長期譲渡所得とはなにかわかりやすく解説!特別控除や税金の計算方法、相続時の判断について完全ガイド

この記事を書いた人
小島 優一
宅地建物取引士

宅地建物取引士、2級ファイナンシャルプランニング技能士。生命保険会社にてリテール業務に従事した後、2014年に不動産仲介会社であるグランドネクスト株式会社を設立。 2021年より幻冬舎ゴールドオンラインにて不動産を通じて財産を守る、増やす、残す記事を連載している。 >> 詳細はこちらから

この記事のざっくりしたポイント
  1. 長期所有は短期譲渡所得と比較して節税効果がある
  2. 相続の場合、短期的な売却でも被相続人の所有期間で長期譲渡としての税金が課税される
  3. 軽減税率が利用できると、長期譲渡所得の税率が1/2へと軽減される

不動産を売却する場合、支払わなければいけない税金として譲渡税があります。 不動産の売却は譲渡所得として見なされますので、譲渡税がかかるのです。この譲渡税は所有期間によって税率が変わります。

この記事では長期譲渡所得や短期譲渡所得の違いや、譲渡所得の計算方法、特例の活用方法などについて詳しく解説していきます。

 

知り合いが先日不動産を売却したときに譲渡所得が思った以上に高くて税金が随分高かったとボヤいてました。

 
 

不動産の売却時には、さまざまな税金が絡むことになりますので、どのような税金がかかるのかをしっかりと理解する必要があります。 特に譲渡所得に関しては注意が必要です。

 
 

なぜ注意が必要なのですか? 税率は売買金額によって変わったりするのでしょうか?

 

不動産の保有期間で譲渡所得の税率は変わります。 つまり短期譲渡なのか長期譲渡なのかで税率が大きく変わると考えてください。 また居住用として利用しているかどうかなどによって、控除が利用できたりします。

譲渡所得を減らすことで、譲渡税の軽減を図ることができます。 また赤字が出た場合は損益通算の対象ともなり、赤字処理することも可能です。

 

譲渡所得に関してわかりやすく知りたいですね。

 

 

長期譲渡所得とは

 土地や建物といった不動産を売却する場合は売却で得た金額は譲渡所得として取り扱われます。 これは車や金などの動産も売却した場合も対象です。 所有期間が5年を超えた不動産を売却した場合には長期譲渡所得として取り扱われます。

5年以上か5年以内かで判断されますが、それだけではない点で注意が必要です。 保有期間は売買があった日にちで計算されるのではありません。 不動産の譲渡があった年の1月1日時点が保有の始期となります。

長期譲渡所得に関わる不動産売却における所得税と住民税の税率を見てみましょう。

 所得税住民税
長期譲渡所得15.32%5%20.32%

MEMO
長期で保有していた不動産には課税譲渡所得金額にこれだけの税率がかかってきます。

長期譲渡所得と短期譲渡所得

保有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得として取り扱われます。 短期譲渡所得に関わる不動産売却における所得税と住民税の税率を見てみましょう。

 所得税住民税
短期譲渡所得30.63%9%39.63%

長期所得に関わる所得税、住民税が20%に対して短期譲渡所得は40%近い税金がかかってきます。 なぜ長期譲渡所得と短期譲渡所得でこれだけ税率が変わるのでしょうか?

これは短期的な保有期間での売却は投機的な意味合いで売却されることもあり、相場を逸脱した価格高騰の恐れが出てきます。 短期譲渡所得に関する税金を高くすることで投機的な取引を抑制するためでもあるのです。

譲渡所得にかかる所得税と住民税の計算方法

 

しかし、短期譲渡所得の税率は非常に高いですね。

 
 

そうですね。課税譲渡所得の4割弱ですからね。 しかし土地価格の急激な上昇を抑えるという点では仕方ないのかもしれません。

 
 

先ほどから課税譲渡所得という言葉が使われていますが、課税譲渡所得=売却代金ではないのですか?

 

そうではありません。譲渡所得の計算方法がありますので、計算に沿って課税譲渡所得金額を算出します。 課税譲渡所得は単純に売却金だけを表しているわけではありません。 取得費や譲渡費用などが売却金額から差し引かれます。

取得費や譲渡費用や短期譲渡所得と長期譲渡所得、それぞれの譲渡所得に関する計算方法などを詳しく解説します。

取得費や譲渡費用の基礎知識

短期譲渡所得も長期譲渡所得も課税譲渡所得の計算方法は同じです。 課税譲渡所得=売却金額-取得費+譲渡費用)-特別控除で算出します。 取得費とは売却した不動産を取得したときの費用です。 土地ならば購入費用、建物ならば建築費用が取得費にあたります。

しかし以前の契約書が無かったり、請負契約書が無かったりするかもしれません。 さらに土地の場合、先祖代々の土地だったりすると、購入代金はわかりません。 購入金額が分からない場合や、契約書など書面に残っているものがない場合は売却代金の5%が取得費として計算されます。

譲渡費用には不動産を売却する際に、かかる経費のことです。 仲介手数料や印紙税、解体して売り渡した場合は解体費などが譲渡費用にあたります。

MEMO
このような費用を差し引いた金額が課税譲渡所得となるのです。

長期譲渡所得にかかる税金の計算方法

長期譲渡所得の計算方法について例を挙げて計算していきましょう。

1,500万円で購入した土地を7年後に3,000万円で売却した場合の税金を計算します。 尚、譲渡費用は100万円とします。

この場合の計算方法は、以下となります。

S長期譲渡所得の計算方法
  • 3,000万円-(1500万円+100万円)=1,400万円(課税譲渡所得)
  • 所得税1,400万円×15.315%=214万円
  • 住民税1,400万円×5%=70万円

