家賃を払わない借主を追い出すには?家賃滞納者の追い出し方まとめ【弁護士が解説】

この記事のざっくりしたポイント
  1. 家賃を払わない借主を追い出す方法まとめ
  2. 家賃滞納者の追い出し方として法的には3段階ある
  3. 法的手続きはいずれも費用と時間がかかる手続きとなる

かつてアパートやマンションなどの賃貸物件を所有して家賃収入を得るのは、「地主」や「資産家」と呼ばれる特別かつ限られた世界の人々でした。

しかし空前の超低金利時代といわれる昨今「銀行に預けるよりは」と考え、将来のための資産形成の一つとして、ごく普通の会社員生活を送りながら不動産経営を手がける人が増えています。

 

不動産経営に興味はありますが、もし借主が家賃滞納をしたら…と思うと心配です。

 
 

法治国家である日本には「借地借家法」という厳格な法律があり、家賃滞納が生じたからといってすぐさま借主を追い出すことはできません。無用のトラブルに悩まされることなく不動産オーナーとしての権利を守るためには、家賃滞納に対する督促や取り立て方法などの対策を事前に考えておくことが重要です。

 

今回は家賃を払わない借主を追い出すにはどう督促や取り立てをしたら良いのか、家賃滞納者の追い出し方法を法律的な観点からしっかり解説します。

家賃を払わない借主は追い出すことができる?

家賃を払わない借主は追い出すことができる?

まず法律的に問題となる家賃滞納とは具体的にどんな状況を指すのでしょうか。

借主とは賃貸借契約を結んでいるわけですから約束の期日に家賃が支払われなければ即ち借主の責務不履行となり、契約は解除されると考えられがちです。

しかし賃貸借契約が解除できるのは貸主と借主の合意がある、または法律で定められた要件を満たす場合に限られます。つまり、1回だけの家賃滞納で貸主が一方的に契約を解除し借主を強制退去させることはできません。

では、いつまで家賃滞納が続いたら「法律で定められた要件」を満たし、退去させることができるのでしょうか。実は、この点に関して借地借家法には明確な規定がありません。

そこで過去の裁判例を参考に推測してみると、まず契約解除の事由に該当するのは家賃滞納が3ヶ月続いた場合と想定されます。

MEMO
賃貸借契約のような継続的契約の解除については「信頼関係破壊の法理」が適用されるわけですが、貸主と借主の間の信頼関係が破壊されたとみなされるまでには3ヶ月の時間を要するわけです。さらに3ヶ月以上の家賃滞納があり、契約解除ができたとしても、まだ借主を強制退去させることはできません。
 

簡単に強制退去させることはできないんですね。

 
 

権利者であっても司法手続きによらず実力をもって権利回復をはたすことは認められない「自力救済禁止の原則」があるため、家賃滞納があったとしても貸主が借主を強制的に退去させることは違法行為となってしまいます。

 

では、どうすればいいのか。という疑問に行き着くわけですが、家賃滞納に対する督促や取り立て方法、さらに借主を退去させるための具体的な手続きや段階については、次の章で詳しく解説しましょう。

家賃滞納者の追い出しをする前に

家賃滞納者の追い出しをする前に

家賃滞納者を追い出したい場合、法律に基づいて行う必要がありますが法的手続きは時間も費用も掛かります。

そこでまずは管理会社に督促を依頼をする、連帯保証人に連絡をするなどのできることから着手しましょう。

管理会社に督促を依頼

家賃滞納が発生したらまず行うこと、それは管理会社に督促を依頼することです。

不動産オーナーの多くは家賃徴収を含む物件管理を管理会社に委託しています。この場合、家賃の督促・取り立ては管理会社の仕事であり、本来はオーナーが直接動く必要はありません。

とはいえ管理会社から「家賃滞納が発生しました」と連絡が来た際は、オーナーから「きちんと督促してくださいね」と言い添えることをおすすめします。管理会社は電話や書面、場合によっては訪問して督促を行ってくれるはずです。

その進捗状況は逐一報告を受け、滞納の理由、そしていつまでに支払いがあるのか、といった情報を確認しましょう。

連帯保証人に連絡

賃貸借契約時に連帯保証人を設定している場合は家賃滞納が発生した時点でただちに連絡しましょう。

連帯保証人は言うまでもなく賃貸借契約における借主の責務を負っているわけですから、借主が家賃滞納した場合は代わりに家賃を支払う義務があります。

もっとも連帯保証人に期待するのは多くの場合、家賃を肩代わりしてもらうというより、借主に対して「ちゃんと家賃を払うように」と苦言を呈してもらうことです。

連帯保証人は家族や目上の親戚に依頼しているケースがほとんどなので、保証人から厳しく注意してもらうことでスムーズに取り立てができるだけでなく、その後の家賃滞納リスクがぐっと低下することも期待できます。

家賃保証会社に連絡

家賃保証会社とは家賃滞納があった場合にその家賃を立て替えて支払ってくれる会社で、保証料は賃貸借契約時に借主が支払います。

近年、親の高齢化などから連帯保証人を頼めないケースが増えていることから広く利用されるようになりました。

そもそも家賃保証会社とは借主の家賃滞納が発生したときのために存在しているわけですから、真っ先に連絡するのは当然のことです。

家賃保証会社への報告期限を「滞納発生から40日以内」と設定している会社が多いようなので、家賃滞納が生じた際は速やかに連絡しましょう。

 

報告期限を過ぎてしまうとどうなりますか?

