- 民泊には3つの種類がある
- それぞれによって営業できる日数や宿泊日数、注意すべき点が異なる
- マンションを利用する際は管理規約や容積率の確認が欠かせない
民泊ビジネスを始めてみたいと考えているものの「民泊の始め方がわからない」「賃貸や自宅を使って民泊はできるの?」といった悩みをお持ちの方も多いでしょう。民泊にはさまざまな種類があり、種類によって始め方・申請方法は異なります。
本記事では民泊の種類や始め方、必要な手続や民泊に利用できる建物などについて解説していきます。さらに「所有する物件で民泊を営業する」「物件を購入して民泊を営業する」といった、ケース別での始め方も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
民泊とは
民泊とは一般の個人民家に旅行者を宿泊させるサービスのこと。別名「バケーションレンタル」と呼ばれることもあり、主に一般住宅(戸建住宅・マンションなど)を旅行者に提供します。宿泊施設では味わえないその土地ならではの生活を体験できることや、宿泊施設よりも低価格で宿泊できるケースもあることから、人気が集まっているサービスです。
また少子高齢化による空き家の増加や、観光客へのさまざまなニーズに応えるためにも、民泊への期待が高まっているとも言われています。近年は「民泊施設を提供したい」という人と「民泊(宿泊)をしたい」という人同士をつなぐ、民泊仲介サイトも誕生しています。民泊仲介サイトなどを利用すれば、集客や運営にかかる負担も軽減されるでしょう。
民泊の種類
民泊には主に以下3つの種類があります。
- 旅館業民泊
- 特化民泊
- 新法民泊
種類によって遵守すべき法令や営業できる日数などが異なるため、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
旅館業民泊(簡易宿泊)
「旅館業民泊(簡易宿泊)」は営業日数に制限がなく、有料にて宿泊施設を提供できる民泊です。旅館業民泊を行うためには自治体の行政から旅館業を運営するための許可を得る必要があります。「住居専用地域では営業できない」といったルールや、使用する施設には最低床面積の規定などもあるため、許可を得るにはやや手間がかかってしまいます。
特区民泊
特区民泊とは国が指定する「国家戦略特区」という区域において、「民泊条例」を制定している地域で営業できるタイプの民泊を指します。「内閣府地方創生推進事務局」の資料によると、上記に当てはまり「特区民泊」を営業できるのは、以下7つの地域とされています。(2021年2月時点)
- 東京都:大田区
- 大阪府:大阪市
- 大阪府:八尾市
- 大阪府:寝屋川市
- 福岡県:北九州市
- 新潟県:新潟市
- 千葉県:千葉市
※参考:「内閣府地方創生推進事務局」の資料
特区民泊の場合は旅館業民泊(簡易宿泊)のように旅館業の許可を得る必要はありません。その代わりとして、行政からの認定を受ける必要があります。また1年間における営業日数の上限はありませんが、宿泊日数は「2泊3日以上」でなければなりません。旅館業民泊と比べて、営業できる地域や宿泊日数に制限はあるものの、その分営業を開始するまでのハードルが低い点がメリットと言えるでしょう。
新法民泊
新法民泊は別名「住宅宿泊事業」とも呼ばれており、都道府県等への届出を行うことで民泊を営業できます。旅館業の許可取得や認定が不要な上に、住居専用地域でも営業できることから、民泊を始めるハードルが低い種類と言えるでしょう。営業を始めるための届出書や民泊に使用する住宅の図面などの必要書類さえあれば、オンラインでの届出が可能です。
ただし1点注意しなければならないのは営業日数に制限があることです。旅館業民泊や特区民泊とは異なり、新法民泊には「年間の営業日数は180日以内」という制限があります。年間を通して民泊を営業することはできないため、大きな収益は期待しにくい点を理解しておきましょう。
民泊に利用できる建物
民泊を営業しようとしても必ずしもすべての建物が民泊に利用できるわけではありません。一般的に民泊に利用されている建物として、以下3つが挙げられます。
- 一軒家
- 一棟マンション
- マンション(一室)
「物件を購入したのに、いざ営業しようとしたら民泊の条件に合わなかった」という失敗を防ぐためにも、それぞれの特徴について見ていきましょう。
一軒家民泊
民泊で利用されることが多い建物として「一軒家」が挙げられます。一軒家が自身の持ち家である場合は、物件の管理者やオーナーに「民泊として使用していいか」といった許可を取る必要がありません。逆に賃貸の一軒家を利用する場合は、必ず物件の管理者に許可を取るようにしましょう。
