- 新築の引き渡しが遅れた場合、違約金は請求できるのか解説
- 発注ミス・人手不足・現場での事故等の場合は施工業者が責任を負う
- 地震や台風などの天災による遅延は施工業者の責任とならない場合が多い
- 契約書に遅延損害金の計算方法が盛り込まれていると安心
注文住宅を新築する場合、物件の工期・引き渡し時期をあらかじめ定めて、施主も新築への転居に向けた準備を進めるのが一般的です。
しかしそのような中で後になって引き渡し時期が遅れ、トラブルに発展する事例は少なくありません。
今回はそのような場合に施工業者に損害金(違約金)を請求できるのかどうかについて解説し、また工事遅延損害金の計算方法についてもご紹介します。
新築住宅を建てる時は住宅ローンの支払いや、引越し業者の予約など、引き渡し時期に合わせてさまざまな準備を進めるので、引渡し日に遅れが発生するとあらゆることに影響が出ますよね。
損害金の請求可否だけではなく、請求できる遅延損害金の認識相違もトラブルの原因となっているようですので、合わせて解説します。
遅延の原因が施工業者であれば施工業者が責任を負う
新築住宅の施工において発生した工期の遅れの原因が施工業者にある場合、その責任は施工業者が負うことになっています。
遅れの責任を施工業者が取るということはすなわち、施主が遅延に伴い損失を受けた場合は、施工業者への損害金の請求余地があるということになります。
まずは、施工業者に発生する責任について詳しく確認しましょう。
引き渡しの遅延理由が正当でなければ責任は施工業者に
施工業者の原因で新築住宅の工期が延び、引き渡し時期に遅延が発生した場合、正当な理由がないかぎり施工業者に責任が発生します。
例えば、施工業者の発注ミスによる資材の到着遅延、人手不足、現場での事故による引き渡し時期の遅延は、全て施工業者の責任となります。
特に人手不足などは建築業界全体で課題となっていることなので、あたかも「正当な理由」であるかのように説明してくる施工業者もあるようです。しかし、本来は人手不足のリスクを踏まえて現実的な工期を設定するのも施工業者の役目ですので、人手不足による遅延だったとしても施工業者が責任を逃れることはできません。
一方で「正当な理由」については実は明確な定義はなく、それぞれの契約書の内容によって定められます。一般的には台風・地震などの天災が物件自体に影響を与えた場合などに工期の延長を求められる場合が多く、こちらの理由は正当であると認識されるのが一般的です。
また施主の要望に応じて工程が変更・追加になる場合も、施工業者の責任とはならない可能性があります。
逆にいうと、地震・台風が原因の遅延損害金は請求できないことが多いのですね。
災害の多い日本にとってその点は課題なのですが、天災については業者も防ぎようがないので、基本的に損害金を請求できないと思っておいた方が良いでしょう。ただし、注意いただきたいのはあくまで「物件自体が天災に遭った場合」です。
例えば2011年の東日本大震災の時には、震災の影響から建築業界の人手不足が深刻化しましたが、このようなケースを「震災のせい」として責任を逃れることはできませんので、注意しましょう。
着手時期と完成時期は請負契約書に必ず記載されている
新築の注文住宅では、建築工事請負契約書というものを結びます。口約束でも請負契約自体は有効ですが、注文住宅となると書面で契約を締結するのが一般的です。
建築請工事負契約書の中には、工期を示すための着手時期と完成時期を明記することが建設業法で定められています。遅延日数を計算する際には必ず契約書を確認しましょう。
新築注文住宅の引き渡しが遅れた際は違約金の請求も可能
前述した通り、基本的に施工業者に原因がある引渡しの遅れについては施工業者が責任を取ることになっていますので、施主がうけた損害額を損害賠償として請求することが可能です。続いては損害賠償の請求額や具体的な請求方法について見てみましょう。
そういえば、請求ができる・できないだけでなく、損害賠償の計算方法もよくわかりませんね。
前述の通り、請負契約書に記載されている場合が多いです。一般的に認められている損害賠償金の計算方法についても合わせて確認していきましょう。
遅延した場合の遅延損害金について契約書を確認
整備された請負契約書であれば、遅延損害金の金額や計算方法について明記されている場合があります。損害賠償金の請求を検討する場合は、まず契約書を確認しましょう。
建築工事の請負契約書は「民間連合協定工事請負契約約款」というものを添付することで契約書に代替する場合があります。こちらの約款の中には遅延損害金の計算についても明記されています。
「民間連合協定工事請負契約約款」は日本建築士会連合会、日本建築士事務所協会連合会、日本建築家協会、日本建築業組合の4団体によって作られていた「四会連合協定工事請負約款」に由来しますが、現在は民間の団体も加わった(旧四会)連合協定工事請負契約約款委員会という団体によって、社会情勢を踏まえて定期的に改訂が行われています。
この約款はどちらかというと大規模なビルの施工などで実際に適用される約款なのですが、より小規模な注文住宅の施工の際も一から作成するよりこの約款を利用した方が施工業者の手間が省けるため、こちらに従っている事例が多いようです。
そして民間連合協定工事請負契約約款には遅延損害金の計算方法が書いてあります。
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契約書に定められた内容にしたがって施工業者に請求
つまり契約書に明記されている場合は基本的に定められた金額しか請求できないということですか?それなら契約書に遅延損害金の記載がいない方が施主にとっては有利なのでしょうか?
