隣にマンションが建つと日照権や日当たりは?迷惑料は請求できるのか【弁護士が解説】

この記事のざっくりしたポイント
  1. 日照権は法律や条文で規定されてはいない
  2. 隣にマンションが建つことで迷惑料は請求できるか
  3. 日照権を主張する際にポイントとなるのは「受忍限度」

住まいを選ぶ要素として日当たりの良さは重要です。

しかし隣地にマンションやビルが建ってしまえば状況は一変し、場合によっては住まいの資産価値が下がることも考えられます。こうした場合、日照権を理由に補償や迷惑料は請求できるのでしょうか。

弁護士が分かりやすく解説します。

日照権とはどんな権利?

ここでは法的な視点から日照権の基本について見ていきます。

日照権は法律や条文で規定されてはいない

日照権とは「自分が所有する住居などの建物について、日照という利益を保護するための権利」です。“権”と表記されている通り個人の権利と見なされています。

 

日照権の法律もあるんですか?

 
 

日照権について明確に定められた法律や条文はありません。権利を行使できるかは、他の法律や過去の判例をもとに判断されます。

 

個人の価値観にもよりますが、1日中日射しが差し込まない部屋での生活は健康的な生活とは呼べず、私たちの誰もが良好な環境のなかで生活を営む権利を持っています。

しかし、その権利は限度なく要求できるものではありません。自宅の隣にマンションが建ったら日当たりが悪くなるから建てるな、と主張すること自体は個人の自由ですが、法的な根拠を提示できなければ聞き入れてもらえません。

隣にマンションが建つことで迷惑料は請求できるか

隣にマンションが建つことで迷惑料は請求できるか

隣にマンションが建つことで相手から迷惑料を受け取ることで妥協となった場合、迷惑料の相場はケース・バイ・ケースです。また「迷惑料」については相手に支払義務が課せられないため強硬に迷惑料を請求すると恐喝罪に問われることがあります。

対して日照権の侵害が認められた場合、賠償金は裁判所が法に則り言い渡す強制力があるものです。こちらも相場はケース・バイ・ケースですが30万円~100万円程度が考えられます。

隣にマンションが建つと日当たりはどうなる?

隣にマンションが建つと日当たりはどうなる?

実際に、自宅の隣にマンションが建つと日当たりはどうなるのでしょうか。

考えられる影響をまとめました。

方角と建物の位置

新しいマンションの配置が、日光の入り方に大きな影響を与えます。

もし新しいマンションが太陽の進行方向に対して立ってしまうと、その影響で日当たりが制限されることがあります。

建物の高さ

新しいマンションの高さも考慮する必要があります。もし新しい建物が既存の建物よりも高ければ、日光が既存の建物に届かなくなる可能性があります。

法規制

都市計画や建築法規制も影響を与えます。特定のエリアでは、建物の高さや配置に関する制限があるかもしれません。

不動産の購入を検討する際は、都市計画を確認し日当たりへの潜在的な影響を理解することが重要です。

日照権と建築基準法

日照権と建築基準法

日照権が侵害されているか否かの判断に関係する法律としては「建築基準法」が挙げられます。

建築基準法とは日本国民の生命、健康、財産、安全、快適などを守るため、建築物や土地について最低限遵守しなくてはならない規則について定められた法律です。同法の中から日照権に関係する「斜線制限」と「日影規制(にちえいきせい)」について説明します。

斜線制限

「斜線制限」とは、ある土地に建築物を建てようとする際、周囲への日照を確保する目的で、建築物の高さと大きさに制限を加える規定です。

同規定では「道路斜線制限」「隣地斜線制限」「北側斜線制限」が定められており、このうち日照権に関係する規定は北側斜線制限です。

「北側斜線制限」とは新しく建てようとする建物が、北側隣地の日照や通風を妨げることがないよう、建物の高さや屋根の勾配について制限を定めた規定です。北側の隣地から見れば、日照にもっとも大きな影響を及ぼすのは南側の建物ですから、新しい建物の北側部分が主に規制の対象となるわけです。

