セットバックとは?私道や買取、所有権、建ぺい率について

この記事を書いた人
小島 優一
宅地建物取引士

宅地建物取引士、2級ファイナンシャルプランニング技能士。生命保険会社にてリテール業務に従事した後、2014年に不動産仲介会社であるグランドネクスト株式会社を設立。 2021年より幻冬舎ゴールドオンラインにて不動産を通じて財産を守る、増やす、残す記事を連載している。 >> 詳細はこちらから

この記事のざっくりしたポイント
  1. セットバックは道路から建物を後退して建てること
  2. 建築基準法に合致しない道幅に面した物件は、セットバックをしなければ建物を建てられない
  3. セットバックは駐車場として基本利用できない

土地や住宅を購入しようと探しているときに「要セットバック」と注意書きがある安い物件を見て心を動かされたことはないでしょうか?

セットバックは道路から建物を後退して建てること、価格が安いのが魅力!

しかしセットバックについて十分理解して購入しないと、後で家を建てられないなど後悔することになるかもしれません!

不動産の購入は一生に一度か二度あるかの大きな買い物なので、慎重に検討したいものです。

そこでこの記事ではセットバックの内容や私道や買取・所有権・建ぺい率などさまざまな事項について解説をします。

セットバックとは

 

不動産会社の広告などで、要セットバックという言葉をよく見かけますが、セットバックとは何ですか?

 
 

セットバック(set-back)とは、英語で「後退」を意味し、建物を建てるときに道路から一定のルールに従って後退させることを言うんだよ。

 

建築基準法第43条によると建物を建てる場合には接道義務が定められていて、幅員4m以上の道路に2m以上接していなければなりません。

行政は防災面から道路の幅員は、消防車が走れるような広さを考えています。

1950年に建築基準法が施行されましたが、それ以前にできた古い街では幅員4m未満の道路も多く残っているのが現状です。

しかし直ちに狭い道路に面した建物を建築違反として取り壊すことはできません。そこで建物を建て替える際に、セットバックを求めることになります。

このように幅員が4mに満たない道路に面している土地を「要セットバック」と言い、道路から建物を後退して建てなければなりません。

セットバックした土地の所有権は誰のもの?

ではセットバックした土地は誰のものになるのでしょうか?

事務員

小島社長

基本的にセットバック部分の土地の所有権は変わりません。土地を購入する前であれば前所有者、購入後であれば手続き後は購入者のものになります。

セットバックした土地の所有権

上述したように、セットバックした部分の土地の所有権に変更はありません。

しかしセットバック部分の土地は道路となり、(制限はありますが)誰でも通行が可能になるため資産価値はなくなります。

そのため固定資産税の非課税対象となり、申告すれば固定資産税や都市計画税が免除されます。

MEMO
もしセットバックが必要な土地の購入を検討している場合は、事前に下調べをしなるべく早めに申請した方がいいでしょう。

セットバックの目的

 

なぜセットバックをしなければならないのでしょうか。

 
 

セットバックは、主に防災上の理由から行うんだよ。火災などの災害が起きたときに、消防車が通れないのでは災害が拡大する恐れがあるよね。道路の幅を確保するためにセットバックが必要なんだよ。

 

道幅の確保

建築基準法第43条では、既に述べたように建築物の接道義務について定められています。

これは火事などの災害が発生した場合に、消防車などの緊急自動車の通行がスムーズに通行できるよう道幅の確保を目的としています。

ただし次の条件に合致した道路については「みなし道路」または「2項道路」と呼ばれ救済措置が設けられています。

合致すべき条件
  1. 道路の幅が4m未満であること
  2. 建築基準法が制定される前に建てられた建物であること
  3. 特定行政庁の指定を受けた道路であること

