所有権移転登記とは?必要になるケースや書類、費用、流れについて

この記事を書いた人
平野 直樹
不動産コンサルタント・一級建築士

関西大学工学部卒業後、首都高速道路の設計や戸建設計など建設コンサルタントとして活躍。川を活かした街づくりや土地有効活用を掲げるシンクタンクを経た後、現在は有限会社エクセイト研究所の取締役を務める。 保有資格:1級建築士、1級土木施工管理技士、宅地建物取引士

この記事のざっくりしたポイント
  1. 所有権移転登記の手続きを放置し続けると、所有権を主張できなくなるといったトラブルに巻き込まれる可能性がある
  2. 速やかに移転登記手続きを済ませることが大切
  3. 土地・建物を売買や相続・贈与・財産分与を行ったケースで、所有権移転登記が必要となる

土地・建物を売買や相続・贈与・財産分与で入手した場合、管轄する法務局において所有権移転登記の手続きが必要になります。しかし登記手続きが面倒になり、放置してしまうこともあります。

「登記手続きを放置しているけれども大丈夫だろうか?」と安易に考えておられる方はいませんか?実は放置し続けると後日売却できなくなる可能性があります。多くの不動産に関する相談事や悩み事を解決してきた不動産コンサルタントが、所有権移転登記の概要や必要になるケース、必要な書類・費用、自分で行う場合の流れについて解説します。

所有権移転登記は迅速に行わないといけない必要性が理解できます。また資格が無くても移転登記をすることができ、その手続き方法について知ることができます。

所有権移転登記とは

所有権移転登記は土地・建物の売買や相続、贈与、財産分与によって、所有権が移転した場合に行う登記のことです。登記の種類や理由により登記申請書は異なります。

売買での所有権移転登記の場合には売主と買主との連名による登記申請書を、土地・建物が存する法務局へ提出します。添付書類として売買契約書のコピーや土地・建物の登記識別証明情報(権利証)、印鑑証明書、住民票などが必要になります。

相続での所有権移転登記の場合には相続人の連名による登記申請書を、土地・建物が存する法務局へ提出します。添付書類として売買の際に必要な書類以外に、戸籍謄本(被相続人・相続人)や遺産分割協議書(法定相続人全員の署名押印)、遺言書、家系図などが必要になります。不備なく登記申請が行われますと審査により登記が完了し、登記完了証や登記識別情報通知書が交付されます。

MEMO
現在、登記のDX(デジタル化)が進んでおり、オンラインでの申請が可能になりつつあります。

所有権移転登記が必要になるケース

 

所有権移転登記が必要になるのは、どの様なケースですか?

 
 

土地・建物を売買や相続・贈与・財産分与を行ったケースで、所有権移転登記が必要です。しかも速やかに手続きをした方が良策といえます。

 

売買:土地や建物を売却・購入したケース

土地や建物を売買した場合、売主から買主へ所有権移転登記が必要です。その際、売買取引の大半は不動産会社を通して成されます。売主と買主とが顔を合わせる機会は売買契約時と引渡し時のみとなる場合が多いです。売主側の心配点としては不動産を売却することにより、成約金額が手元に契約通りに入るのかという点です。最悪の場合、成約金額を支払われずに買主に移転登記される場合もあります。

一方、買主側の心配点としては不動産を購入することにより、不動産が契約通りに自身の名義になるのかという点です。最悪の場合、成約金額を支払ったにもかかわらず、買主の名義にならない場合や不動産会社が成約金額を持ち逃げする場合もあります。その様な心配点を払拭するために司法書士を活用します。通常、売主・買主は、不動産の引渡し時に売主・買主いずれかの金融機関取引先において、不動産会社・司法書士の立合いの元に最終確認が行われます。

MEMO
司法書士はその取引きを見届けた後に、売主・買主双方の了解の元、管轄法務局において移転登記を行います。

贈与:不動産所有者が不動産を分与するケース

親などの不動産所有者が存命中に子供などに不動産を分与した場合、所有権移転登記が必要です。注意点としては贈与者(譲った側)から不動産を贈与された場合、受贈者(譲られた側)が所有権移転登記をせずに放置するケースです。贈与者が、その間に亡くなり受贈者に兄弟がいる場合、兄弟にも相続の権利を主張することができます。

