- 自分の土地にお隣の水道管が入ってる場合の対処法
- 自分の敷地内にあるお隣の水道管を撤去する費用は?
- 自分の敷地内にお隣の水道管が通っている場合のトラブルとは
土地を売りたいと思ったとき、調べてみると、お隣の家の水道管が敷地内の地下を通っていることが判明した、ということはよく起こります。
このような場合は、撤去費用はかかるのか?どのようなトラブルが想定されるのか?など、法律的にはどのように処理されることになるのか、弁護士の視点で解説します。
自分の土地に隣の水道管が入ってる!想定されるトラブル
自分の土地にお隣の家の水道管が入っていたり、水道管を共有している場合には維持管理の面でトラブルが起こる可能性があります。
例えば水道管が破裂したり、漏水などになった場合どちらが対処するのか、その費用は?と頭を抱えることになるかもしれません。
まず、原則として土地の所有権は、地下にも及びます。地下何メートルまでかなどについて具体的な定めはありません。理論上は、地球の中心に至るまで及ぶとも言えます。(実際に問題になることは少ないですが)
地下鉄や排水溝など、行政や公共事業で地下深く掘られていることがあります。その場合、その上の土地の所有者は所有権が侵害されているのではないかということが問題となりえますが、こうした場合には大深度地下使用法という特別な法律でその上の土地の所有権を侵害するものではないことが定められています。
つまり、こうした特別な法律上の根拠がない限りは、地下にも土地の所有権が及びます。したがって、お隣の家の水道管が敷地内の地下を通っている場合は、敷地所有者は水道管が通っていることで土地所有権が侵害されていると主張できます。
そうすると、敷地の所有者は水道管の撤去を請求することができるのですか?
原則はそうですが、そう簡単な問題ではありません。まず、そのお隣の方が敷地を利用する権限を何らか持っていないかということが問題となってきます。
地役権と通行許諾書
原則通りに考えると、土地所有者は所有権に基づいてお隣に対して水道管の撤去を請求できることになります。しかし、これに対してはお隣から土地使用の正当な権限が主張されることが考えられます。
お隣の反論としては、昔のその土地の所有者との間で、水道管の設置を認める内容の契約ないし合意を結んでいる、だから水道管を設置することができる、というものが考えられます。その水道管を設置する契約ないし合意を示すものとして、大別すると、法律上は、地役権と通行許諾権の2種類に分けられます。
地役権と通行許諾権というのは何が違うのですか?
大きくは不動産登記簿に載っているかどうかということです。地役権は不動産登記簿に登記できます。登記された地役権は、第三者に対しても対抗力を持ちます。
地役権が設定されている場合
地役権というのは、民法で定められている物権です。物権というのは、所有権や抵当権と同じく民法で保護された強い権利です。民法280条で、地役権とは要役地(本件でのお隣)のために承役地(本件での敷地)を設定目的に応じて利用することができる権利であると定められています。
お隣と過去の敷地所有者との間で、敷地の地中に水道管を設置することを目的として地役権を設定することが合意され、その地役権が不動産登記簿に登記されている場合は、第三者に対しても対抗できます(民法177条)。つまり、地役権の登記がある場合は、お隣に対して水道管の撤去を求めることができないということになります。
これに対して、地役権の設定合意がされていたとしても不動産登記簿に載っていなければ、第三者への対抗力がありませんので、その後に敷地を取得した人は原則通りにお隣に対して所有権に基づいて水道管の撤去を求めることができます。
では、通行許諾権とはなんですか?
土地所有者と土地使用者の間で交わされた契約により認められた権利です。本件でいうと、過去の敷地所有者とお隣との間で、敷地の地下に水道管を設置する契約ないし合意がなされている場合、お隣は水道管を設置することによる敷地の通行許諾の権利を持っているといえます。ただし、この権利はあくまで契約なので、当事者間でしか効力がありません。
通行許諾書だけの場合は移設を要求できる
通行許諾というのは当事者間の合意にすぎず、当事者間でしか効力がなく、第三者に対しての効力が及びません。したがって、お隣が過去の敷地所有者との間で敷地への水道管設置による通行許諾権を合意していたとしても、その後に敷地を取得した第三者に対しては、通行許諾権を主張できません。
この通行許諾権を証する書面を通行許諾書と呼んだりしますが、この書類は第三者に対しては効力がありません。そのため、敷地所有者としてはお隣が通行許諾書を示して通行許諾権を主張してきたとしても、敷地所有者の所有権が勝ることになり、水道管の撤去、移設を請求できることになります。
そのため、その敷地が先祖代々から相続してきたものである場合は、通行許諾権に負ける可能性もあります。
お隣に地役権や通行許諾権もない場合は、どうなるんですか?