しかしみなし道路に接している建物について建て替えを行う場合には、4mの道幅を確保するためにセットバックをしなければなりません。

セットバックを行った部分には建物を建てることはできないので、私道負担または敷地のセットバックとも言われます。

斜線制限緩和

建築基準法には道路斜線制限があり、道路の採光や通風を確保するために道路に面した建物の高さを制限しています。

道路斜線制限は道路の反対側の境界線から延ばした斜線より高く建ててはならない規制です。

ただし建物をセットバックさせ建築する場合には、道路斜線制限が緩和されます。道路の境界線からセットバックした分、反対側の境界線も同じ距離後退しているものとして制限が緩和されます。

これにより緩和された部分についての建物の建築が可能になります。

道路斜線制限とセットバックによる緩和措置を説明する図

出典:国土交通省 住宅団地の再生に関係する現行制度について

土地の価値も確保できる

道幅が狭いと家を建てることはできないので土地の評価は低くなります。

しかしセットバックを行うことにより建築も可能となるため、土地の価値は確保できます。

また広い道幅になれば車庫への出し入れや車のすれ違いもスムーズ、緊急自動車も楽に通行できます。これにより防災や街の景観もよくなるだけでなく、地域全体の評価も高められます。

セットバックの幅

 

セットバックと一口に言いますが、いくら家を建てるためといっても自分の敷地を削るのはだれでも嫌ですよね。どの程度セットバックしたらよいのでしょうか?

 
 

道路の反対側の条件によって、セットバックしなければならない幅も変わってくるんだよ。

 

一般的なセットバックの幅

道路の反対側にも住宅がある場合には道路の中心からそれぞれ等しい距離を分担しセットバックします。

例えば既存の道路幅が3mしかない場合には、敷地を1m削って4mの道路幅を確保しなければなりません。

したがってこの場合は、中心線からこちら側の敷地を50cm、向こう側の敷地を50cm削って4mの道路幅を確保する必要があります。なお道路が複雑な形の場合は必ずしも中心からそれぞれ2mではなく道路に接する人同士で話し合って決める場合も多くあります。

道路の向かい側が崖、川、線路等のセットバック幅

道路の向かい側が崖や川・線路等で、向かい側の土地を削ることができない場合があります。

この場合には手前側の土地だけを削って、4mの道路幅を確保しなければなりません。したがって3mの道路幅しかない場合には手前側を1m削ってセットバックする必要があります。

私道や広場に面するセットバック幅

建築基準法第43条では建築物の敷地は道路に2m以上の接することを義務づけています。

しかし建築基準法第43条第2項第2号で、交通上・安全上・防火上・及び衛生上支障がないと特定行政庁が判断した場合に、建築審査会の同意を得て許可されます。

  1. 敷地が幅員4m以上の道に2m以上の私道が接する建築物のうち、利用者が少数である場合
  2. 住宅のある土地の周囲に広場や公園などの広い土地がある場合

しかし建築基準法上の道路に接する部分がない場合や、間口が2m未満で上記第43条のただし書きを適用できない土地の場合には、建物を建てられません。

建物が建てられない土地については再建築不可と表記されているので購入に際しては注意する必要があります。

セットバックの費用と問題点

 

セットバックした敷地は買い上げてもらえるのでしょうか、それともすべて自己負担になるのでしょうか?

 
 

セットバックした道路は一般的に買い上げてもらうことは難しいね。しかし補助金が出るケースやセットバックした敷地は非課税の対象になるので忘れずに申告しよう。

 

セットバック部分は買い上げが難しい

セットバックした土地は自分の土地ではなくなるので買い上げてもらいたいのが人情ですよね。

しかし一般的には自治体が買い上げてくれることは難しいと言えます。

ただし自治体によっては、買取はしないが助成金を支払ってくれるケースもあります。一般的にセットバックした土地は私有地として所有するか、自治体に寄付するかどちらかになります。

