不動産相続に必要な手続き完全ガイド!必要書類や期限、かかる税金と費用について

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直江編集者
不動産コンサルタント・FP

大学卒業後、一部上場企業に勤め、退職後は大手不動産会社で賃貸物件入居者のコンサルタント業務に従事。アパート経営もしており、これまでの経験とファイナンシャルプラナーの観点から住宅ローンや税制の執筆をメインに担当。

この記事のざっくりしたポイント
  1. ある日突然に発生することが多い相続ですが相続税を納付するまでの時間は限られている
  2. 遺産分割が決まらない時は法律事務所や弁護士に相談するのがよい
  3. 不動産の分割相続は4つの分け方がある

相続というものは人生で何度も経験することはないので、いざその場に直面するときも動転し、なにから手をつけてよいのかわからなくなってしまうのではないでしょうか?しかし悲しんでいる間にも不動産相続を申告しなければならない期限はやってきます。

そこでこの記事ではスムーズに不動産相続をするために必要な書類や期限・税金・費用などについて解説します。親が元気なうちに不動産相続のノウハウを知り、実際に相続する場合も落ち着いて手続きができるようにしておきましょう。

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不動産相続とは

 

不動産を相続する場合には、登記は義務づけられているのですか?

 
 

不動産を相続すると通常登記をしますが、これは義務ではありません。しかし登記をすることで、その不動産が自分のものであると公に主張できるんだよ。

 

不動産を相続した場合、名義を故人から相続人に変更する登記を法務局に申請します。これにより名義の移転を登記簿により公示するので、不動産の所有権を主張できるのです。この登記は義務ではなく、登記をしなくても違法にはなりません。しかし所有者のわからない土地問題を解決する法案が2021年4月に成立し、2024年を目途に相続を知った日から3年以内に登記するよう義務づけられます。

不動産相続に必要になる書類一覧

不動産登記をする場合にはさまざまな書類が必要で集めるのに時間と手間がかかり大変な作業になります。複数の相続人がいる場合は、全員で手続きをしなければなりませんが、委任状があれば代表者が行うことも可能です。不動産の相続登記に必要な主な書類について、一覧表にまとめてみましょう。

必要書類内容取得場所
登記申請書窓口・郵送・オンライン申請による法務局
登記事項証明書
(登記簿謄本)
相続登記対象の不動産登記事項証明書
不動産の権利関係を把握するために必要
全国どこの法務局でも取得可
被相続人の戸籍謄本配偶者や子どもを確認するためのもの
出生日までさかのぼって取得
被相続人の最終本籍地の役所
被相続人の住民票除票登記簿謄本の住所と戸籍謄本の関係を証明
土地の所有者=亡くなった人が同一人を確認
被相続人の最終住所の役所
相続人全員の戸籍謄本親子や夫婦など相続人との関係性を把握
各相続人の本籍地の役所
相続人全員の住民票相続人が実在していることを示すため
各相続人の住所の役所
遺産分割協議書遺産をどのように分割するか決めたもの
自作か、司法書士に作成
相続人全員の印鑑証明遺産分割協議書の印鑑と印鑑証明書の一致
各相続人の住所の役所
遺言書遺言書による相続登記の場合必要
法的効力があるもの
固定資産評価証明書最新年度のもの
不動産の所在地の役所

不動産相続に必要な手続き①:死亡届の提出と相続人、相続財産の確認

 

親が亡くなった場合には、動転してなにから手をつけたらよいかわからなくなってしまうでしょうね。

 
 

そうだね、親を亡くした場合には、きっと悲しみで相続までは気が回らないでしょうね。しかし相続税には申告期限があり、まず第一歩として死亡届の提出をしなければなりません。

 

死亡届の提出は7日以内に行う

死亡届は戸籍法に基づいて人の死を法的に認める手続きを言います。国内で亡くなった場合には、亡くなったことを知った日を含めて7日以内に市町村役場に提出します。届け出は代理人でも可能で、これにより火葬が可能になります。なお提出期限が過ぎた場合には、5万円以下の罰則が科される場合があるので速やかに届出を行いましょう。

相続人の確定(10日以内)と遺言書を確認しよう

相続人を確定するには、まず「被相続人の生まれてから亡くなるまで」の戸籍謄本を取得しなければなりません。戸籍謄本等は故人の本籍地の市町村役場で取得しますが、本籍地が遠方にある場合には郵送でも取得が可能です。しかし結婚や離婚・養子縁組を行い、本籍地が変わった場合には変更後の戸籍謄本しか入手できません。したがって以前の戸籍謄本は、前の本籍地の市町村役場で取得します。

被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を取ることにより、個人の家族関係を明らかにし、相続人を特定できます。戸籍謄本は、不動産の登記移転や預貯金の名義変更の際にも必要になります。被相続人がなくなったら、遺言書の有無を確認しなければなりません。遺言書により遺産分割の方法や受取人が変わる可能性があるからです。遺言書には「公正証書遺言」・「秘密証書遺言」・「自筆証書遺言」の3つがありますが、秘密証書遺言と自筆証書遺言の場合には、開封する前に家庭裁判所の検認の申し立てが必要です。

