土地、不動産の買付証明書はキャンセルできる?理由も解説!

買付証明書はキャンセルできる?理由も解説!

この記事を書いた人
小島 優一
宅地建物取引士

宅地建物取引士、2級ファイナンシャルプランニング技能士。生命保険会社にてリテール業務に従事した後、2014年に不動産仲介会社であるグランドネクスト株式会社を設立。 2021年より幻冬舎ゴールドオンラインにて不動産を通じて財産を守る、増やす、残す記事を連載している。 >> 詳細はこちらから

この記事のまとめ
  1. 買付証明書は優先的に交渉権を得るための証明書
  2. 土地、不動産の買付証明書はキャンセルすることも可能
  3. 買付証明書を書いた上でキャンセルするときは必ず連絡を入れる

数字に追われている不動産営業担当者は、なんとしてもこの買付証明書を買主に書いてもらおうといろいろな話し方で説得をします。

「早く買わないとなくなってしまいますよ。物件をおさえるためには買付証明書を書いてください」と言われ、流されるままに書いてしまうパターンはよくあることです。

よく考えたら不安になってやっぱり取引自体をキャンセルしたいんですが…買付証明書をすでに書いてしまった場合どうなりますか?

事務員

浜崎編集長

結論から言うと、ほとんど全ての場合において費用負担なく土地や不動産の買付証明書はキャンセルできますよ。

ただ、買付証明書の特徴を正しく理解していなければ思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります

今回は、買付証明書をキャンセルする方法と注意点だけではなく、買付証明書の役割もあわせて解説していきます。

買付証明書のイメージ

                買付証明書イメージ

土地や不動産の買付証明書をキャンセルする理由

買付証明書をキャンセルする理由

買付証明書をキャンセルする理由
  1. 親から反対を受けた
  2. 他に気になる物件を見つけた
  3. 支払いに不安が出てきた
  4. 改めて確認すると周辺環境や駐車場が気になった

親から反対を受けた

不動産の購入は自分だけではなく、親や家族にも影響を与えることも多く、購入する際に家族に相談する方がほとんどです。

内覧しているときは、物件が魅力的に見え、支払いに関しても問題なく払えそうだと思い、営業担当者に背中を押されるままに買付証明書を書いて話を進める。けれども、親や周囲からの意見を聞いて冷静に考えると不安になり購入を取りやめるのはよくある話です。

他に気になる物件を見つけた

不動産屋は地域内の全ての不動産情報を取り扱っているわけではありません。紹介できる物件とできない物件があります。

そのため不動産屋に対して、「他に物件はありませんか?」と聞いて「他にはありませんよ」と言われたのを信じて買付証明書を書いたのに、帰り道にふと不動産情報を見ると、もっと良い不動産情報が掲載されていることも。そちらも見てから検討したいのでキャンセルなんてことも多々あります。

MEMO
不動産屋の「他に物件はありません」は「自分たちが取り扱える不動産の中にはありませんよ」と言っているだけに過ぎません。

支払いに不安が出てきた

支払いが家賃と同じ、もしくは家賃より低くても、高額な買い物で多額なローンを組む場合は大きな不安がつきまといます。

家に対する月々の支払いは同じでも、家が大きくなればその分だけ光熱費も上がり、賃貸では払う必要のなかった固定資産税などもかかります。冷静に生活費を考えた時に予算を超えてしまってキャンセルするといったケースもあります。

改めて確認すると周辺環境や駐車場が気になった

内覧に行ったときには気にならなくても、夜や早朝に行くと気になるといったケースもあります。通勤時間帯には、交通量が増加し危ないかったり夜は街灯が少なくて怖かったり等です。

浜崎編集長

不動産屋の車に乗って行ったため気にならなかったけれど、自分で駐車しようとすると狭そうといった理由からキャンセルしたい、そんな相談もあります。
買付証明書を書く理由
買付証明書はキャンセルできる?書く理由

物件の交渉権を優先的に得るため

不動産取引は一般的には先着順になることが通常ですが、後から良い条件の購入希望者が現れた場合は、そちらが優先になるケースもあります。

ただ取引の慣例では、先に買付証明書を記載した人に対して、後から交渉してきた人と同等以上の条件で購入意思があるかの意思確認が行われ、条件に同意した場合は、先に買付証明書を記載した方と売主は契約をすることになります。

価格、条件を交渉するため

不動産取引は、高額なため書面をもって交渉するのが一般的で、買付証明書に自分が希望する「金額」「引渡し時期」「手付金」「その他条件」を記載し交渉をします。

買付証明書と契約書の違い

買付証明書はキャンセル出来る?契約書の違い

買付証明書は、「買付(カイツケ)」や「購入申込書」といった呼び方をされる書類で、宅建業法にもその名称が出てきており、買付証明書は不動産取引における正式な書類として認識されています。

不動産取引における買付証明書は、先ほどの説明のとおり「購入したいという意思表示」とともに「売主に対して条件交渉を依頼する」役割を持っています。売買契約書は、不動産売買における条件を明記し、お互いに記載された条件で取引することを約束するための書類です。

買付証明書は、売買契約書と明確に役割を分けられており、例え自分の買付証明書に記載した希望条件を売主側が全て承諾したとしても、売買契約を交わすことをお互いに確約する書類ではありません

口約束でも契約になるって聞いたことがありますが、本当に大丈夫なの…?