長期譲渡所得に関わる税金は214万円+70万円=314万円となります。

短期譲渡所得にかかる税金の計算方法

次に同じ事例で短期譲渡所得にかかる税金を計算してみましょう。

1,500万円で購入した土地を7年後に3,000万円で売却した場合の譲渡費用は100万円とします。

この場合の計算方法は、以下となります。

短期譲渡所得にかかる税金の計算方法
  • 3,000万円-(1500万円+100万円)=1,400万円(課税譲渡所得)*
  • 所得税1,400万円×30.63%=428万円
  • 住民税1,400万円×9%=126万円

短期譲渡所得に関わる税金は428万円+126万円=554万円となります。 *課税譲渡所得までは全く変わりがありません。

MEMO
同じケースでの売買事例においても短期譲渡所得と長期譲渡所得では、 554万円-314万円=240万円 と大きな差が出ることが分かります。

相続の場合、譲渡所得は5年超えかどうかで判断する

 

実際に計算してみても短期譲渡所得と長期譲渡所得では税金の額に大きな差が出ますね。

 
 

そうですね。できる限り長期保有で売却した方が、節税効果が見込めますね。

 
 

先ほどの説明で保有期間5年以上か5年以内で判断するとのことでしたが、例えば土地などの相続においても相続があった年から5年以下での売却は短期譲渡として見なされるのでしょうか?

 

土地などの不動産においては先祖代々の土地を引き継いだり実家を相続でもらったりする場合があります。 相続で土地などの不動産を引き継いだ場合、元の所有者が取得した日にさかのぼり所有期間とすることが可能です。

注意
ただし相続した土地がきちんと相続されていることが分からなければいけません。きちんと相続したときには相続登記をしておくことをこころがけておきましょう。

 

 

なぜ相続した土地は、さかのぼって所有期間が計算されるのでしょうか?

 
 

例えば、相続などで実家を引き継いでも、誰も住んでいない家ならば、早く処分したいところですよね。しかし、税金が足かせとなって不動産の流通に足かせになってはいけないので相続に限り 被相続人所有した日にちとさかのぼって所有することにしたのです。

 
 

税金が高いので空き家状態で維持していても、逆に建物が傷み不動産の流通にとってはマイナスになるのはやはり、食い止めたいというところでしょうね。

 

【所有期間10年超えのケース】長期譲渡所得で軽減税率の特例を受けよう!

不動産の所有期間が10年を超える場合、売却による軽減税率の特例を受けることもできます。 どのような軽減税率の特例を受けることができるのでしょうか? ただ10年を超えているだけでは軽減税率の対象にはなりません。 下記のような条件があります。

所有期間10年超えで軽減税率対象の条件
  1. 居住用不動産の売却
  2. 居住用不動産に住んでいない場合はすまなくなった日から3年目の12月31日までに売却できる
  3. 売却年の1月1日時点で所有期間が10年超であること
  4. 過去2年間においてこの特例を受けていない
  5. マイホーム買い換え特例などを受けていない
  6. 身内などの特別な関係にあたる人との売買ではない
  7. 確定申告が必要

このような条件を満たす方は軽減税率の特例を受けることができます。 譲渡所得が6,000万円以下の場合は長期譲渡所得に関わる税金が1/2に軽減されます。

譲渡所得が6,000万円を超える場合も6,000万円までの部分に関しては1/2に軽減されますので、条件を満たせば、軽減税税率の恩恵を受けることが可能です。

3,000万円の特別控除と併用も可能

マイホームに買い替え特例などを受けると軽減税率を利用することはできません。 しかし一般的に居住用不動産を売却する場合は3,000万円を控除できる特例があります。 3,000万円控除の特例は利用可能です。

MEMO
特別控除と軽減税率の利用によって大きな節税効果が見込めます。

特例を受けるために必要な書類と費用

軽減税率の適用を受けるための費用はどのくらいかかるのでしょうか?またどのような書類を集める必要があるのでしょうか? 基本的に特例を受けるための費用はかかりません 。 書類に関しては複数の書類が必要になります。

ここで、必要な書類をまとめました。

確定申告書売却時は必ず確定申告して必要です
分離課税申告書譲渡所得を分ける必要がある人
譲渡所得の内訳書売却した不動産の内訳を記入します
対象不動産の購入時の契約書購入時の契約書が必要です
対象不動産を売却時の契約書売却時の契約書が必要です
売却した不動産の
登記簿謄本
売却した不動産は全て必要です
領収書関係売却にかかった費用など領収書です。
戸籍の附票住民票の住所が売却不動産でない場合に必要です。

このような書類が必要ですが書類によってはどうしても見つからないものがあるかもしれません。 書類がどうしても見つからない場合は他のもので代替可能かどうか管轄の税務署に確認してみましょう。

まとめ

5年間保有しているのかいないのかによって長期譲渡所得と短期譲渡所得に分かれます。 長期譲渡所得と短期譲渡所得では住民税や所得税に大きな違いが出ますので、節税効果があるのは長期所有していた場合です。

これは投機的な売買を防ぎ不自然な不動産の高騰を防ぐために、長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率が2倍近く開いています。 しかし相続の場合に関しては被相続人が所有したときをカウントしますので、短期的な売却でも被相続人の所有期間で長期譲渡としての税金が課税されるのです。

これは実家などの不動産を相続した後に5年間も租税が高いと、空き家状態で放置される可能性があります。 不動産の流通をはかる点からも相続の場合は被相続人の所有始期日からカウントされるのです。

更に10年以上所有しているといくつかの条件はありますが軽減税率が利用できるケースがあります。 軽減税率が利用できると、長期譲渡所得の税率が1/2へと軽減されますので条件を満たしている場合は、ぜひとも特例を受けたいですね。