相続税対策の代表格といえば、アパートやマンションなどの賃貸経営があげられます。
2015年1月には税法が改正されて基礎控除額が引き下げられ、それまでは相続税の課税対象とならなかった人たちまでもが相続税のことを真剣に考える事態になりました。
国税庁は15日、2015年に亡くなった約129万人のうち、財産が相続税の課税対象となったのは前年比83%増の約10万3千人だったと発表した。対象となったのは8.0%と同3.6ポイント高まった。課税割合は現行の課税方式となった1958年以降で過去最高となった。
日本経済新聞より
相続税は相続財産から基礎控除と呼ばれる非課税枠を差し引いて計算する。15年1月から基礎控除が「5000万円+1000万円×法定相続人の数」から、「3000万円+600万円×法定相続人の数」に引き下げられた。このため課税対象者の裾野が広がった。
急に相続税のことを考え始めた人たちは「相続税対策といえば賃貸住宅」「30年一括借り上げがあるから安心」と王道の節税対策に走っていますが、実はそれこそ大きな落とし穴となるケースがあります。
いざ相続が発生したときにわずかばかりの節税ができて喜んでいるウラでは、相続ビジネスの仕掛け人たちのほうが大喜びをしているのかもしれません。
相続税対策でアパート建築を進めて、3つの罠にはまり後悔してしまうことのないよう、賃貸住宅の経営は本当に相続税対策になるのかを、過去の失敗事例を教訓に解説していきます。
相続税対策のアパートで悲惨な末路に!失敗のリスク
いまだに「相続税対策には賃貸住宅を経営するのがベストだ」とアドバイスする相続コンサルタントは山ほどいます。
最近記事になっていますが、特に地方銀行が「相続税対策には賃貸経営がおすすめですよ」と借入を勧めるケースもあります。
個人が建設する賃貸住宅への地方銀行の融資残高が、2017年3月末時点で前年比7.2%増の13.8兆円に膨らみ、日銀による09年の統計開始以降で最大となった。地方経済の縮小や超低金利で企業向け融資の収益が低迷する中、相続税対策のアパート建設などへの貸し出しを急増させているためだ。過剰融資が貸家の「建設バブル」を助長する懸念も出ている。
朝日新聞「 アパート融資の貸出残高最大 相続税対策に対応 」より
ところが、まるで「相続税対策=賃貸住宅」しか方法がないかのような口車に乗せられてしまうと、財産を遺すどころか子供の世代に爆弾を渡すことになってしまいます。
優先順位がおかしい!
本当に財産を遺したいと考えている被相続人のためを思っているのであれば、まず相続税対策で優先させるべきは「納税資金の確保」です。
いくら相続税額を減らす努力をしても、相続税を完全にカットできるわけではありません。
散財を繰り返して信用がない相続人であれば、わずか数十万円にまで圧縮できた相続税でさえも納税できないのです。
この資料をみると、不動産購入に踏み切った人の数はそう多くはありません。いくらメジャーな方法だといわれていても、実務では「誰でもするもの」と評価できるほどメジャーな方法でもないことがわかります。
そして、不動産購入に踏み切った人の割合よりも「まずは納税資金の確保を」と賢明な対策をとっている人の割合のほうが多いのです。
相続税対策を考えているという人に向かって結論ありきで「賃貸住宅を建てましょう」といきなり勧めてくるようなコンサルタントの言うことを信用するのはリスクが高いと不動産会社の目線では感じます。
賃貸住宅のリスクを無視して大失敗!
賃貸経営をすすめる相続コンサルタントは、まるで「賃貸住宅を建てさえすれば、一定の収入が安定的に得られる」かのように説明しますが、入居者がいなければ収入はゼロです。
不動産業者の中には、都心の駅近ワンルーム物件を引き合いに「当社の物件は平均空室率が5%以下です」なんてセールストークを使う業者もいますが、地方として立地が悪ければ空室率30%以上も珍しくありません。
昨今、不動産投資に新規参入する投資家が増え、コンサルティングやメンターなどの専門家にアドバイスをもらう人も増えているという。だが実際に不動産投資を行い、物件を運用していくのは、専門家ではなく投資家自身。もらったアドバイスを実践して成功すれば良いが、そんなことばかりでもないのがリアルな投資の世界である。今回、不動産コンサルなど専門家の意見を鵜呑みにして投資に失敗してしまった。
楽待「コンサル料に700万も払ったのに騙された!」より
ここで、実際に相続税対策として賃貸住宅に手を出し、失敗してしまったケースを例にあげましょう。
栃木県に住む地主のAさんは、アパート建設にちょうど良い広い土地を所有していました。
ただし、その土地は最寄りの駅から徒歩20分、スーパーやコンビニも徒歩では遠すぎで、お世辞にも便利だとはいえない条件でした。
それでも「広い土地を所有しているから、相続税対策をしないといけない」と、ネットで調べてコンタクトを取った相続コンサルに説得されて銀行から1億円の融資を受けてアパートを建設。
多額の融資を受けたとしても、アパートの評価額は3~4割程度になるので大幅な節税効果は受けられます。
そうです、ここまでの節税対策としては確かに成功しているのです。
ところが、いくら節税に成功していても空室率がなんと70%にまで達してしまってはアパート経営としては大失敗。
すでに住宅供給が飽和状態の現状では、立地条件が悪いアパートなんて空き室ばかりで銀行への返済に四苦八苦することになります。
当然、返済に窮してしまえば資産を切り崩すしかなく、せっかく確保していた自身の老後資金までも使い果たす結果になりました。
30年一括借り上げ家賃保証に注意!
