- ペット不可マンションで飼ってないと言い張る人への対処法
- ペット禁止なのに飼っているとどうなるのかを解説
- 飼育が発覚してもすぐに賃貸借契約を解除できない
国土交通省発表の「平成30年度マンション総合調査」によると、マンションの完成年次別のうち平成11年までのものは『禁止している』が過半数であったのに対して、平成12年以降は『種類・サイズ・共用部分での通行形態等を限定し、認めている』が過半数となっており、近年のペットブームを背景にペットの飼育を認めるマンションが増えています。
それに伴いペットトラブルも増加傾向にあり、ペット不可マンションであるのに「飼ってない」と言い張る人などに頭を悩ませている大家さんも多いはずです。
本記事では、「飼育可」及び「飼育不可」とする賃貸マンションにおけるペットトラブルの大家の対応についてまず確認し、さらに「飼育可」とした場合の注意点についても解説していきます。
ペット不可マンションで飼ってないと言い張るリスク
ペット不可のマンションで「飼ってない」と言い張るのはいくつかのリスクを伴いますし、大家さんや管理会社との信頼関係を失い最悪の場合強制退去となりかねません。
契約違反
マンションの入居契約には通常、ペットの飼育が許可されていない旨が明記されています。契約に違反することは、賃貸契約の解除やペナルティの対象になる可能性があります。
近隣トラブル
ペット不可の建物では、隣人がペットアレルギーを持っていたり、騒音や匂いに対する感受性が高いことがあります。ペットを隠して飼うことで、近隣トラブルが発生する可能性があります。
ペット不可の建物でペットを飼うことは、状況によっては法的な問題を引き起こす可能性があるため、慎重に考えることが重要です。建物のルールを守ることや、可能であれば事前に許可を得るよう努めることが賢明です。
飼ってないと言い張る人
では部屋を貸し出す側から、ペット不可マンションで「飼ってない」と言い張る人への対処はどのようにすればよいのでしょうか。
実は、ペットを飼っているという事実だけではすぐに強制退去させることはできません。
次の章で詳しく説明します。
ペット禁止なのに飼ってる人への対処法
賃貸借契約書の内容や使用規約において、借主がペットを飼育することを禁止している場合です。
直ちに解除できるわけではない
禁止されているのに借主のペット飼育が判明した場合、違反した以上、大家は直ちに賃貸借契約を解除できるとも思えますが、判例上、解除には一定の歯止めがかかっています。
信頼関係破壊の理論
借主の生活の基盤となる賃借権は手厚く保護すべきと一般には考えられており、借地借家法などはその典型例です。そして、解除の場面でも借主保護の要請が働きます。
櫻井弁護士
この理論のポイントは、義務違反行為自体が解除原因になるわけではないことです。
義務違反を通じて「このような借主には、もはや部屋を使わせることはできない」と大家に思わせるに至った状態が解除原因になるのです。
たとえば、ハムスター等の小動物を適切に飼っている借主が大家の注意によって速やかに飼育をやめれば、信頼関係が破壊されたとはいえません。約定に反してペットを飼っているというだけで解除した場合は、裁判上その効力は、まず認められないでしょう。
まずは話し合う
大家は借主に契約書の記載や使用規約を確認してもらうことになりますが、その際、「ペット禁止と書いてある」の一点張りでは合理的な説得になりません。
相談者
櫻井弁護士
ここで重要なのは、話し合いの経緯を記録に残し証拠化することです。
「度重なる交渉を経たのにペットの飼育をやめない」という状態が信頼関係の破壊につながるからです。
話し合いの日時や内容はもちろん、借主の態度や行動についても細かく記録します。また、確実に証拠として残すには内容証明郵便の利用も検討しましょう。
契約解除の方法
話し合いを重ねてもペットの飼育をやめない、そもそも話し合いにも応じないといった場合には、大家は契約を解除することができます。
解除の意思表示は口頭でも可能ですが、言った言わないのトラブルを避けるため、配達証明付きの内容証明郵便で解除するのが一般的です。
