火災保険が高くなる傾向にある

古民家は現在の建築基準法には適合しない建物ですので、場合によっては新築の一戸建てよりも劣る部分があることは否めません。では、順にみていきましょう。

住宅ローンが使えない場合や住宅ローン減税の適用を受けられない場合も

古民家の購入費用やリノベーション費用についても住宅ローンを活用することが可能です。もっとも、古民家は築数十年から中には100年以上経過しているものであるために、金融機関の担保評価によっては購入およびリノベーションに十分な融資が受けられない可能性があります。

また、住宅ローンを利用する場合には、住宅ローン減税もぜひ活用したいとことです。しかし、住宅ローン減税を活用するためには、リノベーション工事に以下のような工事が含まれていなければならないなど、一定の条件があります。

リノベーション工事の条件
  • 増築、改築、建築基準法に規定する大規模な修繕又は大規模の模様替えの工事
  • 家屋のうち居室、調理室、浴室、便所、洗面所、納戸、玄関又は廊下の一室の床又は壁の全部について行う修繕・模様替えの工事
  • 建築基準法施行令の構造強度等に関する規定又は地震に対する安全性に係る基準に適合させるための一定の修繕・模様替えの工事
  • 一定のバリアフリー改修工事
  • 一定の省エネ改修工事

住宅ローン減税を適用するためには、これらの工事が含まれていることを証明する書類が必要になってきますので、リノベーション会社や建築会社と、古民家を購入する前に十分相談しておくことが大切です。

工期が長くなりやすい

古民家のリフォームは一般的に新築住宅や中古住宅の降るリフォームよりも工期が長くなりやすい傾向にあります。古民家は伝統的な工法で建てられており構造上どの柱を残すのか、取り除くのかについて詳細な現地調査と検討が必要です。そもそも設計図も残っていないことが多いことから準備段階でかなりの時間を要することが多くなるのです。

MEMO

基礎や土台部分において工事途中で瑕疵が見つかることも少なくありません。このような場合には、工期が延びるのはもちろんのこと、追加の費用がかかる場合もあります。

新築並みの費用がかかる場合も

古民家を購入して大規模なリノベーションを行う場合や、基礎部分、構造を支える柱部分の損傷が激しい場合は、新築並みの費用がかかるケースも珍しくありません。当初より新築並の費用を見込んでいる場合はいいのですが、費用面で節約するために古民家を選ぶのならば、どのようなリノベーションの内容になるのかは購入時に確認しておく必要があります。

徳田編集者

どの程度のリのベーションだと高額なのかイメージがつきにくいかもしれませんが数千万円かかったリノベーション事例を2つ紹介しますので参考にしてみてください。
古民家の雰囲気残しつつ30畳の吹き抜けリビングとオール電化を実現させた住宅

リノベーション部分の延床面積:約130㎡(増築部分含む)

主なリノベーション内容:部屋の間取り変更とスケルトンリノベーション、省エネ・耐震施工

リノベーション費用:約2,500万円

工期:3か月から4か月

築年数:約50年

最初の事例は、3世代が住む大きなお屋敷の半分をリノベーションした事例です。6畳から10畳ほどの畳の部屋が並ぶ1階の間取りを変更し、吹き抜けの30畳リビングにしたことで、もともとの古民家の質感を残した重厚感のある広々とした空間に生まれ変わりました。浴室やキッチンなどの水回りも変更したほか、耐震補強や断熱材の追加も施工しています。

祖父の世代から育て上げた欅を床材に仕上げたフルリノベーション2世帯住宅

リノベーション部分の延床面積:約150㎡(増築部分含む)

主なリノベーション内容:部屋の間取り変更と増築、省エネ・耐震施工、インテリアコーディネート

リノベーション費用:約3800万円

工期:7か月

築年数:約45年

この事例は、先代の建てた自宅を残して受け継ぐために行った大規模なリノベーションです。新築同等の費用が掛かっていますが、先代から受け継がれた家を後世に残していくために必要な工事を丁寧に行っています。耐震、断熱施工はもちろん、先代から保存されていた欅の建材を加工し床材に仕上げて施工されました。そのほか、古くから使っている暖炉や建材をそのまま利用するなど、思い出の詰まった住まいになっています。

耐震性・断熱性に劣る

古民家が建築された当時には現在のような建築基準法はありませんので、新築よりも耐震性・断熱性に劣ることは受け入れる必要があります。

MEMO

耐震補強をすることで従来の古民家の雰囲気を壊すこともあります。また、もともと断熱材を入れるような壁や柱の構造になっていないために、断熱材を入れるにしてもかなり薄い素材の断熱材を張り付けるような工法になることがあります。

 バリアフリーの概念がない

古民家には日本家屋特有の段差が数多く存在します。末永く住まう住宅ですから、リノベーション工事にはバリアフリー工事を盛り込みたくても構造上、床が玄関よりも高いような住宅も多いことから、手すりやスロープの設置のみでは限界があることもあります。

 火災保険が高くなる傾向にある

古民家は新築に比べて火災保険が高くなる傾向にあります。火災保険の保険料は地域によっても異なりますが、大きく影響するのは建物の構造です。つまり、建物が火災や自然災害の影響を受けやすいかどうかという点が大きくかかわってきます。

徳田編集者

古民家の場合には災害への耐性が弱いとみられがちであるために、保険料が高くなってしまうのです。また、地震保険を付保する場合には、耐震性が考慮されるためかなり高い保険料を覚悟しておく必要があるでしょう。

古民家をリノベーションして趣と住みやすさを兼ね備えた住まいを手に入れよう

古民家は新築にない趣と味わいがあり、自然と調和したライフスタイルを実現することを志向する現代人にとっても魅力的なものです。しかし、築年数が経過していることから新築住宅にない注意点もたくさんあります。

Webサイトやセミナー、書籍等で十分に情報収集するとともに、実際に古民家の購入・リノベーションを検討するときには経験のある建築家やリノベーションの専門家に相談しながら、慎重に物件や工事内容を選択しましょう。