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原状回復工事とは?よくあるトラブルとその予防法を解説!

この記事を書いた人
徳田 倫朗
宅地建物取引士

株式会社イーアライアンス代表取締役社長。 宅地建物取引士。 国内では、アパート・マンション、投資用不動産の売買や不動産ファンドの販売・運用を手掛けるほか、海外不動産(アメリカ・フランス)についても販売仲介業務を行うなど、不動産・リノベーションに関して幅広い経験と実績を有する。

この記事のざっくりとしたポイント
  1. 原状回復とは、入居者の故意・過失、善管注意義務違反、また通常の使用を超えるような使用による損耗等を回復することをいう
  2. 退去時の費用精算で当初の予算より費用がかかってしまうことによりトラブルになりやすい
  3. 費用負担のルールなど入居前に説明したり、国交省や都道府県のガイドラインについて理解を深めておくことが大切

賃貸経営をしていくうえで、入居者とのトラブルはできる限り避けたいものです。入居中のトラブルはそれほど多くないのですが、退去時における原状回復工事についてトラブルに発展することはよくあります。

今回は原状回復工事について、その内容やトラブルの予防法について解説します。国土交通省や都道府県からガイドラインも発表されておりますので、あわせて参考にしてみてください。

原状回復工事とは?

原状回復工事とはどのような工事を指す言葉ですか?

事務員

徳田編集者

原状回復工事における「原状」とは「もとの状態」を意味しています。しかし、賃貸借契約における賃借人の原状回復義務は、必ずしも賃借人が借りる前の状態に戻すことを指すわけではありません。

国交省ガイドラインによれば、原状回復とは入居者が住居を使用することによって自然に生じたよごれやキズを含めてすべて回復することではなく、入居者の故意・過失、善管注意義務違反、また通常の使用を超えるような使用による損耗等を回復することとされています。

参照元:国土交通省




原状回復工事とリフォームの違いとは?

原状回復工事とリフォームにはどのような違いがあるのでしょうか?

事務員

徳田編集者

リフォームも壁や床材、設備機器を新しくする点においては原状回復工事と変わるところはありません。厳密な定義の違いはありませんが、原状回復工事はもとの状態に戻す工事、リフォームは住居をグレードアップする工事という意味合いで用いていることが多いようです。
例えば、部屋のクリーニングやくすんだ壁紙を同じような質の壁紙に張り替える工事、床のへこみを補修するなどの工事は原状回復工事ですが、壁紙を上質なものに張り替えたり床を無垢材のものに取り換えたりする工事はリフォーム工事に該当します。

新しい入居者を募集する場合には、原状回復工事を並行して行います。もっとも、設備や建材が古くなっていたり、現代のデザインに合わなくなっていたりする場合には、リフォーム工事を追加した方が早く次の入居者が見つかりやすくなり、キャッシュフローの改善に役立ちます。




原状回復工事の費用相場

原状回復工事の費用はどの程度かかるのでしょうか?

事務員

徳田編集者

原状回復工事の費用は工事業者によって異なりますが、軽微な工事のため、リフォーム工事に比べそこまで費用がかかるものではありません。

代表的な原状回復工事の費用の目安をご紹介します。

ハウスクリーニング

賃貸物件のハウスクリーニングでは、壁・床・ベランダ・水回りなどの清掃のほか、床のワックスがけ、エアコン清掃、害虫駆除、壁紙の張替えを行います。

費用は部屋の広さによって異なり、1Kで1万5,000円~2万円程度3LDK・4LDKのマンションになると5~10万円程度になることが一般的です。

クリーニングや部分補修のみであれば、工期は1日から3日程度で完了するため、入居募集に大きな支障を来すことはありません。




壁や床等の原状回復

壁や床に穴が空いていたり、落書きがされていたりした場合には、壁材や床材の張替えが必要になるほか、穴が開いた部分を補修する必要が生まれます。

壁の場合、壁紙を張替える壁の広さによって単価が定まっている場合が多く、平米当たり1,000円から2,000円程度です。

壁穴の補修には、一か所あたり1万円~5万円程度かかるのが一般的です。単に壁の表面に穴ができた程度のものであれば、パテなどの補修材で埋めるだけで済みますが、石膏ボードを交換しなければならないような大きな穴の場合には多額の費用がかかってきます。

床については使用する床材のグレードによって費用が変わってきますが、一般的な床材ならば、1帖あたり2万円~5万円程度です。床のキズや穴・傷みの補修は一か所につき1万円~5万円程度です。

全面的な張替えや修繕箇所が多い場合は、工期が壁・床いずれの場合においても3日から2週間程度に延びるのが一般的です。




原状回復工事費用の負担割合

不動産賃貸業も投資であるため、できる限り入居者に費用を負担してほしいと考えるオーナーは多いことでしょう。しかし、賃借人は退去時に賃貸前の状態にもどして住居を返還しなければならないわけではありません。国交省ガイドラインでは住居の損耗について大きく2つに分けています。

  1. 経年劣化や通常の使用による損耗
  2. 賃借人の故意・過失による損耗・善管注意義務違反による損耗

このうち、1についての回復費用・修繕費用については、賃料に含まれるものとして解釈され基本的には賃貸人負担とされています。一方で、2については、賃貸人に負担を求めるべき費用とされています。

では、具体的な事例をみていきましょう。

入居者負担となる費用の具体例

オーナーが費用を負担しなければならない場合と入居者に請求できる場合の違いは何ですか?