一軒家は団体での旅行者や「ホテルなどの宿泊施設とは違った雰囲気を味わいたい」という旅行者からも、人気がある建物です。ただし一軒家を民泊として利用する際は近隣住民から「見慣れない人が出入りしている」と不審に思われる可能性もあるため、事前に説明しておくことをおすすめします。
一棟マンション民泊
保有している一棟マンション、または一棟マンションを購入する予定があれば、それらを民泊の営業に使用することもできます。マンションは部屋数が多いことから、人気のある立地であったり効果的な集客ができれば、大きな収益が期待できるでしょう。
マンションの一棟すべてが民泊施設となるため、一室を運用するよりも近隣住民(隣の号室の住民など)とのトラブルも発生しにくいです。また、不動産の中には民泊運用を想定した設計がされている一棟マンションや、アパートもあります。
一室マンション民泊
マンションの一室を民泊施設として運用することも可能ですが、一軒家や一棟マンションと比べると、運用するハードルは高いです。マンションの一室を民泊として利用するためには、用途変更の手続きが必要なほか、設備や規約に関するさまざまな条件を満たす必要があるからです。規約や条件面については、次の章で詳しく解説します。
また宿泊する旅行者のマナーが悪いと、マンション内の近隣住民からクレームが来る可能性があります。さらに不特定多数の人がマンションの一室に出入りすることで、不信感を与えることもあるため注意が必要です。
民泊物件が適法かどうか調べる必要がある
一軒家やマンションなどを民泊として利用する際は「物件が民泊利用に適しているか?」という点を確認する必要があります。民泊用の物件を選ぶ際は、以下3つの点に注意しながら選ぶと良いでしょう。
- 用途地域の確認
- マンションの場合は管理規約の確認
- 一棟マンションの場合は容積率の確認
用途地域の確認
民泊の物件選びで、まず確認しておきたいのが用途地域です。用途地域とは「工業」や「住居」など、建てられる物件の用途が決まっている地域のこと。指定された用途地域が守られないと、「住居」を用途としている地域に工場が建てられてしまい、騒音や排気ガスなどによって住民が迷惑してしまうでしょう。
同じように住宅や宿泊施設を建てられる地域でないと、民泊施設も建てられないことが考えられます。国土交通省の資料によると、用途地域には以下13の種類があります。
- 第一種低層住居地域
- 第二種低層住居地域
- 第一種中高層住居地域
- 第二種中高層住居地域
- 第一種住居地域
- 第二種住居地域
- 準住居地域
- 田園住居地域
- 近隣商業地域
- 商業地域
- 準工業地域
- 工業地域
- 工業専用地域
※参考:https://www.mlit.go.jp/common/000234474.pdf
上記のうち旅館業を目的とした宿泊施設を建てられるのは「5、6、7、9、10、11」にあたる地域だと言われています。ただし住宅を利用した「新法民泊(住宅宿泊事業)」を行う場合は、旅館業ではないため「13.工業専用地域」以外であれば営業できます。
マンションの場合は管理規約の確認
賃貸マンションやマンションの一室などを民泊として利用する場合、管理規約の確認が必要です。管理規約とは、簡単にいえば「マンションでの生活を快適に維持するためのルール」のこと。マンションによっては管理規約の中で「住宅以外の用途(民泊を含む)として使用することを禁止する」といった内容が記載されているケースがあります。
そのため物件の構造や用途地域などに問題がなかったとしても、管理規約次第では民泊としての利用ができないのです。またマンションの契約時には民泊の利用が禁止されていないものの、住民によるマンション総会の意思変更により民泊が禁止となる可能性もあります。契約しているマンションで民泊を始める際や民泊を目的としてマンションを契約する際には、必ず管理規約を確認しましょう。
一棟マンションの場合は容積率の確認
住宅用として利用しているマンションを民泊用の宿泊施設として利用するためには「用途変更」という手続きが必要です。用途変更の際には「容積率」が問題となるため、事前に確認する必要があります。容積率とは、マンションが建設されている敷地面積に対する、延床面積(建物における各フロアの床面積の合計)割合のこと。