ここで気になるのが、解除する前に改めて催告する必要があるかどうかです。
解除前の催告
相談者
櫻井弁護士
信頼関係が破壊された場合は催告不要
相談者
櫻井弁護士
何度もペット飼育をやめるよう促しているのに聞き入れようとしない借主の態度によって信頼関係が破壊された場合に、今度は解除に向けてペット飼育をやめるよう改めて催告する実益がありません。
したがって、このような場合には541条1項が適用されずに、催告は不要と考えられています(最高裁昭和47年11月16日判決)。
もっとも、解除のための催告は不要ですが、解除が認められるハードルは高いのは上述したとおりで、結局のところ、大家は辛抱強く借主に働きかけなければなりません。
ペット可マンションでのトラブル
賃貸借契約書の内容や使用規約において、借主がペットを飼育することを容認している場合です。
迷惑行為の放置は賃貸人の責任が問われる
「ペット可」だからといって、どのような飼い方をしてもよいのではなく、他の住人も我慢しなければならないわけではありません。
大家はすべての住人が平穏かつ安全・安心して居住することができる環境を提供する義務があります(601条)。つまり、ペット飼育者が他の住人へ迷惑を生じさせた場合にはやめるように求めることができ、同時に、求めることが義務でもあるのです。
よって、迷惑行為が何度も繰り返されているのに大家が何ら手立てを行わずに排除することを怠った場合には、他の借主から解除されたり、債務不履行責任を追及されたりするおそれがあります。
問題となる借主に対して
大家は貸主としての責任を果たすためにも、問題となる借主に対しては、まず適切に飼育するよう話し合いをもつ必要があります。
具体的には糞尿の始末や無駄吠えをしないようにしつけすること、決められた場所以外で解放しないこと、必要に応じた動物病院での治療等についても話し合います。ペット飼育可能物件であっても飼育者として守るべき社会的ルールがあることの自覚を促すのです。
話し合いを重ねても事態の改善がみられず、信頼関係が破壊されたと評価できる場合には、大家は解除することができます。
大家ができる防止策
ペット飼育可能物件におけるトラブルを防止するために、以下のような方策があります。
①ペット飼育に関するルール
ペット飼育に関する規約を定めて、各借主に理解の上、遵守を求めて誓約書を提出してもらいます。
ペット飼育規約の内容については、東京都福祉衛生局が作成している「集合住宅における動物飼養モデル規程」が参考になります。
主な規定事項は以下のとおりです。
- 「飼主の心構え」:快適な生活環境の維持向上、飼い主としての自覚、法令遵守等の心がけを示します。
- 「飼主の守るべき事項」:飼育場所の限定、糞尿の始末、しつけ、疾病や害虫の発生予防、繁殖制限措置等について定めます。
- 「居住者の行う手続き」:飼育する場合の許可や飼わなくなった場合の届出、犬については狂犬病予防注射の証明の提示を求めること等を定めます。
- 「飼うことのできる動物の種類」
- 「飼うことのできる動物の数」 等
② 修繕費用等に関する取り決め
ペットを飼育していた部屋の退去後は、ペットによるクロスのひっかき傷やカーペットのシミ、臭い等、原状に回復するには過分の費用がかかることが予想されます。本来その費用は飼い主が負担すべきものですから、家賃の上乗せや修繕費用の支払いを借主に求めることは、適正な額であれば、問題ありません。
これらの負担を承知の上で賃貸借契約を締結することが、飼い主としての自覚を促すことにもなります。
櫻井弁護士
③ ペット飼育の設備を整える
マンションの設備もペット飼育を想定したものに整え、他の住人とのトラブルをできるだけ防止する工夫が必要です。
- 玄関の飛び出し防止フェンス
- 玄関リード掛け
- 汚物ダスト
- 足洗い場
まとめ
ペットトラブルをめぐる契約解除を中心に解説しました。実際多くのペット可マンションでは適切に設備や契約を整え、住民とペットが快適に過ごせる住環境づくりをしています。
この記事がペットトラブルでお困りのオーナー様はもちろん、「ペット可」にすることを検討中であり、契約内容や使用規約についてお悩みの方の参考になれば幸いです。