- 手付金に返還義務があるのかを解説
- 手付金を返してもらう方法とは?
- 不動産会社が倒産しても、保全措置が講じられていれば全額返還してもらえる
不動産の売買においては、「手付金」という言葉が出てきます。
手付金とは、契約が成立したことの証として、買主が代金の一部を売主に支払うお金のことを指します。
では、この手付金を支払った後に売主である不動産会社が倒産してしまった場合、手付金は戻ってくるのでしょうか。手付保証制度の仕組みなど含めて、返還義務があるのかを弁護士が解説します。
手付金の返還義務とは?
先に一般論で言いますと、売主が倒産したときは手付金は返ってきません。
法律上は、売主は手付金を返還すべき義務を負いますが、倒産してしまっているのですから、返せるだけの資金力がありません。
では買主は泣き寝入りするしかないのかというと、そのようなことはなく、宅地建物取引業法(宅建業法)が手付金の保全措置を定めています。
原則論としては売主が倒産したら返してもらえない
不動産に関して買主と売主とで売買契約を締結した場合、買主は代金を支払う義務を負い、売主は不動産を引き渡す義務を負います。この買主の代金支払いの一部として支払われるのが手付金です。
手付金を支払ったものの、物件の引き渡し前に売主が倒産・破産してしまった場合、売主は物件の引き渡しが履行できなくなるため、契約は解除されることになります。そうすると、売主は契約解除により受け取った手付金を返還すべき義務を法律上は負うことになります。
しかし、これはあくまで法律上の義務です。
売主は倒産してしまっているため、法律上の義務はあっても現実にはお金がなくなっており、手付金が実際に返還されることは極めて少ないと言えるでしょう。
そうすると、売主が倒産したら手付金は返してもらえないということですか?
そうした事態に備えて、宅建業法が保全措置を定めています。すなわち、売主が倒産した場合、買主は多大な損害を被ることにもなります。そのような場合に備え、宅建業法は、手付金の保全措置として、銀行、保険事業者などによる保証を義務付けています(宅建業法41条、41条の2)。
不動産売買が行われる場合、多くの場合には宅地建物取引業者(不動産業者)が売主であったり、仲介に入っていたりします。
このような場合において、宅建業法は手付金を受領する前に銀行や保険事業者の保証を付けることを定め、その保証を得ない状態では宅建業者は手付金を受け取ってはいけないとされています。
この保全措置が取られていた場合には、手付金は保証を行った銀行、保険事業者などから全額返還してもらえる可能性があるのです。
手付金を返してもらう方法
不動産会社が倒産してしまい、その会社に資金力がない場合は保全処置により手付金を返してもらう方法があります。
手付金などの保全措置
宅建業法が保全措置を定めていることにより、売主から手付金の返還がされなくとも、保証を行ったものから手付金を返還してもらえることになっています。
どんな場合に保全措置が取られるのですか?
宅建業法では、宅建業者(不動産業者)が売主になる場合と定められています(宅建業法41条、41条の2)。不動産業者のほとんどは宅地建物取引業免許を得て事業を行っていますので、不動産業者が売主である場合は、保全措置が取られることになると認識しておいて良いです。
宅建業者(不動産業者)自身が売主となる場合で、対象物件が未完成のものについては、銀行と保険事業者が保証することになります(宅建業法41条)。銀行か保証事業者かは宅建業者が選択します。
これに対して、対象物件が完成している場合や中古物件である場合には、宅建業者の協会の保証か、銀行・保険事業者のいずれかが保証することになります(宅建業法41条の2)。協会か銀行・保険事業者のどれにするかについては宅建業者が選択します。
売買代金に対する手付金の割合規制
宅建業法は手付金の保全措置を定めて買主を保護しています。ただ、すべての手付金が保護されるわけではなく、一定の割合、金額による規制があります。
不動産業者(宅建業者)が売主なら、すべての手付金が、宅建業者の協会や、銀行・保険事業者によって保証されるのではないのですか?