地役権も通行許諾権も土地所有者との間で交わされた契約(合意)により発生する権利です。それ以外に土地の使用を正当化できる権利はないので、基本的には地役権も通行許諾権もない場合には、所有権に基づく撤去、移設の請求が認められることになります。
ただし、裁判例では他の土地を利用することが困難であるなどの敷地への水道管設置がやむを得ない事情が認められる場合には、民法の囲繞地(袋地)通行権の規定を類推して保護しているものもありますので、無権限だからといって必ず撤去、移設が認められるわけではありません。
土地を売却したい場合は?
お隣の水道管が地役権によるものか通行許諾権によるものか、あるいは何らの権限にもよらないものであることについて、そのいずれかが判明した場合、具体的に土地を売却するにはどうすれば良いのでしょうか。その方法を解説します。
移設しないまま売る
一つの方法として、お隣の水道管が埋まったままの状態で、土地を売却するということが考えられます。
その場合、売却に際して注意することはありますか?
買主に対して、敷地内に水道管が通っていることと、その権限(地役権か、通行許諾権か、無権限か)について、きちんと説明しておくことが重要です。通常、土地に水道管が通っていると、建物の基礎を作ることができないなどの制約が生じてしまいます。
そのような制約がある土地と知っていれば、買主はその土地を買わなかったかもしれません。知っていたのに告げなかったということになると、あとで買主から損害賠償を求められることも考えられます。
通行許諾権や無権限などの第三者に対抗できない権限で設置されている場合でも買主に説明しておかないといけないのですか?
はい。通行許諾権や無権限の場合、法律の理論上は敷地の所有権が勝ち、水道管の撤去移設を求めることができますが、その場合でも移設せずに売却するということは買主が現実に撤去・移設を求める手続きをしなければなりません。水道管が通っていることを認識しているのであれば、買主にきちんと説明しておく必要があります。
地役権を解除してもらうのは現実的ではない
先述したように登記された地役権は第三者にも対抗力があり、保護されます。地役権を消滅させるには、お隣との合意で解除してもらうしかありませんが、お隣としては水道管は生活に欠かせないものですので、解除には応じてくれないでしょう。
また通行許諾権や無権限など、法律の理論上は撤去、移設を求めうるものであったとしても、現実的にこれを実行するには、時間と費用が掛かります。撤去、移設を強制的に行うには、裁判を起こして判決を得て行わなければなりません。
しかし、裁判には時間と費用がかかります。通常、訴訟提起から判決を得るまでには1年以上はかかるものと認識しておいたほうが良いです。訴訟を起こすには弁護士に依頼したほうが良いのでその費用もかかります。
当然、移設の実行にも費用がかかります。
隣地の水道管の撤去費用は負担すべき?
地役権の解除は現実的ではなく、法律上は撤去移設が認められるとしてもそれに要する時間と費用を考えると、現実的に強制的に行うのは難しいということになります。
では、どうすればいいのかということになりますが、最終的にはお隣との話し合いによるべきかと考えます。
通行許諾権や無権限による水道管設置については、法律上は所有権が勝るが、移設費用を半分負担するから移設に応じてもらえないかなどの交渉をしたほうが、結果としては時間も費用もかけずに実現できる可能性が高くなります。
まとめ
売ろうとした土地にお隣の水道管が通っていた場合、まずはその水道管設置がどのような権限に基づいて行われたのかを確認しましょう。
地役権であれば法律上は移設を求めることはできません。通行許諾権等の当事者の合意や何らの権限もなく無断で設置されている場合には、法律上は所有権が勝り、撤去・移設を求めることも可能ですが、そのためにかかる費用と時間を考えると現実的ではありません。
結局のところ、その水道管を設置したお隣との話し合いによって移設をしたほうが費用と時間を低く抑えられる可能性が高いです。ただし、その交渉において、お隣が地役権に基づいて水道管を設置しているのか、そうでないのかという点が、移設に要する費用の負担額というところと大きく関わってきます。