注意
不動産の名義が亡くなった贈与者のままの場合、話がスムーズにいかなくなる原因ともなります。

相続:不動産所有者が死亡して相続人となったケース

親などの不動産所有者が亡くなり不動産を相続した場合、所有権移転登記が必要です。相続の場合、所有権移転登記を放置していたとしても民法により法定相続分については所有権を保有できます。しかし所有権移転登記を放置したまま相続が発生しますと、さらにその法定相続人に所有権が移転します。複数の所有権を有する不動産の場合、売却しようとしても、所有権者全員の同意が必要となります。

注意
その際、法定相続人間の調整が不調になり売却できないといった事態に陥る可能性もあります。

財産分与:離婚等で不動産を分与するケース

離婚などで夫婦で築いた資産の中から不動産を分与する場合、所有権移転登記が必要です。離婚協議の結果、妻が土地・家屋を分与される場合、夫の名義のままで所有権移転登記を放置しますと妻は売却したくても売却できない事態となります。最悪の場合、夫が第三者に土地・家屋を売却し、第三者が所有権移転登記を済ませますと妻は所有権を主張できなくなる事態に陥ります。

所有権移転登記に必要な書類一覧

所有権移転登記を行う際、売買・相続・贈与・財産分与のそれぞれのケースで必要な書類は違います。共通して必要な書類と個別に必要な書類とに分けて解説します。

売買・相続・贈与・財産分与の所有権移転登記の場合、共通して必要な書類

必要な書類は以下により違います。

必要な書類の違い
  1. 売買の場合:売主と買主
  2. 贈与の場合:贈与者と受贈者
  3. 財産分与の場合:与える人と受ける人

それぞれ分けて下表にまとめます。

*1 買主が不動産購入のためにローンを利用する場合、抵当権設定登記に必要となります。

*2 登記識別情報通知書(権利証)記載の住所と現住所と異なる場合

*3 司法書士に依頼をする場合、本人確認のために必要となります。

*4 司法書士に依頼をする場合、代理手続きのために必要となります。書類は司法書士が準備します。

売買・相続・贈与・財産分与の所有権移転登記の場合に個別に必要な書類

個別に必要な書類を下表にまとめます。

*5 司法書士に依頼する場合、確認資料として必要になります。

*6 遺言書の有無や法定相続の場合など、相続形式により、必要書類は異なります。

*7 夫婦間において、どのように離婚の合意形成をしたかにより、必要書類は異なります。

所有権移転登記にかかる費用について

所有権移転登記にかかる費用は主に登録免許税・司法書士報酬・必要書類準備費用の3種類です。それぞれの費用について算出方法や目安を解説します。

登録免許税

不動産登記手続きの際、所有権移転登記の場合に限らず、登録免許税という国税がかかります。登録免許税の算出方法は該当する不動産の固定資産評価証明書に記載されている固定資産評価額や登記種類、登記理由により異なります。売買・相続・贈与・財産贈与のそれぞれの算出式を下記にします。

売買による所有権移転登記の登録免許税

売買による登録免許税の算出式は以下の通りです。

売買による登録免許税の算出式
  1. 土地の場合:固定資産税評価額(売買時の評価額)× 2% (*8)
  2. 建物の場合:固定資産税評価額(売買時の評価額)× 2% (*9)

*8 2021年3月31日までは1.5%となります。

*9 マイホーム、内法面積:50㎡以上などの一定要件を満たした建物の場合、0.3%となります。

相続による所有権移転登記の登録免許税

相続による登録免許税の算出式は、以下の通りです。

相続による登録免許税の算出式
  1. 土地の場合:固定資産税評価額(売買時の評価額)× 0.4%
  2. 建物の場合:固定資産税評価額(売買時の評価額)× 0.4%

贈与・財産分与による所有権移転登記の登録免許税

贈与・財産分与による登録免許税の算出式は、以下の通りです。

贈与・財産分与による登録免許税の算出式
  1. 土地の場合:固定資産税評価額(売買時の評価額)× 2%
  2. 建物の場合:固定資産税評価額(売買時の評価額)× 2%

司法書士報酬

司法書士に売買・相続・贈与・財産分与の登記手続きを依頼しますと、報酬を支払う必要があります。司法書士報酬額は特に規定がありませんので、司法書士がそれぞれ設定しています。登記理由により必要書類を揃える手間が違ってきますので、金額も異なります。下表は土地1筆、建物1棟を登記手続きした場合の司法書士報酬額の目安をまとめたものです。

