この記事のざっくりしたポイント
- 越境物の覚書のメリット・デメリットを解説
- 覚書は拒否できる?拒否された場合の対処法とは
- 覚書が無いと住宅ローンで不利になる可能性も
越境物の覚書とは
越境物の覚書とは、隣地との間に越境物がある場合に、その解決方法についてお互いが合意した内容を書面化したものです。ここでは越境物の覚書が持つ効力や記載すべき内容を解説します。そもそも越境物とは
そもそも越境物とは、隣り合った土地の境界をまたいで存在する構造物などをいいます。越境物には、たとえば以下のようなものがあります。| 地上越境物 | 建物・ブロック塀・植栽など |
| 地中越境物 | 基礎・給排水管など |
| 空中越境物 | 樹木の枝・電線・雨樋・庇など |
地上のものだけでなく、地中や空中にあるものも越境物になるのですか?
事務員
櫻井弁護士
民法上、土地の所有権は上空にも地下にもおよぶとされています(民法207条 土地所有権の範囲)。そのため、地中や空中にも越境の問題が生じるのです。
越境物の覚書が持つ効力
越境物の覚書にはさまざまな効力があります。まず、それぞれが署名・押印した覚書の存在は、お互いに越境物があることを認め、解決方法に対して納得している証明になります。そのため現在はもちろん、将来的にも隣地所有者とのトラブルを防ぐ手段として有効です。また、「取得時効(民法162条)」を更新させる効力もあります。取得時効とは何ですか?
事務員
櫻井弁護士
取得時効とは、所有の意志を持って10年または20年占有していた物の所有権を取得できる制度です。覚書を交わすことで進行していた時効が止まり、土地を失うことを回避できます。
越境物の覚書に記載すべき内容
越境物の覚書に記載すべき内容は以下のとおりです。越境物の覚書に記載すべき内容
- 越境が生じていること
- 越境物の詳細
- 越境の状態をお互いが確認したこと
- 越境物の所有者はどちらか
- 一定のタイミングで撤去や移動を行うこと
- 越境されている側の土地所有者は、5で定めたタイミングまで撤去を保留すること
- 土地の所有者が変わる場合は、次の所有者に覚書を継承すること
越境物の覚書に関するデメリットとメリット
土地に越境物がある場合、そのまま放置しておくことは危険です。ここでは、越境物の覚書を作成しないデメリットと作成するメリットについて解説します。越境物の覚書を作成しないデメリット
越境物の覚書を作成しないデメリットは以下のとおりです。越境物の覚書を作成しないデメリット
- 不動産としての価値が下がる
- 売買契約自体が白紙になることがある
- 越境部分を時効取得される可能性がある
不動産としての価値が下がる
越境物の覚書がないことで、なぜ不動産の価値が下がるのですか?
事務員
櫻井弁護士
購入後トラブルが起きる、もしくはすでにトラブルになっていると思われるためです。越境物があるとわかったら、越境物を取り除くか覚書を作成する必要があります。
売買契約自体が白紙になることがある
越境物の覚書がないという理由で、契約自体が白紙になることもあります。越境物があっても、買主がよいといえば売却は可能です。しかしトラブルになることが目に見えている不動産など、高いお金を払ってまで購入したいとはあまり思わないでしょう。すぐに越境が解消できない場合でも、覚書があれば契約解除を回避できる可能性があります。越境部分を時効取得される可能性がある
前述のとおり、隣地から長年越境されていると、取得時効によって越境部分の土地を取られてしまう可能性があります。自分の土地であると思い込んでいる場合は10年、自分の土地ではないと知っていた場合でも20年占有を続けると時効は完成します。時効が完成すると所有権は隣地所有者に移り、土地の分筆や所有権移転登記を求められるおそれがあります。しかし、越境物の覚書を交わすことは民法第152条でいう「権利の承認」にあたるため、時効の進行は止められます。注意
土地を取られないためには、覚書が重要であるといえるでしょう。越境物の覚書を作成するメリット
越境物の覚書を作成するメリットは以下のとおりです。越境物の覚書を作成するメリット
- 隣地所有者との将来的なトラブルを防げる
- 越境物があっても買主が見つかりやすくなる
- 買主が住宅ローンに通りやすくなる
隣地所有者との将来的なトラブルを防げる
