親族間売買のみなし贈与の判例は?司法書士への依頼は必要か【弁護士が解説】

この記事のざっくりとしたポイント
  1. 親族間売買のみなし贈与の判例はある?
  2. 適正価格で取引することが重要
  3. 売買契約書は司法書士に任せると安心

Aさん(30歳:会社員)は、会社経営をしている父からマンションを購入しました。売買取引の形にしたのは、贈与税対策のためです。
売却益が出ると父に税金がかかるということなので、相場価格よりもかなり安い額で売買取引をし、安くしてもらった分は、今後何らかの形で支払う約束をしました。
しかし、しばらくしてAさんのところに税務署から思わぬ贈与税の納税通知が届いたのです

父からマンションを購入したAさんは贈与税を支払うことになってしまいました。

 
Aさんは贈与にならないようにするために売買取引をしたんですよね?
 
 
不動産の親族間売買では、Aさんのように工夫をしても贈与税が発生することがあるため注意が必要です。
 

この記事では、親族間売買のメリットやデメリットなどについて説明します。

またみなし贈与の判例についても軽く触れていきますので、不動産の親族間売買を検討している人は、ぜひ参考にしてください。

不動産の親族間売買とは?

不動産の親族間売買とは?

まず、不動産の親族間売買とはどのような取引なのか、メリットやデメリットなどをわかりやすく説明します。

親族売買とその範囲について

不動産取引における親族間取引とは、親子や兄弟、親戚といった親族関係者同士で売買や譲渡といった取引することを指します。

民法上の親族の範囲は、6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族ですが、不動産の親族間売買の範囲としては明確に定められていません。

 
ただし、マイホームを売却した際の3,000万円の特別控除などは、直系親族や生計を共にする親族間での売買には適用できないことになっており、その範囲は明確に定められています。
 

Aさんのケースのように親族間売買の問題で多いのは、後ほど詳しく説明する「みなし贈与」が発生しているかどうかです。

親族間以外の取引でもみなし贈与とされることもありますが、親族間で特に多いため税務署のチェックが厳しくなります。

親族間売買のメリット

親族間売買のメリット

親族間売買をすることでどういったメリットがあるのでしょうか。以下で解説します。

親族間売買のメリット
  1. 信頼関係がすでに構築されている
  2. 仲介手数料を節約できる

①信頼関係がすでに構築されている

不動産を親族間で売買するメリットとしてまず挙げられるのは、お互いの信頼関係がすでにある点です。

買主を広く募る場合とは異なり、取引相手がどのような人物かがわかっているため安心して取引できます。

②仲介手数料を節約できる

また、親族間売買の場合、取引の仲介に不動産会社が入らない場合も多いです。そのため、仲介で売買した際に必要となる仲介手数料(400万円を超える取引の場合、取引額の3%+消費税が仲介手数料の上限額)を節約することができます。

親族間売買のデメリット

親族間売買のデメリット

親族間売買のデメリットは、メリットと表裏一体です。デメリットとしては下記の3点が挙げられます。

親族間取売買のデメリット
  1. 契約書の作成がおざなりになる
  2. 税制上の優遇が受けられない場合がある
  3. 重要事項説明書がない

①契約書の作成がおざなりになる

既知の関係であるがために、取引内容の取り決めが曖昧になってしまったり、契約書の作成がおざなりになってしまったりする点がデメリットだと言えます。

②税制上の優遇が受けられない場合がある

売買の場合、Aさんのように売却額によってはみなし贈与になる恐れにも注意が必要です。

また先に述べた通り、親族間売買の場合、3000万円の特別控除など税制上の優遇を受けられない場合があります。

③重要事項説明書がない

さらに、不動産会社を介さずに契約した場合、重要事項説明書がないため、住宅ローンの審査に通りにくいという点もデメリットだと言えるでしょう。

 
重要事項説明書だけを不動産会社に作成してもらうことも可能ですが報酬が必要です。
 

親族間売買のみなし贈与とは?

親族間売買のみなし贈与とは?