*10 ローンを利用して購入した際、抵当権設定登記も含みます。

*11 遺産分割協議書などの書類作成費用も含みます。

*12 離婚協議書などの書類作成費用も含みます。

必要書類準備費用

必要書類として印鑑証明書・戸籍謄本・住民票などがありますが、本人が市区町村などで書類発行手続きをします。その手続き費用は市区町村により異なりますが、1通につき200円~750円となります。

MEMO
トータルの金額は必要とする人数に応じた書類数により異なります。

所有権移転登記を自分で行う流れ

所有権移転登記は資格が無くても手続きはできます。自身で所有権移転登記を行う場合の手続きと注意点について触れます。ここで自身で移転登記手続きができるのは、取引相手などの関係者間において信頼関係ができている場合に限られます。所有権移転の理由によっては関係者間で利害が生じ、スムーズにいかない可能性があります。その場合、自身で移転登記手続きをされることに対して反発され、必要書類を揃えることができなくなります。したがって移転登記手続きができなくなる事態に陥ります。

MEMO
関係者との良好な関係を築けていることが前提となることを心掛ける必要があります。

手続き1:法務局相談窓口で確認

移転登記をする土地・建物を管轄する法務局の相談窓口へ連絡し、手続き方法や申請書・必要書類の確認などを行います。法務局へ行って相談したい場合、日時・担当者の確認をして出向きます。

手続き2:申請書を入手

所有権移転登記の申請書は法務局のWEBサイトから登記の種類・理由ごとに分類されており、ダウンロードできます。「不動産登記の申請書様式について」を閲覧し、必要な申請書を入手します。

出典:法務局|「不動産登記の申請書様式について」

手続き3:必要書類入手

手続き1において法務局で確認した必要書類を揃えます。上記の表1、表2にも必要書類を掲載しています。取引相手の印鑑証明書は印鑑登録証カードや委任状が必要になります。戸籍謄本・住民票は委任状が必要になります。相手ともよくコミュニケーションを取り、納得していただいた上での手続きが必要です。

手続き4:申請書・必要書類を法務局へ提出

登記申請書を作成し必要書類も全て揃いましたら、法務局へ退出します。法務局は申請書・必要書類を受理しますと内容の審査を始めます。修正点のある場合や不足書類のある場合、申請者に連絡が入ります。法務局からの指摘事項に対応して、不備を解消します。

手続き5:登記完了証・登記識別情報通知書を受領

法務局での審査が終わり移転登記が完了しますと、登記完了証と登記識別情報通知書の交付があります。受取り方法は法務局窓口で受取る方法と、郵送で受取る方法があります。法務局窓口で受取る場合、申請書を提出した際に押印した印鑑と同じものと、運転免許証やマイナンバーカードなどの身分証明書の提示が必要になります。

郵送で受取る場合、返信料金分の切手を貼った返信封筒を申請時に同封し、その旨を窓口に申し入れしておけば、登記完了後に郵送してもらうことができます。窓口や郵送で受取る場合でも「土地・建物全部事項証明書」を同時に入手しておくと良いです。全ての登記記録が記載されていますので、所有権移転登記の内容を確認することができます。

MEMO
ただし土地1筆・建物1棟につき手数料600円程度(登記印紙添付)が必要になります。

まとめ

以上、所有権移転登記の概要や必要になるケース、必要な書類・費用、自分で行う場合の流れについて解説しました。所有権移転登記の手続きを放置し続けますと、所有権を主張できなくなるといったトラブルに巻き込まれる可能性があります。したがって速やかに移転登記手続きを済ませる必要があります。

また自身で所有権移転登記の手続きを行う場合、特に親族間の場合においては、日頃からのコミュニケーションなど、良好な関係を構築できているか否かがカギとなります。このことは司法書士に依頼する場合でも同じです。法定相続の場合には遺産分割協議書が必要になり、贈与の場合には贈与計画書が必要になります。

関係者間で揉めていますと必要書類の作成ができなくなり、所有権移転登記ができなくなります。将来、所有権移転の予定がある場合を想定して、関係者間で良好な関係を構築されることをお勧めいたします。