- 手付金を持ち逃げされる手付金詐欺とは
- 手付金詐欺で法的請求が認められるケースを解説
- 手付金詐欺に遭わないようにする対策まとめ
不動産売買の契約時において、手付金を持ち逃げされるなどのトラブルがあります。
特に手付金詐欺に関する報道を見たり、記事を読んだりした場合、余計に心配になります。
不動産取引を検討されている方の中に、「詐欺に遭わない様にするためにどうすれば良いのか」悩んでいる方はいませんか?
実は、手付金詐欺の手口や不動産知識をある程度知ることにより、防ぐことができます。
多くの不動産に関する相談事や悩み事を解決してきた弁護士が、手付金詐欺に関する法律や事例、法的請求の可能性、対策について解説します。
提供される不動産情報に対して、鵜呑みにすること無く、自身でも確認することで、手付金詐欺に遭いにくくなります。
手付金を持ち逃げされる「手付金詐欺」とは
刑法第246条において、詐欺罪は下記の通り規定されています。
刑法第246条(詐欺) 1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。 2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。 |
Δ刑法第246条(出所:e-Gov 電子政府の総合窓口|「刑法」)
以下の章では手付金などの詐欺に関する刑法と構成要因や手付金詐欺の法定刑について解説します。
手付金詐欺に関する刑法と構成要因
詐欺罪の概要や構成要因について解説します。
詐欺罪は、下記の要因により成立します。
- 人を欺く行為
- 交付行為による物・利益の移転
- 錯誤の惹起(じゃっき)
- 因果関係
- 不法領得の意思
詐欺罪が成立するためには、上記項目の全ての要因を満たさなければなりません。
仮に詐欺を行おうとした者が、詐欺の途上で相手が気づき、手付金などを取ることができなかった場合でも、詐欺の実行行為がある場合には、「詐欺未遂罪」が成立します。
複数人で役割分担して詐欺を行った場合には、一部だけに関わったとしても共犯として詐欺罪になる可能性があります。
手付金詐欺の法定刑
手付金詐欺により有罪となった場合、10年以下の懲役になり、罰金刑はありません。
詐欺が複数回に及んだ場合には「併合罪」となり、刑の上限を1.5倍にして科されます。
よって、15年以下の懲役となります。
不動産売買の契約における手付金詐欺事例
過去にどのような手付金詐欺がありましたか?
大きな事件ですと、大阪の「明浄学院事件」などがあります。
「明浄学院手付金21億円詐欺事件」と「積水ハウス55億円被害事件」について解説します。
【明浄学院】手付金21億円詐欺事件
2019年12月16日、大阪地検特捜部は、大手不動産会社「プレサンスコーポレーション」の山岸社長を業務上横領で逮捕しました。
東証一部上場企業であるプレサンスは、山岸社長が創業、近畿圏の分譲マンション供給戸数は9年連続でトップでした。
2017年に山岸社長は、明浄学院・大橋美枝子元理事長ら5人と共謀し、明浄学院の所有する土地の売却額21億円を横領しました。
明浄学院は、不動産会社ピアグレースと学校敷地を売却する契約を締結し、手付金21億円を受取りました。
手付金21億円は、マンション建設のために、不動産会社を介してプレサンスが支払いました。
大橋元理事長は、売買契約した日に複数の口座を経由させて、買主のピアグレースに21億円を戻し、さらに山岸社長へ渡りました。
真相は、売却した土地は「あべのハルカス」近隣の1等地にあり、マンション建設用地として取得するための資金工作であると見られています。
【積水ハウス】55億円被害事件
2018年10月16日、警視庁は、住宅メーカー「積水ハウス」が架空の土地取引で約55億円をだましとられた事件で、「地面師」グループの女ら数人を逮捕しました。
この事件は、東京都品川区の旅館跡地の所有者を装い、地面師グループが積水ハウスに土地購入をもちかけたものです。
積水ハウスは、法務局で所有権移転手続き中に、印鑑証明などの偽造発覚により登記できず、土地の取得ができませんでした。
積水ハウスの事件の場合は物件価格総額での詐欺でしたが、不動産関係者によりますと、今後は売買契約直後の手付金詐欺が増えると見ています。
手付金詐欺で法的請求が認められるケース
手付金が不動産価格の20%を超える場合や手付金の支払いが分割払いの場合、法的請求が認められます。
手付金が不動産価格の20%を超える場合
宅建業法39条1項では、不動産業者が売主となる土地建物の売買契約締結について、不動産価格の20%を超える手付金の受領はできないと規定されています。
手付金が高額となる場合、買主が契約解除をするためには、高額の手付金の放棄が必要となります。
事実上、買主から手付金を放棄することによる契約解除の地位を奪うことになります。
手付金の支払いが分割払いの場合