いえ、逆に契約書に明記されているからこそ、スムーズな請求が可能であるとも言えます。契約書に遅延損害金の記載がない場合も含めて、遅延損害金の請求方法について解説していきます。
契約書に遅延損害金の計算方法が明記されている場合は、比較的容易に請求することが可能です。一般的には施工業者に違約金を口頭で請求すれば対応してくれますが、必要であれば名前と請求金額、請求理由を明記した請求書を作成して施工業者に提示しましょう。
その際、軽微な遅延などについては損害金の減額などを相談してくる施工業者もあります。これに応じるかどうかは善意の問題であって応じる義務はありません。
また遅延が発生した際に、請負契約自体の解約を検討する施主もいるようですが、この方法は基本的には推奨しません。工期の遅延は多くの場合、工事の後半で明らかになることから、すでにある程度住宅建設が進んでいると想定されます。
中途半端な状態からの工事は施工業者も敬遠しますので引き継ぐ施工業者探しに苦労するでしょう。仮に契約に進めたとしても、割高な契約になるリスクがあります。もちろん完成する新築住宅の質が落ちるリスクもありますので、よほど悪質ではない限り契約解除は行わないことが得策です。
契約書に遅延損害金が明記されていると実損額に応じて賠償金を受け取れないので、何だか損しているような気持ちになるかもしれませんが、実は契約書に遅延損害金の計算方法が明記されていることは、施主に大きなメリットがあります。
もし遅延損害金に関する契約書の記載がなかった場合、施主が一から実損額を計算する必要があります。施工が遅れたことによる損害の範囲は一般的には住宅ローンに関する負担増や引っ越し業者・ゴミ処分業者のキャンセルや再依頼に伴う手数料の発生などが考えられます。
しかしこれらを闇雲に盛り込んでも、施工業者が承諾しなければ遅延損害金の支払いには至りません。施主は施工業者との合意を取り付けるために合理的な遅延損害金を算出しなければなりません。
両者で折り合いがつかない場合は裁判を起こすことになりますが、多くの場合は裁判費用の方が高くついてしまうでしょう。
工事遅延損害金の計算方法
最後に一般的な遅延損害金の計算方法について紹介します。一般的な計算方法は、先に紹介した民間連合協定工事請負契約約款に従っています。
同約款では施工業者の責任による工期の遅延については「遅滞日数に応じて、請負代金に対し年10%の割合で計算した違約金を請求できる」としています。
請負代金×10%×遅滞日数/365日
例えば請負代金が2,000万円で遅延日数が30日だった場合は、2,000×10%×30/365で、16万4千円程度となります。
請負代金と遅延日数に応じて計算されるんですね。
以前は請負金額から工事の出来高部分を控除するなどして計算されていたのですが、出来高部分の算出が難しくトラブルの原因になりがちだったので、現在の簡便な計算方法に変更になったのです。
まとめ
新築注文住宅の引き渡し日の遅延は困りものですが、このように基本的に施工業者に原因がある遅延であれば、契約書に基づき一定額の工期遅延損害賠償を請求することが可能です。
大幅な遅延が想定される場合などは、契約書をよく読んだ上で、施工業者に相談してみると良いでしょう。