事務員

浜崎編集長

不動産のように相当高額になる財産においては、口約束では契約を成立しないという判例が出ていますので安心してください。

民法では口約束も契約になると言われていますが…

民法では、一般的に口約束であっても契約は成立します。ただ、不動産取引のように高額で重要な財産を取引する場合、口約束だけでは不十分とされており、基本的に代金に関する合意だけではなく、約款を定め、手付金もしくは内金を授受した上で売買契約書を交わすのが慣行とされており、これらを実行することが売買契約の成立と判断するのが妥当だという見解が判例でも示されています。

(東京高判昭和50.6.30)

つまり、不動産取引においては少なくとも口約束だけでは売買契約は成立はしません。

ただ、お互いに契約をすることを信頼し、相当程度に話が進んだ場合においては、損害賠償請求が可能になるケースもあります。

あくまで損害賠償請求であって、契約書に記載される違約金の額を請求できるものではありません。また、契約をお互いに十分に確信できる状態になってからの損害のみを請求できるという特徴を持っています。

注意
そのため、ほとんどの場合において損害賠償を請求されることはありません。気軽に損害賠償が発生する可能性があると言ってくる不動産屋は、誠実ではない人か不動産取引に対して勉強不足と言えます。

買付証明書をキャンセルする方法は?

買付証明書をキャンセルする方法は?

買付証明書をキャンセル方法は極めてシンプルで、キャンセルしたいという連絡を不動産屋さんに入れるだけです。

そんなに簡単でいいの…?

事務員

浜崎編集長

もちろん一度は購入に向けた条件交渉の意思表示をした以上は何かしらの理由などを伝えることが望ましいですが、キャンセルするために特別に書類を交わさなければいけないということはありません。

買付証明書はいつまでキャンセルできる?

買付証明書はいつまでキャンセルできる?

買付証明書は、売買契約書に署名・捺印及び手付金を売主に預けるまでキャンセルすることができます。

宅建業法では、売買契約書を取り交わす前に必ず重要事項説明書の説明義務を宅地建物取引業者に課してます。重要事項説明書では、取引対象の不動産の法的な制限や注意事項などが記載されており、重要事項説明書の説明を聞いた結果キャンセルするといったケースも当然あります。

あくまで売買契約を交わす前に説明すればいいので、実務上においては、重要事項説明は売買契約の当日に説明されるケースがほとんどです。

MEMO
その場合、契約をするために売主さんも来ている前でキャンセルすることになりますが、法的にはこのタイミングであってもキャンセルが可能です。

不動産の売買契約にもクーリングオフがある

不動産の売買契約にもクーリングオフがある

さきほどは買付証明書のキャンセルの方法を書きましたが、すぐに契約する必要があると言われて、買付証明書を書いた当日に売買契約を交わすケースもあるかもしれません。

そんな方には、不動産取引にもクーリングオフが適用できる場合があります(宅建業法37条の2)。

誰でもクーリングオフできるんですか?

事務員

浜崎編集長

クーリングオフは、購入申込をした場所や売主が誰かなど特定の条件が揃うことで利用できます。

クーリングオフの利用には、売主が宅建業者でなければ利用できませんまた、買付申込書を記載した場所が宅建業者の事務所等以外である必要があります

買付証明書の記載や売買契約の締結が冷静な条件下にない場合に、一時的な感情で不動産のような高額な取引をしてしまった方を保護するための制度です。

戸建住宅や投資用物件を内覧し、そのまま話しやすい場所として近場の喫茶店を選ぶケースも少なくありません。

その際に、不動産屋さんが「すぐ買わないと売れてしまう」「同じような不動産はもう無い」「今なら特別に」と言葉巧みにその場で、勢いに任せて買付証明書を書かせようとしてきます。

そして、買付証明書を書いたらすぐにでも契約をするように迫られ、冷静に判断する間もなく売買契約を交わしてしまった。そんな時に利用できるのがクーリングオフで、売買契約を白紙解約することができます。

先ほどの条件に補足して、クーリングオフは適用除外があります。

適用除外となるケース
  1. 自宅、勤務場所で買付証明書を書くことを買主側から申し出た場合
  2. クーリングオフができる旨を伝えられてから8日を経過した場合
  3. 宅地または建物の引き渡しを受け、かつ全額の支払いを終えた場合

つまり、冷静に商談することができるであろう自分のパーソナルな場所を自分から提案した場合、クーリングオフができることを認識し冷静な判断期間が十分に経過した場合や、取引が終了している場合はできません。

仮に内覧した当日に売買契約を交わした場合でも、①の条件を満たすか、買付証明書および売買契約書の署名・捺印が宅建業者の事務所等に該当する場所で行った場合、クーリングオフはできないので注意が必要です。

たまに喫茶店で投資用物件の商談を見ますが、その場合クーリングオフできるということでしょうか?