相続放棄と限定承認について

被相続人の財産を相続すると一切の権利義務は法定相続人がすべて承継することになります。しかし借金が多く相続した財産が、マイナスになる場合もあります。財産がマイナスになる場合には相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申し立てをすれば、借金を返済する義務はなくなります。相続放棄をすると、プラスの財産を相続する権利もなくなるので注意しなければなりません。

限定承認は、相続する遺産の範囲内で債務を負担し、財産が残れば相続できる制度。借金がいくらあるか不明な場合に有効な方法と言えるでしょう。ただし限定承認をするためには、相続人全員の合意のもとに申し立てをする必要があります。

故人の準確定申告について

確定申告をすべき人が年の途中で亡くなった場合、相続人が確定申告をしますが、これを準確定申告と言います。申告する所得がなかった場合には、準確定申告は不用です。納税すべき税額があり準確定申告をしなければならない場合は、相続開始から4ヵ月以内に行います。なお、還付の場合は4ヵ月以降でも可能です。

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不動産相続に必要な手続き②:遺産分割協議で遺産の分け方を確定させる

 

相続人が何人もいる場合や遺言がない場合には、どのようにして遺産分割したらよいのでしょうか?

 
 

その場合は相続人全員で遺産分割の協議を行い、分配方法を決めるんだよ。次に遺産分割協議について説明しよう。

 

相続人確定後は財産目録を作成する

まず被相続人が、どのような財産を残したが確認をする必要があります。その際プラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産もすべて把握しなければなりません。不動産については、権利証があれば確認ができますが、人に売却している場合もあるので登記簿謄本を取得するようにしましょう。財産目録は預貯金や不動産・負債などを一覧表にまとめて作成します。主な相続財産は次のようなものがあります。

相続財産
  • 預貯金・現金・小切手など
  • 株式・債権・貸付信託などの有価証券
  • 生命保険・個人年金・死亡退職金などのみなし財産
  • 土地や建物などの不動産
  • ゴルフ会員権や美術品・貴金属など換価価値のあるもの
  • 借金や貸付金

遺言がない場合に相続人で遺産分割協議を行う

遺言書があればそれにしたがって遺産の分割を行いますが遺言書がない場合や遺言書にない財産があった場合には遺産分割協議を行います。相続人全員の合意に達したら遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名・押印をします。全員が納得すれば、法定相続分や遺言内容と異なる割合で決めることも可能です。なお遺産分割協議は、相続人全員の合意がない場合には無効となります。

遺産分割が決まらない時は法律事務所や弁護士に相談しよう

遺産分割協議をしても話し合いがまとまらないことは多々あります。このような場合には、法律事務所や弁護士に相談し、家庭裁判所の調停や審判を仰がなければなりません。家庭裁判所では、調停委員が各相続人から話を聞き、裁判官が解決策を提示するなどして話し合いを行います。それでも調停がうまくいかなかった場合には、裁判所が分割方法を決定します。

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不動産相続に必要な手続き③:相続登記の申請

 

不動産を名義変更するには、どのようにしたらよいのでしょうか。

 
 

不動産を被相続人に名義変更することを相続登記と言うんだが、遺産分割協議を行った場合には必要書類として遺産分割協議書が必要なんだよ。

 

相続登記の前に遺産分割協議書を完成しておく

相続登記とは被相続人名義の不動産を相続人名義に変更する手続きを言います。相続登記をするためには、それ以前に相続人の間で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書が出来上がっていなければなりません。建物や土地などの不動産を相続する場合所有権の移転登記が必要で、これにより不動産に対する権利を公に主張できます。相続登記の書類は、市町村役場や法務局から何通も取り寄せなければならないので、早めに手配するようにしましょう。

法務局に相続登記申請しよう

相続登記は不動産がある管轄の法務局で行います。相続登記は既に述べたようにいつまでに行わなければならないという義務はありません。しかし不動産を売却する場合には相続登記をしておかないと売却できません。また登記をせずに放置しておくと、次の相続が発生した場合には被相続人の住民票などの書類が取りにくくなり、権利関係が不明確なため問題がおこる可能性があります。したがって相続が発生した場合には、できるだけ早く相続登記を申請した方が良いでしょう。なお不動産登記をするためには登録免許税がかかりますが、税額は固定資産税評価額に税率をかけて計算します。

    登録免許税=土地と建物の固定資産税評価額×0.4%(税率)

登録免許税は2022年3月31日までは免税措置があります。被相続人が土地の所有権移転登記を行っていなかった場合、相続人が名義変更する際の登録免許税は免除されます。また法務大臣が指定する土地で、不動産価額が10万円以下の土地にかかる登録免許税も、2022年3月31日までは免税となります。

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不動産相続に必要な手続き④:相続税の申告と納付を行う

 

相続税の申告と納付の手続きはどのようにしたらよいのでしょうか?

