- 共有持分の不動産はどうなる?全員の同意がないと売却できない
- 共有持分の売却でトラブルを避けるためのポイントを解説
- 土地の持分のみを売却する場合は「分筆」により共有名義を解消する方法がある
共有名義による不動産登記はとくに珍しいことではありません。
名義人それぞれが住宅ローン控除を受けられる等、税制上のメリットがあるうえに、各人の所有資産になるからです。
しかし共有持分の不動産の売却や相続、離婚等の際には様相が一変し大きなトラブルを引き起こすことがあります。
共有名義トラブル解決法について弁護士が解説します。
共有持分の売却はどうなる?何ができないのか
共有名義不動産は共有持分権者全員の同意がないと売却できません。リフォームする際にも過半数の同意が必要です。
つまり共有名義不動産は所有権を行使する際に行わなくてはならない手続きが増えます。基本的な用語解説と合わせ、各名義人が“できること”と“できないこと”をご説明します。
「共有」とは、ひとつの不動産を複数の人が共同で所有することです。
「共有名義」とは複数の名義で登記されている不動産について当該不動産の所有権を持っている人を言います。「共有持分」とは、それぞれの名義人が当該不動産の何%について所有権を持っているかを指します。
夫と不動産を共有した場合はどうなりますか?
たとえば夫の共有持ち分を7割、妻の共有持分を3割と決めて不動産登記を行った場合、妻は当該不動産の3割まで所有権を行使できる「共有持分権者」となります。ちなみに、ひとつの不動産を1人が所有している場合は「単独名義」と呼びます。
「保存」と「使用」は単独でできる
共有不動産の処遇のなかで「保存」と「使用」は、共有名義となっているうち1人の意志のみで他の名義人の許可を得ることなく、単独で行うことができます。
「保存」とは当該不動産の現状を維持する目的で、建物の破損部分を修繕したり、災害に遭った土地を修復したり、不法占拠している者を退去させること等が該当します。
「使用」とは当該の建物に居住することを指し、その際には共有持分に応じた使用ではなく、不動産全体を使用できると定められています。
「利用」と「改良」は過半数の同意が必要
共有不動産の処遇のなかで「利用」と「改良」は、共有名義者のうち過半数の同意が必要になります。
「利用」とは当該不動産を短期的に誰かに貸し出す、すでに結ばれている賃貸借契約を解除する等を指します。前項の「使用」と混同されがちなので、しっかり整理しておきましょう。
「改良」は当該不動産をリフォーム、リノベーションすることを指します。前項の「保存」が不動産の現状を維持するための“修繕”なのに対し「改良」は価値や利便性を高める目的で行われるものですが、修繕とリフォームとの違いについては曖昧な部分があるため事前に共有持分権者同士で話し合うべきです。
「過半数の同意」については共有持分権者数の過半数ではなく、「共有持分割合の過半数」が基準となります。
たとえば共有持分権者が4名存在し、Aが55%、Bが20%、Cが15%、Dが10%の共有持分割合であった場合、Aは共有持分割合の過半数を持っていますから、単独でリフォームを行えます。
対してB、C、Dは、3人の共有持分を合計しても過半数に達していませんから、Aの同意がなければリフォームを行えません。
「処分」は全員の同意がないとできない
共有不動産の「処分」は共有名義者全員の同意が得られなければ行えません。1人でも反対意見があれば処分できないのです。
「処分」とは不動産を売却する、抵当権を設定する、借地借家法の適用のある賃貸借契約を締結する等を指します。
どうなれば同意されたということになりますか?
「同意」とは共有不動産の処遇について許諾の意思表示をすることを指します。書面によるだけでなく、口頭で意志を伝えた場合も同意にあたります。しかし後ほど、言った言わないの水掛け論トラブルに発展しがちです。
たとえば相続について話し合う場に共有名義者全員が集まって不動産の処遇を決めた場合は、代表者1名を処遇の「受任者」として選任した後、他の人は「委任者」として「委任状」を作成し受任者に手渡す等の手続きを行うべきです。
親類縁者なのにそこまでしなくてもと甘く考えていると、大きなトラブルに巻き込まれる危険性が格段に高まります。
共有持分の売却をする方法と注意点
共有持分の売却は可能ですが売却に必要なすべての手順で“常に”名義人全員の意思確認と、同席協議または文書による手続きが必要になります。
実際の売却手順において、極力スムーズに進めるための方法を具体的に解説します。
共有名義者全員の了承を得て売却
共有持分権者の全員が売却に同意し全員から明確な許可を得られた場合は、不動産を売却できます。もっともスムーズでトラブルに発展しにくい方法と言えます。ただし、ここで大きな障壁となるのが“全員の同席協議”です。
共有持分権者が多数にわたる場合、全員が複数回にわたって一堂に会することは難しく、協議が遅々として進まないことになります。不動産以外の相続についても、よく見られるパターンです。
こうしたケースでは同席できない共有持分権者が「委任状」を発行することで、手続きを代行させることができます。
どんな理由でも委任状の発行はできますか?