事務員

浜崎編集長

大事なのは、商談をした場所ではなく、買付証明書を書いた場所です。喫茶店で商談していたとしても、買付証明書を事務所等で記載した場合は適用されません。

買付証明書をキャンセルするには費用がかかる?

不動産をおさえるために、売買契約前に申込金を支払うケースがあります。

MEMO
これはキャンセルする場合に返金されないという話が出てよくトラブルになる話を聞くのですが、買付証明書を取り上げる場合においてキャンセル料がかかることはありません。

特に売主が宅地建物取引業者である場合は厳しく法律で制限されており、申込金はいかなる場合でも返金しなければいけません。契約より前に預かったお金を返金しなければ、宅建業法違違反となり、行政より厳しい指導を受けることになりますので、返金しないということはできません。

買付証明書をキャンセルですると損害賠償請求される?

キャンセルで損害賠償請求される?

前述のとおり、買付証明書を提出してもキャンセルすることは可能です。

しかしながら、お互いに契約をすることを信頼し相当程度に話が進んだ場合においては、損害賠償請求が認められるケースもあります。

過去には、契約を前提として売主側が契約書の案を複数作成し提案していたり、排水管関係の工事を行うなどの契約準備をしている最中に、買主側が一方的にキャンセルを申し出た件では、損害賠償請求が認められたという事例もあります。

注意
買付証明書を提出する以上、買主として誠実に契約に向けた対応が求められるため注意が必要です。

申込金と手付金の違いは?

申込金と手付金の違いは?

申込金を手付金と勘違いされる方も中にはいらっしゃいますが、申込金は契約の前に預けるお金で、手付金は売買契約を交わす際に売主に預けるお金になります。

買主都合で売買契約を解除する場合には、手付金を放棄して契約を解除するケースはありますが、これはあくまで手付金として支払ったお金になります。

そもそも申込金は何のためにあるの?

ほとんど不動産屋さんの都合で行われています。

買付証明書を書く時にただ書類を書く場合と一緒に支払いをする場合では、購入の意思表示をする際の重みが異なります。

MEMO
申込金は取引をする際に法的に必要とされているものではありません。

買付証明書をキャンセルする際の注意点

買付証明書をキャンセルする際の注意点

必ず連絡を入れる

中には連絡もせず音信不通になる方もいますが、連絡を入れて正しくキャンセルするのが理想です。交渉を依頼した以上誠意をもって対応すべきというのもありますが、悪い噂は非常に出回りやすいです。

無連絡のキャンセルをした場合、その不動産屋、売主さんはこれ以降一切相談や交渉に乗ってくれなくでしょう。もし不動産業界内で悪い評判が出回れば他の不動産屋も話を聞いてくれなくなり、相談したくてもできないと言った事態になる可能性もあります。

特に何度もキャンセルを繰り返したり、キャンセル連絡をせずに音信不通になるのは避けた方がいいでしょう。

浜崎編集長

これは実際にあった話ですが、新築の建売戸建を購入しようとして何度もキャンセルを繰り返した人がいたのですが、その方は地域内の建売業者さんの間で有名になり、その人からの買付証明書は受け取らないとなり、気になった物件を購入できなくなった方もいます。

売主さんが遠方に住んでいる場合はなるべく早めに

売主さんが遠方に住んでおり飛行機や宿泊の手配が必要で、契約日までお互いに同意の上で確定した後にキャンセルした場合、売主さん側にキャンセル料が発生する場合があります。

注意
状況にもよりますが損害賠償の対象になる可能性があり、トラブルのもとになる可能性が高いため注意が必要です。

まとめ

不動産取引は、人生でそう何度も経験しないほどの高額な取引です。

しかし買う側の不動産に関する知識が不足していることで、その情報格差を利用したトラブルに巻き込まれる事例がしばしば散見されます。

知らないからこそ、いざキャンセルを希望しても「キャンセル料がかかる」「返金できない」「もう話がまとまっているのでキャンセル自体できない」など偽りの情報で強引に契約をまとめようとする悪質な不動産業者もいます。

浜崎編集長

そのため、不動産取引においては、「取引に対して情報が少ない人」「取引対象の不動産に対して情報が少ない人」を保護する法律が整備されています。特に情報を豊富に持っているであろう宅地建物取引業者を相手にした場合、そういった悪質な契約手法に対する裁判ではほとんどの場合において宅地建物取引業者が敗訴しています。

ただ、いくら法的に守られているとはいえ、不要なトラブルに巻き込まれないよう自衛することも大切です。

買付証明書を交わした後のキャンセルはできる限り避けるためにも、自分なりの購入基準をきっちり決めて満足のいく不動産に買付証明書を提出する。万が一キャンセルするのであれば必ず連絡をいれ誠実に対応することが重要です。