 
 

相続税は必要な書類を添えて、税務署に申告しなければならないね。被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内に行う必要があるが、書類も多いので早く準備したいね。

 

相続税の課税額を計算する方法

相続税の税額計算は単純に各相続人がもらった遺産の額に税率をかけて求めるのではなく複雑な計算により算出します。

1.まず対象となる遺産の合計額を計算します。

遺産合計額には、死亡保険金や生前贈与された財産も含め、借入金や債務・葬儀費用は差し引きます。

2.次に課税される遺産総額を計算します。

課税遺産総額は、遺産の合計額から基礎控除額を引いて算出します。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

3.次に相続人全員で納める相続税の総額を計算します

  実際にどう分配したかではなく民法の法定相続分の割合で仮の税額を求めます。

相続税額 =(相続財産の時価評価額−控除額)÷法定相続分× 税率) 

   ※法定相続分は、相続人により次のように決まっています。  

法定相続分
  • 配偶者と子ども…配偶者1/2、子ども1/2>
  • 配偶者と両親…配偶者2/3、両親1/3
  • 配偶者と兄弟姉妹…配偶者3/4、兄弟姉妹1/4

        ※相続税の税率は次表の通りです。

法定相続分に応じた取得額税率控除額
1,000万円以下10%
1,000万円超 3,000万円以下15%50万円
3,000万円超 5,000万円以下20%200万円
5,000万円超 1億円以下30%700万円
1億円超 2億円以下40%1,700万円
2億円超 3億円以下45%2,700万円
3億円超 6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

4.最後に相続人ごとの納付税額を計算します

相続人全員で支払う相続税の総額を、実際に遺産を分配した割合に応じて税額を決めます。

相続税申告書の作成と納付

相続税は「故人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月目の日」までに申告をしなければなりません。相続税の申告書と税金納付書は税務署でもらえますが、その際「相続の手引き」ももらっておくと便利です。申告書を作成したら必要な書類を添付して、被相続人管轄の税務署に申告します。申告は税務署窓口に持参しますが、郵送でも可能です。申告書を提出したら、金融機関に出向き納付書で納税すれば申告は終わります。

なお納期期限までに納付しないと、延滞税がかかることがありますので注意しなければなりません。また納付ができない場合には分割払いも可能なので、税務署に確認すると良いでしょう。

相続税の申告に必要な書類

相続税の申告な書類についてまとめると次のようになります

●身分関係を証明する書類

 ・被相続人…戸籍謄本・戸籍の附票・住民票の除票

 ・相続人全員…戸籍謄本・戸籍の附票・住民票、印鑑証明書・マイナンバーカードまたは通知書・身分を証明する書類のコピー

 

●不動産関係の書類

 ・登記事項証明書・固定資産税の評価証明書・実測図名寄帳など

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不動産の分割相続は4つの分け方がある

 

現金や預貯金は分けやすいですが、不動産はどのようにして相続したらよいのでしょうか?

 
 

不動産を相続する主な方法としては、現物分割・代償分割・換価分割・共有の4つがあるが、それについて説明しよう。

 

不動産を現物で相続する「現物分割」

現物分割とは遺産を現物のまま分割する方法です。そのまま分けるので手間はかからないのがメリットですが、公平に分割することが難しい場合もあります。

土地代金と不動産で分ける「代償分割」

代償分割は特定の相続人が不動産をそのまま相続し、代償として他の相続人には現金で支払うという方法。特定の相続人に不動産を相続させたい場合や、分割するのが難しいし場合に効果的な分割方法です。財産を公平に分けることができますが、不動産を受け継ぐ人が、代償として支払う現金を持っていることが必要です。

不動産売却で得た代金で分ける「換価分割」

換価分割は相続した不動産をそのまま売却し得られた現金を分配する方法です。不動産のままでは分割が難しい場合でも、現金にすれば分けやすくなります。相続人全員が納得できる売却額であることが必要ですが、誰も住む予定のない住宅などでは有効な方法といえます。

共有名義のままで分ける「共有」

共有は文字通り不動産を複数の相続人の共有名義にして相続する方法。しかし将来不動産を売却する場合には、共有名義人全員の同意が必要となるので、トラブルの元になりやすいというデメリットがあるのでおすすめできません。

相続登記にかかる費用とは?安くする方法や必要な書類、登録免許税と司法書士に依頼した方が良いケースについて

 まとめ

ある日突然に発生することが多い相続ですが相続税を納付するまでの時間は限られています。申告期限を過ぎてしまうと、延滞税が発生してしまうことも。そのためさまざまな不動産相続の手続きを、手際よくこなしていかねばなりません。この記事では不動産相続を初めて行う人のために、相続に必要な書類や期限・税金・費用などについて解説しました。相続を意識する年代に入った方は、いつ相続が起きても慌てないよう、あらかじめ相続の概要について知っておきましょう。