ペット可なのに苦情はアリ?ペットトラブルで警察に相談する場合や事例【弁護士が解説】

この記事のざっくりとしたポイント
  1. ペット可のマンションでの苦情とは?
  2. マンションでのペットトラブルは警察に相談してみる
  3. 悪質な場合は被害届を出したり告訴をするという手段も
  4. 警察以外の相談先は自治体の「衛生課」「動物愛護相談センター」などがある

少子化・晩婚化を背景としたペットブームの中、ペット可のマンションが増えています。

それに伴って、ペットに関するトラブルも増えており、国土交通省発表の平成30年度マンション総合調査結果によると、居住者間のマナーをめぐるトラブルのうちペット飼育は、生活音、違法駐車・違法駐輪に次いで第3位でした。

居住者間のマナーをめぐるトラブルの具体的内容の図

引用:国土交通省「平成 30 年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状

ペット可のマンションなのに苦情が出る場合があるのでしょうか。また、トラブルが生じた際にペットの飼主に直接苦情を言う以外にも、警察に相談することができる場合があります。

本記事では具体的な事例とその相談の仕方について解説していきます。

ペット可なのに苦情がきた!ペットトラブル事例

ペットトラブルの事例

マンションにおけるペットのトラブルはさまざまな形で発生する可能性があります。以下はよくあるトラブルの事例です。

放し飼い 

隣の住人が猫を放し飼いにしており、たびたびベランダから猫が入り込んできて困っている。

マンション等の集合住宅では猫を飼っている人も多いでしょう。猫については環境省告示の「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」において「室内飼育に努めること」とされています。

努力義務ではありますが、この規定を念頭に警察に相談するとよいでしょう。

MEMO

なお、飼い犬については放し飼いを行わないよう努めるべきとの内容が、同基準や動物愛護管理法、東京都であれば東京都動物の愛護及び管理に関する条例にも定められています。

吠え声・鳴き声

近所の犬が深夜や早朝に吠えるため、睡眠が妨げられて仕事に支障をきたしている。また、家の人が留守中のときには吠え続けるため(分離不安)、日中も落ち着かない。

東京都動物の愛護及び管理に関する条例も「異常な鳴き声」で人に迷惑をかけない旨の努力義務を規定しています。

さらに、軽犯罪法違反1条14号では、公務員の制止をきかずに大きな音などで静穏を害し近隣に迷惑をかけた場合は処罰対象となると規定しています。

生活騒音である飼い犬の鳴き声については、この規定に従って警察官などに制止してもらうことができます。




におい

ペットの糞尿をベランダに放置しており、窓や玄関、通気口から悪臭がただよってきて頭痛や吐き気がする。

東京都動物の愛護及び管理に関する条例で「汚物及び汚水を適正に処理」するよう努力義務が定められています。

注意

なお、悪臭については刑罰もある悪臭防止法がありますが、事業者だけを対象としており、個人は規制されていません。

ペットトラブルを警察に相談しても良い?

ペットトラブルを警察に相談しても良い?

警察というと犯罪捜査や逮捕といったイメージがあり、「ペットトラブルくらいで相談してよいのか」と戸惑うかもしれません。

警察活動には犯罪捜査を目的とする司法警察活動と、防犯や治安維持を目的とする行政警察活動の2種類があります。

犯罪が発生した場合だけではなく、事件・事故の防止や地域の安全や平穏を維持・回復するためにも警察は活動するのです。したがって、ペットトラブルについても警察に相談することができます。

態様については、訪問や電話による相談だけではなく、通報、被害届・告訴、そして告発があります

以下、具体的に見てみましょう。




警察に制止、注意して欲しい場合

警察に制止、注意してほしい場合

事件・事故ではないが、困っているので警察が制止してほしい、注意してほしいといった場合です。

相談の仕方

警察から飼い主に注意や制止をしてもらうためには、直接出向くか電話(#9110番)をして相談する、又は110番通報するという方法があります。

夜間の吠え声や鳴き声については、翌朝になると収まっている可能性があるので、緊急性があることを理由に110番通報するとよいでしょう

その際には、犬の飼主の住所と氏名と届出する人の住所と氏名、そして犬の吠え声がうるさいこと等を告げます。匿名で苦情を言って欲しいと希望することもできます。

それ以外の悪臭や飼い猫の徘徊については緊急性がないため、警察署に出向くか電話して相談することになります。

櫻井弁護士

警察は必要に応じて飼い主に注意等を行う場合もありますが、必ず行うわけではなく、また、注意した直後は収まるものの、時間がたつと再開することもあり、効果としては限定的です。