越境物の覚書によって、隣地所有者との将来的なトラブルを防げます。自分と隣地所有者間のトラブルだけでなく、買主と隣地所有者間で将来起きる可能性のあるトラブルについても有効です。また、売買時に買主に対して越境について説明をしなかった場合や説明しても不十分で買主が越境を認識できていなかった場合、売主が買主から説明義務違反があったとして損害賠償請求されるおそれもあります。MEMO
当事者全員が越境について正しく理解し覚書を交わすことで、上記のようなリスクは避けられます。越境物があっても買主が見つかりやすくなる
越境物があっても、買主が見つかりやすくなります。覚書がある=越境について隣地所有者が了承しており、話がついているということであるためです。覚書がなければあとあとトラブルが起きるかもしれない土地を購入しなければならなくなりますが、話がついているとわかれば買主は安心して購入できます。買主が住宅ローンに通りやすくなる
越境物の覚書があることで、買主が住宅ローンの審査に通りやすくなります。建物の建築予定地に越境物がある場合、不動産の担保価値が下がるとの理由から融資を受けられないケースも少なくありません。理想は撤去ですが、覚書によって撤去の約束が取り付けられているのであれば、前向きに検討してくれる金融機関もあります。
櫻井弁護士
越境物の覚書と住宅ローンについての詳細は後述します。
越境物の覚書は拒否できる?拒否された場合の対処法
越境物の覚書は、一方の考えだけでは作成できません。しかし、覚書への署名は拒否できるのでしょうか?ここでは越境物の覚書が拒否できるかどうかや、拒否された場合の対処法について解説します。越境物の覚書は拒否できる
越境物の覚書への署名は拒否できます。覚書の作成は法的義務ではなく、あくまでも土地所有者の意思が必要であるためです。そのため強制はできません。覚書への署名を拒否された場合の対処法
越境物の覚書にはお互いの合意が必要です。そのため、片方が署名を拒否すればその内容は成立しません。ここでは、隣地所有者に覚書への署名を拒否された場合の対処法について解説します。越境の状態を解消する
越境物の覚書が作成できなければ、越境を解消できないか試みましょう。隣地が越境してきている場合、覚書すら拒否されている状況で了承を得るのは難しいかもしれません。しかし、越境しているものによっては解消に応じてもらえる可能性があります。たとえばブロック塀の角が越境しているだけなら、その部分を削ればクリアできます。樹木の枝や葉であれば隣地所有者に切除するよう要請でき、相当期間内に切除されない場合は越境されている側が切除しても法律上は問題ありません。また、越境しているのが根であるなら、切り取ってもよいとされています。樹木については民法第233条で上記のことが認められていますが、だからといって強引に切除してしまうとトラブルを招くおそれがあります。隣地所有者と協議をしながら、慎重に進める必要があるでしょう。越境部分を隣地所有者に売却または贈与する
越境を解消できない場合は越境部分の土地を分筆し、隣地所有者に売却または贈与する方法があります。分筆とはひとつの土地を複数に分ける手続きのことで、正式には「土地分筆登記」といいます。土地を分筆すれば越境問題はクリアできます。ただし贈与の場合はともかく、売却に応じてくれるとはかぎりません。応じたとしても、買いたたかれる可能性があります。注意
また、分筆によって土地が狭くなった分土地の価値が下がったり、建てられる家の面積が小さくなる可能性があります。越境部分を分筆して売却対象から外す
隣地所有者と連絡が取れないなどで話もできないようなケースは、越境部分の土地を分筆して売却対象から外すという選択肢もあります。この方法であれば越境の問題はクリアできます。しかし、越境部分の土地を捨てるようなものであるため、最終手段だと思っておいたほうがよいでしょう。不動産買取業者に買い取ってもらう
越境問題が解決できない場合は、不動産買取会社に買い取ってもらうのもひとつです。不動産買取業者とは、買い取った不動産を転売・賃貸する業者のことです。越境が解消していない土地でも、土地家屋調査士などの専門家と連携し、問題を解決したうえで転売などを行います。隣地所有者との交渉や覚書の作成は買取後に行われるため、隣地所有者とのトラブルを気にする必要がない点はメリットといえるでしょう。デメリットはないのですか?
