住宅ローン本審査に落ちたら違約金を請求された!支払いに応じる必要は?【弁護士が解説】

この記事のざっくりしたポイント
  1. 住宅ローンの本審査に落ちたら違約金を払うのかを解説
  2. 手付金の本来の目的は「契約解除時のための預け金」
  3. 買主の都合で契約を破棄したら手付金は返却されない

売買契約後に住宅ローンの本審査に落ちてしまうことがありますが、やむなく契約を解除した場合の違約金発生の有無や手付金の返還について弁護士が詳しく解説します。

住宅ローン本審査に落ちたら違約金を払う?

住宅ローン本審査に落ちたら違約金を払うのか

不動産売買契約を結ぶ際、買主は契約時に手付金入金を要求される場合がほとんどです。

手付金とはどのようなお金なのか違約金とは何が違うのか説明します。

手付金の本来の目的は「契約解除時のための預け金」

手付金とは不動産の売買契約が結ばれた際に、相手方の意向に関わらず片方の契約者から契約を解除できるよう預けておくお金のことです。

 

手付金と頭金は同じ意味ですか?

 
 

手付金のことを頭金として支払う売買代金の一部と捉えている人も多くいますが、手付金と頭金は性格が異なるお金で手付金を支払ったとしても不動産売買代金の一部を支払ったことにはなりません。

 

ただし一般的な不動産売買契約では契約書に「手付金は、残余金支払時に売買代金の一部として充てるものとする」などと明記され、売主と買主が双方の責務を果たした場合は売買代金の一部として見なされます。

契約時にはこの取り決めがあるか確認しておきましょう。

そもそも住宅購入契約では契約時に買主が代金を一括して支払うケースは少なく、「手付金を支払い契約」→「住宅ローンなどで残額を確保」→「売買代金全額を支払った後に物件が引き渡される」という流れが一般的です。

物件引渡し時に不動産の売買契約は終了し、あとは買主と金融機関との契約のみとなります。

不動産の権利譲渡は全額支払後の登記をもって完了するため契約時から引き渡し時までは法律関係上不安定な状況となります。そこで法律関係を安定させる意味を含めて契約時に買主が売主に手付金を払い、契約の成立を明確にしておく目的もあります。

買主の都合で契約を破棄したら手付金は返却されない

買主の一方的な事情で不動産売買契約を破棄した場合、手付金は違約金として売主のものとなり、買主には返却されません。

手付金には3つの種類があり前述した相手方の意向に関わらず片方の契約者から契約を解除する権利を担保するために預けておくお金という考え方については「解約手付」と呼ばれ、不動産売買における手付金は一般的にこの解約手付を指します。

契約を解除する場合「買主からの解除では手付金を放棄する(手付流しと呼びます)」「売主からの解除では手付金の倍額を返還する(手付倍返しと呼びます)」ことで契約は解除され、他に違約金を支払う必要はありません。

ただし解約できる期限は相手が「契約の履行に着手するまで」と定められています。

MEMO
具体的には売主が注文住宅建設用の資材を購入する、中古マンションの間取り変更に着手する、新築マンションの引渡しと登記手続き日を通知する、買主が手付金のほかに中間金を支払う、などです。
 

期限の決め方がちょっと曖昧ですね。

 
 

はい。どの時点をもって“履行に着手”となるのかについて、売主と買主の見解が異なりトラブルに発展することも少なくありません。そのため、解除期日は○月○日以前などと定められている契約が多いです。

 

他の手付金としては買主または売主による債務不履行があった場合、損害賠償とは別に手付金を罰として没収する「違約手付」があります。

ただし損害賠償金額の確定には多くの費用と手間がかかるため、不動産売買契約解除については、あらかじめ金額を定めておくことが多く、実際の損害が多くても少なくても契約書にある金額を支払うことになります。

手付金が戻り、違約金もなしの「住宅ローン特約」とは

手付金が戻り、違約金もなしの「住宅ローン特約」とは

仮に買主が転勤や重病などの理由で不動産売買契約を履行できなくなった場合、売主にとって責任は全くないのですから買主のもとに手付金が返還されなくても買主は受け入れるしかありません。

対して不動産売買契約後に申請していた住宅ローンが通らなかった場合、契約内容に「住宅ローン特約」が定められていれば手付金が返還されます。

住宅ローンを組んで不動産を購入する場合は不動産会社の担当者が住宅ローン申請の手引きを担うケースが一般的です。

住宅ローンについて詳しい知識や経験を備えた買主はそう多くはありません。また不動産会社の担当者は買主の経済状態等を考慮のうえ、住宅ローンが通りやすいと思われる金融機関や借入金額を提案してくれるため、アドバイスに従えば比較的安心といえます。

MEMO
ただし、そうしてアドバイスを受けたとしても申請した金融機関全てで住宅ローンが通らなかったという事態は決して珍しいことではありません。そのため不動産売買契約においては多くの場合「住宅ローン特約」なる特約条項が規定されています。
 

住宅ローン特約とはどういうものですか?