 
 

報告期限を過ぎると、せっかく契約していたにもかかわらず賃料が満額保証されないこともあるので、注意が必要です。ちなみに、家賃保証会社が借主に代わってオーナーに家賃相当額を支払った後、借主に対する取り立ては家賃保証会社が行うことになります。

 

内容証明郵便で督促

家賃滞納が2ヶ月以上続くようなら内容証明郵便で請求書を送付して督促を行います。

内容証明郵便とは、いつ、どのような文書が、誰から誰宛に差し出されたのかを、郵便局(日本郵便株式会社)が証明する郵便です。内容証明郵便で督促を行うことで、その後訴訟に発展した場合、「実際に督促を行った」という履歴が残ります。

そのため、ここで送付する請求書には金額と支払い期日を明示し、支払いがない場合には立ち退き・明け渡しなど法的手段を取ることを記載することが重要です。

ここから先は万一訴訟になった場合のことを視野に入れ、借主とのやり取りの履歴をきちんと残しておきましょう。

法的手続き以外の解決法も視野に

家賃滞納を続ける借主を1日も早く退去させたいと考えるなら、まずは裁判など法的手続き以外での解決を試みてみましょう。

明け渡しを求める訴訟裁判を起こした場合、判決が確定するまで通常は少なくとも半年ほどかかると言われています。当然、その間の家賃収入は期待できず、貸主にとっては精神的にも大きなストレスとなります。

さらに訴訟のための弁護士費用や明け渡し訴訟の費用など、それなりの出費も覚悟しなければなりません。

それでは、どうしたら借主が退去してくれるのでしょうか。

例えば滞納分の家賃回収を諦めて「◯月◯日までに退去すれば不払い分の家賃の支払いを免除する」と通知し、退去を促してみるのも手でしょう。

大きな損失と感じるかもしれませんが、裁判にかかる時間とお金を考えれば、少しでも早く退去させて次の借主を探したほうが、結果として「お得」になる場合がほとんどです。

MEMO
実際、不払い分免除の条件を提示することで、意外なほどあっさり退去する人が多いといわれています。信頼できる管理会社であれば、こうした解決方法に関するノウハウを蓄積しているはずなので、相談しながらベターな方法を探りましょう。

家賃滞納者を追い出す法的手続き

いろいろ手を尽くしても滞納家賃を取り立てられず借主の退去もない場合は法的手続きに移ります。この場合利用できるのは「支払い督促手続き」「少額訴訟」「民事訴訟」の3つです。

支払督促

支払督促とは申立人の申し立てのみに基づいて簡易裁判所の書記官が相手方に金銭の支払いを命じる制度です。

支払督促申立書に必要事項を記入して提出するだけで、家賃滞納を続ける借主に対して裁判所から督促状を出してもらうことができます。

 

督促状を出すだけでは効果がないような気もしますが…。

 
 

たしかに督促状が届くだけではありますが、裁判所からの通知には心理的な効果が大きく、これに驚いて支払いに応じるケースは少なくありません。強制力のあるものではありませんが、手続きは簡単で費用も訴訟を起こす場合の半分で済むので、まずは試してみましょう。

 

少額訴訟

少額訴訟とは60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる訴訟です。

申立費用が安く、手続きにかかる期間が短い上に原則1回の審理で判決が言い渡されます。裁判といっても裁判官とともに貸主、借主がテーブルについて話し合うイメージで、この中で妥協点が見出されれば和解となる可能性もあります。

注意
また判決による判決書、和解による和解調書によって強制執行を申立てることができるので、支払督促と違って強制力のある制度といえます。ただし、少額訴訟でできるのは家賃滞納の取り立てだけで、強制退去を促すことはできません。

民事訴訟

家賃滞納が3ヶ月以上続き、契約解除を求めても立ち退かない借主を退去させるには、民事訴訟を起こすことになります。

判決後、貸主と借主の間で退去日の調整を行いますが、これが決まらない場合はさらに強制執行の申立を行うことが必要です。強制退去の日付は裁判所が定め、借主に立ち退き催告状が届きますが、その期日を過ぎても明け渡しがない場合、いよいよ強制退去となります。

強制執行によって立ち退きが完了するまでは早くても半年、裁判で争いになったりすると長い場合2年はかかるといわれています。

弁護士費用は100万円ほど必要で、しかもその間は家賃収入がありません。さらに、借主の荷物を搬出・処分する費用として、10〜50万円はかかります。こうした費用は借主に請求することができますが、ここまで家賃滞納を続けた借主が支払いに応じることはまずあり得ないので、すべて貸主の負担となることを覚悟しましょう。

信頼できる管理会社選びが重要

ごく普通の会社員が不動産経営を行うことが珍しくない今日、家賃滞納の対策や取り立て方法などは誰もが知っておくべき情報です。

借主の家賃滞納があった場合、まずは管理会社に督促を依頼し、滞納の理由やいつまでに支払うかを確認してもらいます。連帯保証人がいる場合は、家賃滞納が発生した時点で即座に連絡を取り、借主に厳重注意をしてもらうことも有効です。

それでも家賃滞納が解消されない場合は法的手続きに向けて動くことになります。契約解除事由に該当するには家賃滞納が3ヶ月以上続くことが必要なので、この間に内容証明郵便で請求書を送付し、実際に督促を行ったという事実を残しておくことが重要です。

法的手続きには「支払督促手続き」「少額訴訟」「民事訴訟」の3段階があります。いずれも費用と時間がかかる手続きなので、ここに至る前に不払い分の家賃を免除する旨を通知し、借主を退去させることも検討すべきでしょう。

 

家賃滞納トラブルを解決するには、時間もお金も掛かって大変なんですね。

 
 

そうですね。これを未然に防ぐためにまず重要なのは、信頼できる管理会社を選んで管理を任せることです。家賃滞納が発生した場合に素早く有効な督促を行い、その後は家賃滞納が発生しないようきちんと対策を講じてくれる会社を選びましょう。