- ペット不可物件で強制退去をさせる手順を解説
- 退去費用は高額になる?
- まずは入居者と協議し飼育解消できなければ契約解除へ
犬や猫などのペットを飼うことを禁止しているマンションは多数あります。
そういったペット不可物件のオーナーが、もし賃借人が無断でペットを飼っていることを知ったとき、どのように対処すればよいでしょうか。
ペット不可物件なのに飼育をやめてくれない場合は強制退去をさせる場合もあります。すぐに契約解除できるのかなど具体的にどのように進めていけば良いのか、弁護士の視点で解説します。
ペット不可物件でペットを飼っていたら強制退去?
近年、晩婚化や少子化の影響でペットを飼う人が増えてきています。しかし、マンションなどの賃借物件においては、ペットを飼うことが禁止されているところが多いです。
とある不動産業者による2016年のデータでは、東京23区内の賃借物件のうち、ペットを飼うことを可としている物件は全体の12%に過ぎないとのことです。
まだまだペットを飼うことを禁止している物件が多いことがわかります。
ペット不可の物件で飼育が確認された場合、強制退去させられることはあるのでしょうか。
契約の解釈論として、ペット不可とすることについては賃貸人(オーナー)側に合理性があるとして、ペット不可の特約も有効と解釈されています。
猫や犬などのペットを飼うと、壁を傷つけられたり、糞尿などで部屋が汚されたり、鳴き声で近隣に迷惑をかけたりということが懸念されます。こうしたオーナー側の懸念も至極もっともなことなので、契約内容として、ペット不可を定めておくことは合理的なものと言えます。
ただ、分譲マンションを賃貸する場合、マンション全体の管理規約でペットを飼うことが禁止されている場合があります。
その場合は、マンションの管理規約を賃借人に交付しておくことで、ペット禁止も契約内容に含まれると主張できるでしょう。
まずは入居者と話し合いを
オーナー側として、賃借人がペットを飼っていることを知ったときは、賃借人としっかりと話し合いましょう。
オーナー側は基本的にはずっと賃借人に借りてもらいたいはずですし、賃借人側もずっと借りていたいはずです。賃借人に対して、ペットを禁止する理由を伝えて、直ちにペットを飼っている状態を解消してもらうよう協議しましょう。
賃貸借契約を解除する
誠実に話し合いをしても応じてくれない賃借人とは、今後も信頼関係を持って賃貸関係を維持することは難しいでしょう。
賃貸借契約は長期にわたるものですので、お互いの信頼関係が第一です。信頼関係が保てなくなったら、契約解除を検討せざるを得ません。
2週間~1ヶ月度の期間を定めて、その期間内にペットを飼っている状態を解消しなければ、賃貸借契約を解除する旨を内容証明郵便などで通知しておきます。
それでも改善が見られなければ、定めた期間を経過した後に契約解除の通知書を内容証明郵便で送付するという流れです。
賃貸借契約は、信頼関係が保たれていることが何よりも重要です。判例上、賃貸借契約は信頼関係が破壊されれば契約解除できるとされています。
軽微な契約違反では契約解除できません。これは、物件に居住する賃借人を保護するための法律です。
しかし、契約内容でペット禁止を定めている場合、それに違反しただけでは直ちに信頼関係が破壊されたとは言えないかもしれません。
ペット不可での退去費用は高額になる?
契約を解除したら退去して物件を明け渡してもらい、物件の内部を確認しましょう。
壁や床に傷やしみができていないかなど、ペットを飼っていたことによって生じた物件の損傷部分があるかを確認してください。
この損傷部分の回復費用については賃借人に請求できます。
法律上、人が通常に使用していたことにより生じた損耗(通常損耗と言います。)については原状回復費用の請求はできませんが、ペット禁止という契約内容に違反してペットを飼ったことにより生じた損傷は契約違反による損害賠償の対象となりますので、賃借人に原状回復費用を請求できます。
敷金・保証金は、契約終了後明け渡しのときに賃借人に返すべきものですが、賃借人の債務不履行により生じた損害がある場合には、その損害の回復にかかる費用を差し引くことができます。
退去により返還すべき敷金・保証金よりも原状回復費用のほうが高額の場合には、その差額分を賃借人に請求することになりますが、賃借人が支払いに応じないなら訴訟提起して判決を得ることも検討したほうが良いでしょう。
ペット不可物件でペットを飼っていることが分かった場合に、賃借人と話し合いをしようとしても賃借人が全く話し合いに応じないということもあります。
また、先述したような手順を踏んで契約解除を通知しても、賃借人がこれに応じないというケースもあります。このような場合にはどのように対処すれば良いでしょうか。
強制退去に踏み切ることも検討
鍵を勝手に変えたり無理やり追い出したりなど、オーナー側で独自に行うことは、自力救済といって、法律上禁止されています。必ず判決を得て裁判所を通して行いましょう。
契約解除しても賃借人が物件を退去しない場合には、判決を得て最終的には判決に基づく強制執行の手続きによって強制退去を実現することになります。
強制退去の大まかな流れ
先述したとおり、ペットを飼っていることが分かれば、まずは話し合いです。賃借人が話し合いに応じない場合、一定期間以内に改善されなければ契約解除する旨の通知書を送付し、それでも改善がなければ契約解除の通知書を送付します。
法律上は契約が解除されたらすぐに退去すべきですが、賃借人が応じないこともあります。その場合には、裁判所に対して訴訟を提起します。
オーナーが原告、賃借人を被告として、建物の退去・明渡しと明渡しまでの賃料総統損害金の支払いを求める内容の訴訟を起こします。
賃借人(被告)側が何も争ってこなければ、訴訟提起から2ヶ月程度で判決が得られます。賃借人が争ってきたときは、訴訟提起から判決まで半年から1年程度かかることもあります。
そうして判決を得てその判決が確定したら、裁判所に対して確定した判決に基づく強制執行手続きを申し立てます。
執行官による強制執行
建物明渡の強制執行が申し立てられた場合、執行官が物件の現地に行き、物件内に立ち入り、明渡の催告を促す書面を物件内部に貼ります。通常は4週間程度の催告期間を設けます。
それでもなお明け渡しを行わない場合には、催告期間満了の日に執行官が再び現地に行き、物件内部に立ち入り、物件内の人を退出させ、物件内部のものをすべて搬出します。
このような流れによって強制退去が実行されます。
まとめ
ペット不可物件においてペットを飼うことは、オーナーと賃借人との信頼関係を損ねるものです。オーナー側としては、まずは改善に向けて賃借人と話し合い、それでも賃借人が改善しないのであれば、信頼関係が破壊されたものとして契約を解除せざるを得ません。
契約が解除されれば、賃借人は物件を退去すべき義務を負いますが、居座る賃借人もいます。
そのような場合には、無理やり追い出すなどの自力救済はせず、裁判所に訴訟を起こして判決をもらい、判決確定後に強制執行を申し立てるという法律上の手続きを遵守して行うようにしましょう。
その過程で、裁判所が間に入り説得することで賃借人が退去に応じることもあります。