宅建業法47条3号では、不動産業者が手付について、貸付けやその他信用の供与により売買契約締結を誘引する行為の禁止をしています。
「貸付けやその他信用の供与」は、買主が売買契約締結時に売主に支払う手付金について、不動産業者が貸付けや立替え、約束手形の受取りなどをして、手付金の実際の支払いを先延ばしすることです。
「貸付けやその他信用の供与」による勧誘を受けますと、購入検討者は金銭の負担なく安易に売買契約を締結することができます。
そうなりますと、後日トラブルになるケースが多発することにより、規定が設けられました。
手付金詐欺で法的請求が認められないケース
宅建業法37条2号では、不動産に関する専門知識や取引経験に乏しい買主が、売主である不動産業者の強引な勧誘により、売買契約締結をした場合、クーリングオフ制度により契約解除ができます。
ただし、下記の要件に該当する場合にはクーリングオフ制度の適用除外となります。
不動産業者間の売買や非不動産業者間の売買の場合
クーリングオフ制度は、不動産業者間の売買や非不動産業者間の売買には適用されません。
適用されるのは、売主が不動産業者で買主が非不動産業者会社の売買のみに適用されます。
買主は、非不動産業者であればよく、法人や個人にも適用されます。
不動産業者の事務所での売買の場合
売買契約が、不動産業者の事務所にて専任の宅地建物取引士を設置した場所で売買契約が行われた場合、クーリングオフ制度の適用除外となります。
適用されるのは、不動産業者の事務所以外の場所である喫茶店やレストラン、買主の自宅・勤務先などで売買契約締結が行われる場合となります。
契約解除などの方法の告知を受けてから8日を超えた場合
売主である不動産業者が、クーリングオフの告知書を交付して契約解除などの説明を受けた日から8日間が経過した場合、適用されません。
告知を受けてから8日間以内であれば、適用されます。
手付金詐欺に遭わないようにするには?
不動産知識を身に付けることや提供された不動産情報の確認、手付金詐欺の手口を知ること、契約を急かす業者に注意することが、手付金詐欺に遭わないことに繋がります。
不動産に関する知識をつける
不動産取引に関係する宅地建物取引業法や、土地建物に関係する建築基準法・都市計画法の必要な部分だけでも知識がありますと、手付金詐欺の対応が全然違ってきます。
それらを読んだり見聞きするだけでも知識が身に付きますので、不動産取引に臨む前に学習を試みるのが良策といえます。
ある程度の知識が身に付きますと、手付金詐欺が会話の中で発する不動産の専門用語も理解できますし、質問する内容も違ってきます。
手付け金詐欺に「知識を持っている」と思わせると、いい加減な言動を慎むようになり、その場を引き下げさせることにも繋がります。
契約前に不動産業者の情報を確認する
不動産業者の提供する情報に対して、異なる不動産業者や市区町村の開発指導課などを尋ねて確認する姿勢が大切です。
手付金詐欺の中には、情報提供する土地の中に、そもそも建物を建てることができない土地を案内する場合があります。
例えば、農地などが多い市街化調整区域内の土地や、市区町村が規定する開発指導要綱での建築規制区域などです。
何も知らない素人が、それらを見分けることは困難となります。
決して提供された情報を鵜呑みにすることなく、例え一部上業企業といえども疑ってかかる姿勢が大切です。
手付金詐欺の手口を知っておく
手付金詐欺の手口は、提示する不動産情報の中にあります。
明らかに不動産価格が近隣物件と比較して安いなどの好条件を提示します。
それらの好条件を鵜呑みにすることなく、「何故このように安いのか」を曖昧にせず、納得いくまで質問し続ける姿勢が大切です。
意外と手付金詐欺は、表面だけを取り繕う場合が多く、質問を続けると返答に窮したり、ぼろが出たりします。
また、提示された不動産情報を基にして自身でも調査を行うか、異なる不動産会社に問合せをして正しい情報か否かを確認することも大切です。
好条件の不動産情報に対しては、常に疑念を抱くことが必要です。
契約を急かす業者には注意!
手付金詐欺は、不正な情報を提供していることがばれない内に売買契約を締結させようとしますので、急かす場合が多くなります。
急かす業者に対しては、疑念をもって臨むことが必要ですし、注意しなければなりません。
まとめ
以上、手付金詐欺に関する法律や事例、法的請求の可能性、対策について解説しました。
手付金詐欺の手口は、過去と比較しますと巧妙化しています。
提示する資料においても、真実と思わせるために、手の込んだ作成(芸能人などのレビュー記事掲載)をする場合があります。
そのためにも、その場で売買契約を即決することは絶対に避けなければなりません。
市区町村の開発指導課や都市計画課、法律家、異なる不動産業者などに相談して、提供された不動産情報を確認する姿勢が大切です。
不動産取引に臨むにあたり、提供された情報に対して、多くの異なるアドバイスを求めながら、売買契約の判断をされることをお勧めいたします。