委任状の発行には制限規定があり、重病で動けない、ケガで入院している、海外在住で帰国が困難など、同席困難に至る明確で強い理由があることが前提となります。面倒だから、遊びに出かけるから、仕事が忙しいから等の理由では委任状を発行できません。
委任状の記載内容も重要です。とくに決まった書式があるわけではないのですが、委任者名と住所、当該不動産売却を認め他社に委任することの明確な表記、委任状の有効期間、対象不動産の情報は必須で捺印が必要な場所には実印を使用し、印鑑登録証明書を添付します。
また、ここで問題が起きやすいのが“対象不動産の情報”です。
対象不動産につき、誰が見ても明確に判断することが可能な情報でなければ委任状は効力を発揮しません。最寄りの法務局で不動産登記簿謄本を取得し、同謄本の記述内容に沿い、記述の省略や改編なく記載しなくてはなりません。
自分の持ち分を売却する
共有持分権者全員の同意が得られない場合、共有持分割合に応じて自分の持ち分のみを売却することが可能です。この場合、他の共有持分権者の許可は必要なく、同人の意志のみで売却を進めることになります。
土地を分筆して売却する
土地の持分のみを売却する場合は「分筆」により共有名義を解消し、単独名義とすることで売却する方法があります。
分筆とは、どういう意味ですか?
分筆とは登記簿上でひとつの共有名義とされている土地を2つ以上に分割することで、当該の土地を単独名義で登記すれば、他の共有持分権者の同意なく売却できるようになります。
共有名義の不動産を分筆する場合、その共有持分割合に応じて分筆しますが、土地のどの部分と範囲を誰が所有するかについて協議のうえ、共有持分権者全員が分筆を承諾しなくてはなりません。
また分筆が決定した場合は土地家屋調査士に依頼して地積測量図を作成し、法務局で土地の変更登記を行います。その後司法書士に依頼し所有権移転登記を行うことで単独名義となりますから、手続きに時間と費用がかかります。
名義変更して所有者を1人に統一
共有持分権者のうちの1人が他の共有持分権者の共有持分割合をすべて購入し、単独名義にする方法です。たとえば共有持分割合が過半数におよぶ共有持分権者がいる場合、持分割合が少ない他の権者は権利行使が極端に難しくなる可能性があります。
また持分のみを売却することはできても、その不動産は新たに売却相手という他人との共有名義となるわけですから、トラブル発生の危険性はさらに高まります。こうした場合「共有物分割請求」が利用されます。
「共有物分割請求」とは共有持分権者のうちの1人の共有状態を解消し、ほかの共有持分権者に分割することです。
分割の方法には共有物を物理的に2つ以上に分ける「現物分割」、共有持分権者の1人が共有名義不動産を取得し、他の権者に代償金を支払う「代償分割」、不動産を売却し、持分割合に応じ代金を分配する「換価分割」があります。
名義確認を入念に行い、税金やローン返済に注意を
共有名義不動産の状態を変更する際には誰が、どの部分を、どれだけ共有しているのかを入念に調査する必要があります。
代々にわたり相続が繰り返されてきた土地などは正確な書面が散逸し、一般の方の手に負えない状況になっていることも珍しくありません。不動産会社や司法書士に依頼し、共有名義を入念に確認しましょう。
共有名義不動産を売却するときに注意する点はありますか?
共有名義不動産を売却する場合は、譲渡所得税など税金の支払方法やローン返済の確認が必須です。なぜなら、住宅ローンの残債が残っている状態で不動産を売却する場合には、残債を一括返済しなくてはならないからです。
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まとめ
共有名義の不動産を処分する際は単独名義の場合とは比較にならないほど多数の手間と出費、トラブルへの対応が求められます。
不動産会社や司法書士、弁護士にまず相談し、適切なアドバイスを受けながら処理を進めていくべきです。可
能であれば、話し合いを通じて単独名義不動産に変更した後に売却しましょう。