マンションと宿泊施設とでは容積率を計算する際に対象となるエリアが異なります。たとえばマンションの容積率は、玄関や廊下、バルコニーやベランダなど、共有部分の床面積を除外した上で算出されます。しかし宿泊施設の場合は上記のような共有部分エリアの面積も、容積率の計算時に加算されるのです。
このことからマンションから宿泊施設への用途変更をする際に「宿泊施設として定められている容積率を超えている」という問題が起こる可能性があります。上記のような容積率の算出方法は、自治体によって異なるため「一棟マンションを民泊に利用したい」と考えているなら、事前に確認をしましょう。
営業日数と宿泊日数は民泊ビジネスを始める上で重要
民泊ビジネスを始める上で重要なのが宿泊日数と営業日数です。営業日数とは住宅などの民泊施設を提供(営業)できる日数のこと。一方で宿泊日数とは、その名の通り旅行者が宿泊する日数のことで「1泊2日」や「2泊3日」などがあります。上記の違いによって、期待できる収益や営業方針などが変わってきますので、しっかりと確認しておきましょう。
旅館業民泊と特区民泊には営業日数制限がない
記事の前半で紹介した「旅館業民泊」と「特区民泊」には、営業日数における制限はありません。営業するためには許可・認定を受ける必要がありますが、年間を通して営業できるため、場合によっては高い収益が狙えます。そのため、民泊ビジネスで本格的に収益をあげたい方には、上記2つの民泊がおすすめです。
新法民泊は営業日数上限が設けられている
主に住宅を活用する新法民泊の場合は年間の営業日数に「180日以内」という制限が設けられています。1年間を通しての営業はできないため、大きな収益は期待しにくいでしょう。その分許可や認定の必要がなく、届出を行うことで営業ができるため、比較的手軽に民泊を営業できるとも言えます。
旅館業民泊と新法民泊には宿泊日数制限がない
つぎに宿泊日数についてですが「旅館業民泊」と「新法民泊」には宿泊日数の制限は設けられていません。1泊2日から宿泊できるため、さまざまな旅行者を集客できるでしょう。特に旅館業民泊であれば、営業日数と宿泊日数のどちらも制限がなく、柔軟な営業方針を立てられます。
特区民泊には2泊3日以上という制限がある
特区民泊には営業日数の制限はないものの宿泊日数には「2泊3日以上」という制限があります。2泊未満(1泊2日)からの宿泊はできないため、注意が必要です。しかし営業日数には制限がなく、旅館業民泊と比べて手続きの手間が簡易的というメリットもあるため、自身の目的に合わせて検討しましょう。
【ケース別】民泊の始め方
民泊を始める場合、「所有している物件を利用するのか」「新しく物件を購入するのか」などによって、注意すべき点が異なります。ここでは、以下3つのケースごとに民泊の始め方を解説していきます。
- 所有している物件で民泊を始めるケース
- 新たに物件を購入して民泊を始めるケース
- 物件を貸し出して民泊を始めるケース
自身に当てはまるケースをご確認ください。
所有している物件で民泊を始めるケース
1つ目は自身が所有している住宅や空き家などを利用して、民泊を営業するケース。所有している物件を利用する際は、まずは用途地域を確認しましょう。確認を取り、以下いずれかの地域であれば「旅館業民泊」を営業できる可能性があります。
- 第一種住居地域
- 第二種住居地域
- 準住居地域
- 近隣商業地域
- 商業地域
- 準工業地域
上記には当てはまらないものの「新法民泊」を始めようと考えているなら、「工業専用地域」以外の用途地域であれば営業できるでしょう。所有している物件が「一軒家」の場合は問題ありませんが、「マンション」の場合は管理規約を確認する必要があります。管理規約にて民泊での利用が禁止されている場合は、残念ながら民泊を始めるのは難しいです。
所有する物件で営業する民泊の種類が決まったら、自治体に対して許可申請や届出を行います。また場合によっては旅行者に魅力を感じてもらうために、物件のリノベーションも検討しましょう。
新たに物件を購入して民泊を始めるケース
このケースで重要なのは物件の選び方です。目的に合った物件や地域を選べば、旅館業民泊や特区民泊、新法民泊など幅広く対応できるでしょう。物件購入でよくある失敗が「物件を購入したものの、民泊を営業する条件を満たしていなかった」という失敗。上記のような失敗を防ぐためにも、以下のような点に注意しながら購入する物件を選ぶと良いでしょう。
- 物件の用途地域
- 管理規約(マンションの場合)
- 容積率の算出方法(自治体により異なる)
- 自治体ごとの条例
不安な方は民泊を営業したい地域の自治体に、相談されることをおすすめします。