悪質な場合は被害届を出したり告訴することができる

悪質な場合は被害届を出したり告訴することができる

健康被害や物損等の具体的な被害にあっている場合には、上記の相談・通報以外にも警察へ被害届の提出や告訴することができます。

咬みつき

リードを付けずにマンション敷地内を散歩していた飼い犬が、別の住人の子どもを咬んでケガをさせた。

リードを付けない、オリに施錠しない等、ペットを管理する上で過失(故意がないこと)が認められる場合には、過失傷害罪が成立します30万円以下の罰金又は科料)。

嫌がらせ 

日頃から折り合いの悪い隣の住人が、嫌がらせ目的でベランダにペットの糞尿を放置したため、頭痛やめまいなどの健康被害が生じた。

故意に他人に悪臭を嗅がせたり大きな音を鳴らし続けたりした結果、その人が病気になった場合には傷害罪が成立します(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。

被害届けの出し方、告訴の仕方

被害届はどうやって出せばいいのでしょうか?

相談者

櫻井弁護士

被害届は警察署又は交番に提出します。告訴は口頭でも可能ですが、通常は警察署に所定の書面を作成して提出します。いずれも、加害者および被害者の氏名や住所、被害時の状況や被害内容等を記載し、診断書等の資料等も併せて提出します。
注意

被害届では「被害に遭ったこと」を報告するだけで、実際に捜査するかどうか捜査機関に委ねられており、必ずしも捜査されるわけではありません。

これに対して告訴は、被害者等が犯罪事実を申告すると同時に、加害者の処罰を求める行為ですしたがって、告訴が受理されれば必ず捜査が行われることになります。

そのため、受理は厳格に行われており実際には犯罪事実の特定を欠くこと等を理由に不受理となるケースが多くあります。




被害を受けていなくても告発できる

被害を受けていなくても告発できる

自分に被害が発生していなくても、犯罪事実を告発することができます。

動物虐待

ペットを殴ったり、蹴ったりするような積極的な加害行為、あるいは、餌を与えなかったり、必要な世話をしなかったり等のネグレクトが認められる。

動物愛護法により、動物を殺したり、傷つけたりした場合には2年以下の懲役又は200万円以下の罰金、必要な世話を行わないネグレクトによる虐待を行った場合は100万円以下の罰金、さらに動物を遺棄した場合には100万円以下の罰金が科されます。

特定動物の飼養

隣の住人が無許可でワニガメを飼っている。

動物愛護管理法では、ワニガメを含め約650種の特定動物が指定されています。

特定動物の飼養については都道府県知事又は政令市の長の許可が必要であり、無許可飼養等は、6ヶ月以下の懲役又は100万円以下の罰金の対象です。

告発の仕方

告訴の仕方と同じですが、告訴と異なり、犯罪の被害者でなくても告発することができます。




ペットトラブルを弁護士に相談できる

ペットトラブルを弁護士に相談できる

ペットトラブルは警察以外にも相談できます。

警察以外の行政

他にはどういったところが対応してくれるのでしょうか?

相談者

櫻井弁護士

居住地を管轄する「衛生課」や「動物愛護相談センター」では、ペットトラブルに関する相談を受け付けており、不適切な飼い方をしている飼い主には直接指導も行い、従わない場合には罰則が適用されることがあります。

不動産管理会社、管理組合

苦情を訴える住人が複数いる場合には、不動産管理会社や管理組合に相談するのもよいでしょう。

共用部分に注意喚起の張り紙を行ったり、飼い主である住民に注意したりすることもあります。

弁護士

弁護士といえば「裁判」というイメージですが、ペットトラブルも取り扱ってくれるんですか?

相談者

櫻井弁護士

もちろん、身近なトラブルについてもスマートな解決が期待できます。特にペットトラブルでは、飼い主とは「近隣住人である」との接点しかなく、相手の真意やこちらが行動に出たときの反応に予想がつきません。そのような状況で、いきなり警察に告訴・告発したり、行政や管理会社等を巻き込んだりして、紛争を顕在化させることが得策ではないでしょう。

まずは、刺激がより少ない交渉から始め、それが駄目なら行政相談、そして民事調停、さらには刑事告訴・告発、民事訴訟というように段階的に強硬な手段を選択していくことをお勧めします。

櫻井弁護士

れらの手段選択や交渉に臨むための注意事項、必要な資料等を、弁護士にご相談いただければと思います。初期段階から弁護士が関与することで、激しい感情的対立を防ぎ、かつ、円滑な被害回復が実現するはずです。

まとめ

ペットトラブルを警察に相談することはできますが、根本的な解決は難しいかもしれません。

より迅速に、そして柔軟に、実効的な解決を望む場合には、弁護士に相談することもご検討ください。