Aさんのように、売買取引をしたにもかかわらず、税務署から贈与とみなされて贈与税が課せられるのが「みなし贈与」です。

ここでは、みなし贈与についての仕組みや対処方法などについて説明します。

取引額が安すぎると贈与税がかかる

親族間で不動産を売買取引した際に、取引額が相場価格よりも安すぎると、みなし贈与とされる場合が多いです。

 
相場価格からどれくらいまでの価格であれば、みなし贈与とされないのですか?
 
 
明確な基準は特に設けられていません。国税庁によると「著しく低い価額の対価であるかどうかは、個々の具体的事案に基づき判定する」とされているだけなので、具体的な金額はわからないのです。
 

税務署に隠しておくことはできない

 
税務署に見つからなければ大丈夫じゃないですか?
 
 
いいえ、法務局の登記情報を調べることで、税務署は不動産の所有者移転状況を把握することが可能です。そのため、税務署に安い価格で売買したことを隠しておくことはできません。
 

贈与より売却の方が得になる?

Aさんの父が心配していたように、不動産の売却によって利益を得た場合は、その利益に対して譲渡所得税が課せられます。

居住用の不動産(マイホーム)を売却した場合に適用できる3,000万円の特別控除が親族間では適用できないため、譲渡所得税がかかる可能性が高くなります。

 
つまり、贈与税と譲渡所得税どちらを払う方がお得なんですか?
 
 
不動産の購入額や取引額にもよりますが、贈与税のほうが譲渡所得税よりも高くなる場合が多いようです。
 

贈与か親族間売買かで迷った場合は、税理士に相談するなどして、どちらの税金が安くなるかを試算してみることをおすすめします。

親族間売買のみなし贈与の判例は

親族間売買のみなし贈与の判例は

不動産の親族間売買のみなし贈与では、過去の判例からすると相場価格の8割程度であれば贈与と見なされにくいようです。

MEMO
みなし贈与とされないためには、相場価格の8割以上の額で取引すると安心です。

親族間売買は適正価格で取引する

親族間売買は適正価格で取引する

ここでは、親族間売買で失敗しないための注意点を説明します。

税金や仲介手数料を節約しようとして売買取引をしたにも関わらず、思わぬ贈与税を課せられることのないよう、しっかりと確認しておきましょう。

 
みなし贈与とされないためにはどこに気を付けて親族間売買すべきですか?
 
 
やはり相場価格に沿った適正価格で取引することが大切ですね。
 

親族間売買の適正価格は、不動産会社や不動産鑑定士に依頼するほか、土地であれば路線価で調べることもできます。なぜなら、路線価は公示地価の8割に設定されているからです。

MEMO
みなし贈与とされない価格で取引するためにも、相場価格をあらかじめきちんと調べておくことをおすすめします。

親族間の売買契約書を司法書士に依頼すべきか

親族間の売買契約書を司法書士に依頼すべきか

不動産の親族間売買では、契約内容が曖昧になることが多いです。信頼関係の有無に関わらず、売買契約書はきちんと作成しておくべきです。

 
売買契約書なんて作ったことがありません。素人でも作成できますか?
 
 
ええ。ひな形はインターネット上のさまざまなサイトからダウンロードできます。
 

ただし、法的な専門家の助けを得ずに契約書を作成する際は、誤解や不足が生じる可能性があるため注意が必要です。

作成が不安な場合は不動産会社や弁護士、司法書士などに相談や依頼をするのもおすすめです。

住宅ローンが利用できなければ分割払いで

住宅ローンが利用できなければ分割払いで

親族間売買で住宅ローンが利用できない場合は、売主と買主とで相談して合意すれば分割払にすることも可能です

売買契約書の支払い方法に、分割で支払う旨を記載しておきます。

注意
ただし、分割払いの場合は、利息もきちんと取り決めておかないと贈与税が課せられる恐れがあるので注意が必要です。

まとめ

不動産の親族間売買には、メリットがありますがデメリットもあります。その一つが、みなし贈与です。

売買取引をしたにもかかわらず、あとから贈与税が課されるといった事態に陥らないためにも、親族間売買の際は相場価格に沿った適正価格で売買するようにしましょう。