相続税対策としてのアパート経営で、口をそろえてよく聞くのが、「家賃保証があるから大丈夫」「30年一括借り上げで安心」といった声です。
この制度を利用している場合、30年間不動産会社が家賃を保証してくる制度です。メリットは、入居者がいない状態でも不動産会社が借り上げてくれるため、家賃収入が必ず30年間途切れることなく入ってくることです。
一見、一定の収入が長期間安定して入ってくるように聞こえがちな良い保証ですが、実は落とし穴が。
家賃収入が継続的に続くことは保証してくれますが、「賃料」に関しての保証はしていないことです。通常は、2~3年程度に1回、家賃の見直しが行われます。
そこで空き室が続くような物件や、古くなってしまった物件などは、家賃設定を下げられてしまうリスクがあるんです。
節税対策で建てたものの、大きな収支は見込めず、むしろ現金で持っておいた方がお得になった、なんて話もちらほら。空き室にならないような地域を調査するなど、事前の調査が大変重要になってきます。
「賃貸住宅=節税」の構図をおさらいする
そもそも、なぜ猫も杓子も「賃貸住宅を建てることが相続税の節税につながる」と信じているのかの構図をおさらいしておきます。
ここに1億円があります。
この1億円を現金1億円のまま遺して死んでしまった場合、相続人は「1億円を相続した」と評価されて相続税の対象となります。
1億円も相続して儲かったのだから税金を納めなさい、という理屈ですね。
ところが、この1億円を使ってちょうど1億円の土地付き賃貸アパートを購入し、これを遺して死んだとすればどうなるでしょう?
アパートが建っている土地は貸家建付地となり時価の6~7割程度の評価、アパートの建物は貸家として時価の3~4割程度で評価されます。
トータルでみると、1億円の土地付きアパートは5000万円くらいの評価になります。
額面そのままの現金1億円と5000万円の価値しかないと評価される不動産、相続したらどちらが高い税金を納めることになりますか?
もちろん、現金1億円ですよね。
相続財産が多ければ相続税が高くなる、ごく当たり前のことだけど…
現金を不動産に転換して評価額を下げて相続財産が「少なかったように見せかける」これが賃貸住宅=節税の仕組みとなります。
賃貸住宅で相続税対策が成功する条件とは?
相続税対策のために自分の老後資金を使い切るなんて変な話ですね。
でもそれが相続コンサルの実態で、しかも銀行までそんな話を勧めてくるのだから一般の人は信じてしまうかもしれません。賃貸住宅が相続税対策になるのはその土地が賃貸経営に適している駅近の場合のみと考えてください。
賃貸住宅が相続税対策に功を奏するために必須の条件。それは「立地条件が良いこと」です。
こちらは不動産情報のポータルサイトSUUMOがおこなった「引っ越し・住み替えの実態調査」の結果です。家を探すときに重視するポイントを複数回答可で集計したところ、1位はやはり家賃。
しかし、2位に路線・エリア、3位に最寄駅までの時間、4位には通勤通学にかかる時間、7位に周辺環境がランクインしているとおり「どんな立地条件にあるのか?」は非常に重要。
逆をいえば、立地条件が悪いと入居者が極端に減ってしまい、賃貸経営は失敗します。
賃貸住宅が相続税対策になるのは「立地条件が良い場合」限定と考えるべし
いくら節税効果が高い方法だとしても、肝心の賃貸経営に失敗すれば自身の財産を目減りさせることは確実です。
「みんなやっているから」
「相続のプロがそう言うから」
と他人の情報を鵜呑みにしていると、目に見える節税効果よりも出費のほうが大きくなります。
立地条件が悪い土地で賃貸経営するくらいなら、思い切って土地を売却し、その分を生命保険など安定性が高くキャッシュフローが明確な相続方法に切り替えることをおすすめします。