 
 

住宅ローン特約とは買主が住宅ローンを利用することを前提とした契約について、買主が住宅ローンの本審査に通らず購入代金を借りられなかった場合には、買主は“違約金を支払う必要がなく”“手付金が返還され”“無条件で契約を解除できる”という取り決めで、この特約が設定されていれば契約書に明記されているはずです。

 

契約書に「住宅ローン特約」の記載があるか必ず確認を

「住宅ローン特約」が附記されていない不動産売買契約においては、もし住宅ローンが通らなかったとしても買主は売買代金の支払を免れることができません。

代金が用意できなければ債務不履行となり手付金は没収されます。住宅ローンの利用を前提とした売買契約を結ぶ前には、住宅ローン特約が定められているかを必ず確認しましょう。

「住宅ローン特約」は必ず適用できるとは限らない

住宅ローン特約は買主にとって安心な取り決めですが住宅ローン申請が通らなかった場合に必ず適用されるものでありません。

買主に求められる責務を果たしていなければならないのです。具体的に解説していきましょう。

住宅ローン特約は利用できる期限がある

多くの住宅ローン特約では適用可能な期日が定められています。

住宅ローン特約が適用できる期日は、売買契約日より30日間以内、○年○月○日までなど契約によりまちまちですが、いずれにせよ住宅ローン審査に落ちてしまった場合は、期日までに同特約を適用しなければ解除権は消滅し、その後契約解除となれば手付金は返還されません。

 

期日を過ぎてしまいそうな場合はどうすればいいですか?

 
 

金融機関の審査が長引き、契約書に定められた期日を過ぎてしまう可能性がある場合は、速やかに売主へ状況を伝え、対応策を相談すべきです。売主側は、住宅ローン特約に基づき契約が解除されたとなれば、契約までにかかった費用が損失となり手付金も返却しなくてはならないため、1~2週間程度なら期日延長に応じてもらえるはずです。

 

2種類の住宅ローン特約 契約時に要確認

住宅ローン特約は「停止条件型」と「解除権留保型」という2つの形式があります。

「停止条件型」特約は住宅ローン融資を申請した金融機関の審査が通らなかった場合、住宅売買契約が自動的に白紙解除となる特約です。不動産取引では一般的にこの特約が用いられますが契約時に必ず確認しておきましょう。

対して「解除権留保型」特約は申請した全ての金融機関で住宅ローン審査が通らなかった場合、買主は速やかに住宅ローン特約適用を申し出て契約を解除するか、他の方法で資金を調達するかを選択し売主に伝えなくてはなりません

どちらも選択せずに相当期間が経過すると解除権は消滅し、住宅ローン特約適用外となってしまいます。

 

契約解除を申し出る時はどうすればいいですか?

 
 

買主が解除権留保型住宅ローン特約による契約解除を申し出る場合、対面による解除書類の作成や内容証明郵便による書面送付などを用いて、解除告知日と解除内容を必ず明確にしておくことが大切です。万が一悪意ある売主だった場合、口頭による通知のみでは、言った言わないの水掛け論に陥ってしまうことがあります。

 

住宅ローン特約が利用できないケースも

住宅ローン特約を付けて契約を締結した場合、買主は一定の期限内に住宅ローンの申請手続きを行う義務を負います

住宅ローンの申請をしなかった、必要な書類を用意せず手続きが進まなかった、住宅ローン利率が思ったよりも高率だったため融資を断った、連帯保証人の同意が得られなかったなどの場合、買主は義務を果たしたとは言えませんから住宅ローン特約は適用されません。

MEMO
また住宅ローン特約では契約時に「●●銀行と▲▲銀行に○○万円の住宅ローン融資を申請する」等、融資申込先を明記するのが一般的です。その他の金融機関に申請する場合は必ず売主と相談し承諾を取り付けておきましょう。

まとめ

ここまで不動産売買契約解除となった場合の手付金や違約金の扱いについてご説明しました。誤解を生みやすい部分でもありますので重要な内容を再度まとめておきます。

不動産売買契約解除となった場合の手付金や違約金の扱いについて
  1. 買主側の事情により契約解除に至った場合、手付金は返却されません。
  2. 「住宅ローン特約」がある契約では、住宅ローンの審査に全て落ちた場合、契約は解除となり手付金は返却されます。
  3. 住宅ローン特約には適用条件があり、期日を過ぎた、買主が責務を怠ったなどの場合は適用されず、この場合手付金は返却されません。

不動産購入契約の解除では双方の利害がぶつかり合うためトラブルに発展するケースが多くなります。

買主が個人で対応できる範囲を越えた場合は速やかに弁護士に相談することをお勧めします。