MEMO
例えば地上2階建以下の戸建住宅やアパートのみ建築できる地域では、隣地境界線の地盤面から5mの高さを基準とし、建物の高さは真北の方向にある隣地境界線までの水平距離1.25倍長さに5mを加えた数値以下とするよう定められています。

日影規制

「日影規制」とは建築物によって隣地などが日影となる状態が一定時間以下になるよう、建築物の高さを制限する規制です。

太陽の南中位置が1年でもっとも低くなる冬至の日を基準として午前8時から午後4時(北海道では午前9時から午後3時)の間に、隣地が日陰となる時間を4時間以下または2時間30分以下にするよう定められています。

建築基準法を遵守した建物なら日照権は配慮されている

北側斜線制限、日影規制とも規制数値は北側隣地との距離、隣地との高低差、土地の形状と建物の配置、用途地域などさまざまな要素により変化するため、一般の方が正確に判断するのは難しいかもしれません。

ただし一般的な建築物は、ほとんどが北側斜線制限と日影規制をクリアしているはずです。そのため建築基準法のみを理由とした日照権侵害の主張は困難と言わざるを得ません。

また建設の中止を求めても、その主張が受け入れられるケースは極めて稀です。

 

購入前に気をつけることはありますか?

 
 

これから住宅を購入する場合は上記各要素のうち「用途地域」について入念に確認しておくべきです。なぜなら用途地域が異なれば斜線制限や日照規制の基準が変わってくることから、隣地に将来どのような建物が建ちやすいのか、その際にどの程度まで日照が遮られるのかが予測できるからです。

 

日照権とマンション【用途地域に注意】

日照権とマンション【用途地域に注意】

「用途地域」とは都市計画法によって定められた土地の分類です。細かな規定は省きますが、人が居住可能な地域は12区分に分類されています。

用途地域の分類
  1. 第一種低層住居専用地域
  2. 第二種低層住居専用地域
  3. 田園住居地域では、軒の高さが7mを超える建築物または地上3階以上の建築物について、日影規制に加え斜線制限も適用されます。
  4. 第一種中高層住居専用地域
  5. 第二種中高層住居専用地域
  6. 第一種住居地域
  7. 第二種住居地域
  8. 準住居地域
  9. 近隣商業地域
  10. 準工業地域では、高さ10mを超える建築物について日影規制が適用されます。
  11. 商業地域
  12. 工業地域

しかし、(11)商業地域と(12)工業地域には斜線制限も日影規制も適用されません。この2つの地域にもごく当たり前にマンションが建っており、運が悪いと窓の向こう側の景色は全て隣ビルの壁、陽射しが差し込まないうえに日照権の主張もできないという事態に陥ります。

日照権と受忍限度

日照権と受忍限度

建築基準法に適合した建物であっても「受忍限度」を理由に、日照権を侵害する建物であると判断され、損害賠償を請求できることがあります。

 

受忍限度というものがあるんですね。

 
 

受忍限度とは言い換えると我慢の限界ということです。狭い国土に多数の人が暮らす日本では、日照や景観の面において、互いにある程度の我慢が必要になります。しかし、たとえ建築基準法を遵守している建物であっても日照に対する悪影響が我慢の限界を越えるものである場合は日照権が認められることがあります。

 

受忍限度の判断基準はケース・バイ・ケース

「受忍限度」についての判断はケース・バイ・ケースとなります。なぜなら法的に明確な線引きがないためです。

ある人にとってはまったく気にならない日陰が、別の人にとっては許しがたい侵害行為と映る場合もありますし、そもそも建築基準法を遵守し建設・建築される建物である限り、北側斜線制限や日影規制はクリアしているのですから、基本的に他者の受忍限度を侵すものではないはずです。

 