事務員
櫻井弁護士
相場より売買価格が安くなることや、必ずしも買い取ってもらえるとはかぎらないというデメリットがあります。そのため注意が必要です。
越境物の覚書は土地家屋調査士に依頼する

なぜ土地家屋調査士に依頼するとよいのですか?
事務員
櫻井弁護士
相場より売買価格が安くなることや、必ずしも買い取ってもらえるとはかぎらないというデメリットがあります。そのため注意が必要です。土地家屋調査士とは、土地・建物の存在を表す「表示登記」や測量、境界に関する業務の専門家です。越境の状態を把握するためには、隣地との境界をはっきりさせる必要があります。そのため、越境物の覚書は土地家屋調査士に依頼するのがおすすめなのです。
依頼から作成までの流れ
土地家屋調査士に越境物の覚書の作成を依頼する際の流れは以下のとおりです。手順1
土地家屋調査士への依頼
手順2
文境界立会・境界確定
手順3
越境物の特定
手順4
越境の解消方法についての協議
手順5
越境物の覚書作成
1.土地家屋調査士への依頼
まずは土地家屋調査士に依頼します。探し方は以下のとおりです。土地家屋調査士の探し方
- 知人からの紹介
- インターネットで検索
- 日本土地家屋調査士連合会のホームページで検索
2.境界立会・境界確定
土地家屋調査士への依頼後、境界立会が行われます。境界立会とは、依頼者と隣地所有者が集まって土地の境界を確認することです。土地家屋調査士が主体となり、一点一点確認していきます。隣地が民有地だけであれば依頼者と隣地所有者、土地家屋調査士だけで行いますが、官有地も含まれているときは市や県の職員も参加します。民有地とは民間で所有している土地のことで、それ以外の土地は行政が所有する官有地です。境界確認後は土地家屋調査士によって確定測量が行われ、境界の目印となる「境界標」が設置されます。そして確定測量図が作成されます。3.越境物の特定
境界確定後、土地家屋調査士が越境物の位置や越境の状態などを確認・測量し、特定します。調査内容を依頼者と隣地所有者に確認し、越境部分の現況平面図を作成します。4.越境の解消方法についての協議
越境をいつどのように解消するかについて、隣地所有者と協議します。たとえば建物の一部が越境している場合、越境している側が建て替えを行う際に越境を解消し、越境されている側はそれまで猶予するというのが一般的です。注意点は、隣地所有者ともめないようにすることです。ここでもめてしまうと、隣人トラブルが生じていることを売却時に告知しなければならなくなり、ますます売れにくくなってしまいます。話し合いがまとまったら、その内容で覚書を作成します。5.越境物の覚書作成
覚書は自分で作成しても、越境物を調査してくれた土地家屋調査士に作成してもらっても構いません。土地家屋調査士に依頼する場合は、土地家屋調査士に隣地所有者との協議内容を伝え、それをもとに作成してもらいます。覚書は、同じものを2通用意します。依頼者と隣地所有者双方が署名・押印し、それぞれ1通ずつ保管します。土地家屋調査士に依頼した場合の費用相場
土地家屋調査士に依頼した場合、いくらくらいかかりますか?
事務員
櫻井弁護士
50万円〜110万円程度が費用相場です。金額に幅があるのは、土地の面積や隣地所有者の数などによってかかる費用が異なるためです。
| 隣地 | 確定測量 | 越境物調査 | 合計 |
| 民有地のみ | 35〜45万円 | 15〜30万円 | 50〜75万円 |
| 官有地あり | 60〜80万円 | 75〜110万円 |
越境物の覚書がないと住宅ローンが難しくなる
越境物の覚書がないことは、住宅ローンの審査にも影響します。ここでは、住宅ローンが難しくなる理由や覚書があっても審査に通らない場合があることについて解説します。住宅ローンが難しくなる理由とは
なぜ越境物の覚書がないと、住宅ローンが難しくなるのですか?
事務員
櫻井弁護士
それは、越境物があることによって、新築や建て替え時の建築確認申請や完了検査が通らない可能性があるためです。完了検査に通らなければ審査には通りません。