寄付をする場合には、所有権を譲渡する旨の書類を提出する必要がありますが、通常役所が代行してくれます。

セットバックは補助金等あるが、自己負担の場合もある

セットバックする場合には測量費や調査費・舗装費用などが掛かりますが、これらの費用を補助してくれる自治体もあります。

積極的に街づくりを推進する自治体は補助金が出る可能性がありますが、消極的な自治体ではすべて自己負担になることも。

あらかじめ自治体や不動産会社などに問い合わせ、助成金や補助金の有無を確認しておいた方が良いでしょう。

セットバックの固定資産税は非課税申告が必要

セットバックした部分は道路として利用することになるので資産価値はなくなり、固定資産税の非課税対象になります。

非課税の適用を受けるためには申告をする必要がありますので、役所に問い合わせをするようにしましょう。

特に固定資産税評価額の高い土地ではセットバック部分の費用は大きくなるので、忘れずに申告しなければなりません。

もし申告を忘れると、多額の固定資産税を支払わなければならないことに。なお植木や室外機・自転車等を置いている場合や、門扉や車止めなど障害物を設置している場合には、非課税申告は認められません。

なお固定資産税非課税の適用を受けるためには、次のような書類が必要です。

必要な書類
  • 固定資産税非課税申告書
  • セットバック部分の面積が分かる測量図
  • 土地の謄本
  • その他役所が指定する書類

セットバックの注意点

 

セットバックをしなければならない場合の注意点を教えてください。

 
 

まず道幅が狭い土地は、セットバックを拒否しては建物を建てられないという点だね。ほかにも注意すべきことがあるので解説しよう。

 

セットバックは拒否できない

せっかく購入した土地はできれば削ることなく有効利用したいですよね。

しかしセットバックをしなければ建物を建てられない土地の場合、これを拒否して建築許可は与えられません。

建物を建てる際には地方自治体に建築確認を得る必要がありまが、建築基準法に抵触する場合には許可を得ることはできません。

MEMO
建築確認:建築物を建てる場合、建築設計や敷地配置などの計画を建築主事等に提出し、「建築計画が法令等に適合している」という確認を受けなければなりません。そのため建築確認を提出して「確認済証」が交付されない場合には、工事に着手できません。

建て替え時には建ぺい率や容積率も計算する

建ぺい率や容積率は敷地面積に対して、どの程度の大きさの建物が建てられるかを示す値です。

セットバック部分は敷地面積から除外しなければならないので、建ぺい率や容積率は小さくなり、建てられる建物も必然的に小さくなります。

物件購入の際にあらかじめ敷地面積と建ぺい率や容積率を確認しておかないと、当初計画していた大きさの建物を建てられなかったということもあり得ます。

MEMO
建ぺい率と容積率:周辺の日射や風通しを確保するために、建築基準法により敷地に対する建物の大きさの上限が決まっています。

建ぺい率:敷地面積に対する建築面積の割合のこと。

 建ぺい率=建築面積÷敷地面積×100

容積率:敷地面積に対する延床面積の割合です。

 容積率=延べ床面積÷敷地面積×100 

セットバックは駐車場として基本利用できない

セットバックした敷地は建築基準法上の道路とみなされるので、駐車場や物置・門・塀などを設置することはできません。

駐車場を設置する場合には、セットバック後の敷地面積内に作るようにしましょう。

セットバック済かどうか調べておこう

4m以下の道路幅に面した物件を購入する際にはセットバック済みかどうか確認しておく必要があります。

要セットバックとされている土地は、現在大きな建物が建っていても建て替えをするときには、小さな建物しか建てられない可能性があります。

したがって購入に際しては、建築基準法に合致した土地か、セットバック済みなのか調べておかねばなりません。

 まとめ

建築基準法に合致しない道幅に面した物件は、セットバックをしなければ建物を建てられません。

そのような土地に建築する場合には、セットバックする面積や建ぺい率・容積率を計算した上で建設計画を作る必要があります。

また購入に際しては建てられる建物が小さくなることや、売却が難しいなどの点も考慮する必要があるでしょう。