受忍限度内か受忍限度を越えているかの判断は裁判官に任すことになるんですね。

 
 

そうですね。過去の判例を調べてみると、裁判官はどのような部分を重視し判決を下しているのか、ある程度の目安が分かります。主なものを簡単に列記します。

 

受忍限度の重視点
  1. どの程度日照が遮られ、加害者はどう考えているか
  2. 特別に日照を保護すべき理由があるか
  3. 日照について十分に配慮され、法を遵守した建物か
  4. どの用途地域に建設された建物なのか
  5. 加害建物と被害建物は住居か、公共性のある建物か
  6. 日照を侵害しないよう一定の努力を行ったか
  7. 建設前に十分な説明を行ったか
  8. 住民が受ける被害はどの程度か
  9. 訴訟提起後にどのような対応を行ったか

例えば、(2)に該当するものとしては保育園の運動場が日陰になることから日照権の侵害が認められた判例があります。

対して、太陽光発電パネルが日陰になることから提訴に至った事例では訴えが棄却されています。日照権の侵害について一般の方が判断するのは難しいため、提訴に至る前に日照権について詳しい弁護士に相談することを強くお勧めします。

日照権を主張する方法はある?

建築基準法や都市計画法を遵守した建物である以上、建てるなと主張するための根拠は希薄です。建築計画が持ち上がったらなるべく早く紳士的に土地所有者や建設業者への交渉を開始すべきです。建て始めてしまってからでは双方納得できる解決手段の実現が難しくなります。

土地の所有者や建設業者と交渉する

まず土地の所有者や建設業者と交渉しましょう。中高層の建物を建築する場合は、事前に近隣住民説明会が開催される場合もあります。

この際、交渉に向かう人数は多い方が不満を伝えやすいのですが、相手方を罵倒するような交渉方法は好ましくありません。

 

ただ不満を伝えるだけでは駄目なんですね。

 
 

はい。なぜなら相手方の建築物は、建築基準法をはじめとした各種法律を遵守した適法な建物である可能性が極めて高いからです。あくまでも、日照について当方はある程度まで受忍するが、建物を数m後退させてくれないか、日照についてもう少し配慮してくれないかといったスタンスで、妥協点を見いだしていく交渉術が大切です。

 

自治体の建築指導課に相談する

土地所有者や建設業者との話し合いとともに役所の建築指導課など行政に相談しましょう。多くの自治体には「建築紛争調整制度」が設けられており、無料で相談に乗ってくれるはずです。

場合によっては、自治体から建設業者に指導が入り、当初の建設計画が修正されることもあります。

裁判所に対し建築差し止めの仮処分申請を行う

直接交渉や自治体への相談を経ても妥協点が見いだせず建設が始まってしまった場合は、裁判所に対し「建築差し止めの仮処分申請」を行う段階となります。

権利関係に関してトラブルが起こっており、本訴(正式裁判)による結果を待っていては建物が完成してしまうと考えられる場合、暫定的に建設を中止させることで、本訴判決後に不可逆的な事態が発生することを防ぐ目的で行われます。

申請の際には建物によって日照権が侵害される可能性が高いことを「疎明」する必要がありますが「疎明」は「証明」よりも立証が緩やかで、裁判官が「この申請は一理ある」と考えるに足る理由があれば仮処分決定に至ります。

ただし、仮処分はあくまでも「いったん待て」の状態に過ぎず、本訴では請求が棄却されることもあるうえに、相手方に損害が発生していた場合は賠償を求められる場合もあります。

仮処分申請後の交渉でも解決しない場合は提訴を

どうしても妥協点が見いだせない場合、最終手段は裁判となります。ここまで至ってしまうと一般の人にとって手に余りますので、事前に弁護士とよく相談することを強くお勧めします。

まとめ

日照権を理由として建設を取り止めさせることは実際には困難です。

また建設予定の建物が法を遵守したものである場合、日照権侵害の主張は認められない可能性が高いと考えてください。