はい、すべての手付金ではありません。手付金の金額や売買代金に対する割合による規制があります。
宅建業法では、対象物件が未完成の場合には、手付金が契約代金の5%以下の場合で、かつ、手付金額が政令で定める額(現状では1,000万円)以下である場合には、銀行・保険事業者による保証は不要であるとしています(宅建業法41条1項但書)。
また、同様に対象物件が完成している場合や中古物件である場合には、手付金が契約代金の10%以下で、かつ、政令で定める額(1,000万円)以下である場合には、宅建業者の協会、銀行、保険事業者のいずれの保証も不要であると定めています(宅建業法41条の2第1項但書)。
保全措置の対象にならない場合は返還されない
宅建業法では、不動産業者が売主となる場合の保全措置を定めていて、具体的には、宅建業者の協会や、銀行、保険事業者による保証がされることとなっています。
売主が倒産した場合には、保証を行った協会、銀行、保険事業者から手付金が返還されます。
しかし、すべての場合に保全措置が取られるわけではなく、手付金の額が契約代金の一定割合以下の場合ですと、こうした銀行などの保証はつけなくて良いことになっています。
手付金が返還されないケース
手付金が返してもらえないというのはどのようなケースですか?
まず、第一に売主が不動産業者ではない場合です。個人間の売買ですと、宅建業法が適用されませんので、手付金に保証を付ける義務はありません。
次に、不動産業者が売主となる場合でも宅建業法上の規制価格を下回る場合です。
- 未完成の物件では代金の5%以下で、かつ、1,000万円以下である場合
- 完成した物件では代金の10%以下で、かつ、1,000万円以下である場合
例えば、不動産業者から1,000万円で中古物件を購入することとして、手付金40万円を支払った場合、手付金は代金総額の4%ですので、②にあたり、宅建業法上、銀行などの保証を付ける義務はありません。銀行などの保証がなければ、手付金が返還される見込みは低いでしょう。
他にも購入した物件について、既に所有権移転登記が買主になされている場合には、銀行などの保証は不要とされています(宅建業法41条、41条の2)。
これは当然といえば当然のことで、買主に登記があるということは買主に所有権が移っているため、仮に売主が倒産したとしても手付金を返してもらう必要はありません。
逆にその場合、買主としては売主に残代金を支払う義務が残ることになります。
トラブルを防ぐために契約前の確認すべきこと
手付金が返還されないトラブルを防ぐためには、手付金を支払う前に銀行、保険事業者、宅建業者の協会による保証が付けられているかどうかをしっかりと確認することが重要です。
不動産業者に尋ねれば答えてくれますし、不動産業者はこの点について、説明する義務があると言えます。
不動産業者に、銀行などの保証がついていることを証明する書類を提出してもらうことはできますか?
できます。宅建業法では、手付金を受領する前に、銀行、保険事業者、宅建業者の協会のいずれのかの保証を得たことを証する書面を、買主に交付することが義務付けられています(宅建業法41条1項1号、2号、41条の2第1項1号)。手付金を支払う前に、銀行などの保証を証する書面の提出を求めてください。
保証証書等が交付されない場合は手付金の支払いを拒否できる
不動産業者が銀行などの手付保証を付けているか分からないときは、手付金の支払いを拒否することができます。
これは、宅建業法に明確に定められています(宅建業法41条4項、41条の2第5項)。
まとめ
手付金は不動産購入契約を締結したことを証する性格がありますが、一方でその金額は大きく、もし売主が倒産してしまい返還されないことになってしまうと、精神的打撃だけはなく経済的な打撃も大きくなります。
そうした事態に備えて、宅建業法は手付金の保全措置を定めています。不動産業者が売主である場合には、手付金を受領する前に、銀行、保険事業者、宅建業者の協会による保証を付け、その保証証書を買主に交付することを義務付けています。
買主としては、不動産業者が保証証書を交付するまでは手付金の支払いを拒むことができます。ただし、この保証は、①未完成の物件では代金の5%以下で、かつ、1,000万円以下である場合、②完成した物件では代金の10%以下で、かつ、1,000万円以下である場合には不要とされています。
ご自身が購入される不動産について、この手付金保全措置が必要なものかどうか、必要な場合はきちんと保証が付けられているかを、しっかりとご確認ください。