物件を貸し出して民泊を始めるケース
3つ目がすでに借りている物件を第三者に貸し出して民泊を始めるケース。物件を貸し出して民泊を始める場合は、自治体からの許可や認定に加えて、物件の管理者・オーナーからの承諾も必要になります。これまでのケースと同様に物件がマンションの場合は管理規約の確認も必須です。確認・承諾を得ないまま民泊を営業してしまうと、違法営業とみなされる可能性もあるため、関係者には必ず確認を行いましょう。
民泊を始めるために必要な手続き
民泊を始めるためには、具体的にどのような手続きが必要なのか。さいごに以下3種類の民泊における、必要な手続きについて解説していきます。
- 旅館業民泊(簡易宿泊)に必要な手続き
- 特区民泊に必要な手続き
- 新法民泊に必要な手続き
旅館業民泊(簡易宿泊)に必要な手続き
旅館業民泊は旅館業にあたるため自治体からの営業許可が必要です。民泊の営業であれば一般的には簡易宿所営業の許可を取得します。厚生労働省の資料によると、基本的な手続きの流れは以下の通りとされています。
- 事前相談
- 許可申請
- 施設検査
- 許可
- 営業開始
※参考:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000213163.pdf
手続きの流れや営業許可を得るための条件は自治体・都道府県によって異なるため、事前相談を行うケースが多いようです。許可申請を行うためには「許可申請書」や「営業施設の図面」などの書類に加えて、申請するための手数料がかかる点に注意しましょう。
申請を行ったら実際の物件に対して、施設の構造や設備などの確認が行われます。書類申請や施設検査などに問題がなく、営業の許可を得られれれば、民泊としての営業が開始できるようになります。自治体によって異なりますが、許可申請から許可を得るまでの期間は、おおよそ数週間程度とされているようです。
特区民泊に必要な手続き
前述したように特区民泊の営業が認められているのは以下の地域です。
- 東京都:大田区
- 大阪府:大阪市
- 大阪府:八尾市
- 大阪府:寝屋川市
- 福岡県:北九州市
- 新潟県:新潟市
- 千葉県:千葉市
それぞれの地域によって手続きや必要な書類は異なりますので、今回は「東京都:大田区」を例として手続きを解説します。「東京都:大田区」の場合は以下のような手続きの流れとなります。(2021年2月時点)
- 事前相談(生活衛生課)
- 消防署等の関係部署との調整
- 近隣住民への説明
- 認定申請・申請手数料(20,500円)の納付
- 書類審査・現地調査
- 認定(認定書交付)
- 営業開始
※参考:https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/hoken/eisei/riyoubiyou/tetuduki/kokkasenryakutokku.html
新法民泊に必要な手続き
新法民泊(住宅宿泊事業)の場合は許可や認定ではなく届出を行うことで、民泊としての営業が可能です。大まかな手続きの流れとしては、以下画像にもあるようにオンライン上で申請を行うことで、行政からの申請結果が届きます。
※画像引用:https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/procedure.html
届出は原則として政府が運営する「民泊制度運営システム」からオンライン上で行います。届出をする前には管理規約(マンションの場合)や、転貸の承諾を得ているか(物件を貸し出して民泊を始める場合)などを確認しておきましょう。また「民泊制度運営システム」の利用が初めての方は、最初に事業者登録を行う必要もあります。
まとめ
民泊には以下3つの種類があり、それぞれによって営業できる日数や宿泊日数、注意すべき点が異なります。
- 旅館業民泊(簡易宿泊)
- 特区民泊
- 新法民泊(住宅宿泊事業)
営業できる日数や宿泊日数などにより期待できる収益のレベルや営業方針も変わってくるため、営業する民泊の種類は慎重に選びましょう。民泊として利用する建物としては一軒家が一般的と言われていますが、マンションを利用することも可能です。マンションを利用する際は管理規約や容積率の確認が欠かせません。
民泊の始め方については「旅館業民泊(簡易宿泊)」や「特区民泊」を始める際は自治体からの許可・認定を得る必要があります。自治体によって手続きの流れが異なるため、まずは事前相談から始めると良いでしょう。