事務員

例として、床材や畳・カーペットの損耗について考えてみましょう。

まず、畳表の張替えやカーペットの交換、床のワックスがけは、通常の損耗を回復させる以上に品質をグレードアップさせるものであるとされ、これは賃貸人負担です。

家具の設置による傷やへこみ、日焼けによる畳や床材の変色については、通常の使用による損耗と考えられ、これも賃借人負担となります。

もっとも、畳やカーペットに水やジュースなどをこぼしたシミを放置したことによる変色やあまざらしの床を放っておいたことによる損傷、落書きによる損傷については、借主の善管注意義務と判断されて賃借人負担とされる場合が多いでしょう。

MEMO

壁材について例を挙げてみると、画鋲の穴やポスターを貼った跡については通常の使用と考えられるものの、喫煙によるヤニを放置したシミや、絵画やテレビなど、重量のあるものをたてかけるために打った釘やビスのあとについては、通常の使用を超えるものとして賃借人負担とされています。




クロスの張替えが必要になった場合の費用負担例

入居者が普通に使った場合以上に汚してしまっていたら、原状回復費用を全額入居者に請求できるということですか?

事務員

徳田編集者

通常の使用を超えるものについては賃借人負担と考えられるものの、その全額を負担しなければならないかというとそうではありません。

国交省ガイドラインによれば、賃借人に原状回復義務がある場合でも、損耗には経年劣化によるものと賃借人に責任があるものとの両方が含まれているものとして、費用を按分すべきとされています。

壁紙の原状回復における以下の費用負担例をみてみましょう。

  • 壁紙張替え費用:5万円(タバコが原因で張替えが必要に)
  • 入居期間:3年(36か月)
  • 壁紙の耐用年数:6年(72か月)

この場合、入居から3年が経過しているために、耐用年数6年のうち3年分の経年劣化分については賃貸人が負担すべきであるとされています。したがって、入居者が負担する分は以下のように求められます。

5万円×(1-0.5)=2万5,000円

もちろん、計算式は一例であり事案によって異なりますが、すべてを賃借人に負担させるべきではないことについては理解しておいた方がよいでしょう




原状回復工事でよくあるトラブルとは?

賃貸借契約におけるトラブルで最も多いのは、原状回復に関するトラブルです。退去時に費用を精算すると、当初の予算より費用がかかってしまうことが少なくないために、トラブルになりやすいのです。

ここでは、退去時の原状回復工事におけるありがちなトラブルをまとめてみましょう。

工事費用に関するトラブル

原状回復工事の費用を賃借人・賃貸人のどちらが負担するか、賃借人が負担するとしてもどの程度負担するのかという点は、典型的なトラブルです。

以前では、賃借人の方が弱い立場である場合が多く、賃貸人が請求するままに賃借人が費用を負担していたケースが多かったのですが、国交省や都道府県のガイドラインが整備され、賃貸人負担とする判例が積み上がってきた結果、法外な費用を請求してトラブルになる事例は減ってきたといえます。

MEMO

費用負担についてのトラブルの一例としては、壁紙やフローリング・カーペット、畳の張替え費用として賃貸人が賃借人に対して65万円相当を請求した事案において、カーペットの敷き替え、壁・天井の残材処理、室外クリーニング等は賃借人に負担させるべきではないとして36万円程度の負担にとどまるとしたものがあります。

敷金・保証金返還に関するトラブル

敷金、保証金の返還についてもトラブルになりやすい事項です。関西では敷引契約(当初より敷金の一部もしくは全額が返還されない契約)が商慣習として一般化していますが、他の地域では一般的ではないために説明不足がトラブルを招くこともあります。

入居者は、敷金は戻ってくるものと考えていることも多いことから、原状回復費用や鍵の交換費用等と相殺される点については事前にきちんと説明しておきたいところです。

賃借人負担となる部分を超える部分について敷金・保証金から差し引いてしまうことについては否定されている判例が多いですが、賃借人が負担すべき費用を敷金・保証金と相殺することについては許容されています。




トラブルを未然に防ぐ方法

トラブルを予防する方法にはどのようなものがあるのでしょうか?

事務員

入居者とのトラブルが起こったり、それが長引いたりするとストレスになりますし、次の賃貸募集に悪影響を及ぼすこともあります。トラブルはできる限り最小限にとどめたいものです。

原状回復に伴う入居者とのトラブルを未然に防ぐ方法をいくつかご紹介します。

契約書・重要事項説明書に賃借人が負担する費用について明記する

まず注意したい点は、賃貸借契約書において、賃貸人・賃借人の費用負担のルールを定めて、入居前にしっかりと説明することです。事前に原状回復についての共通認識を持っておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。

注意

経年変化や通常損耗部分の修繕費用を借主が負担する旨の特約を契約書に記載したとしても、民法・消費者契約法により無効とされる場合がありますので注意が必要です。ガイドラインに沿った契約条項にしておくのが望ましいといえます。

入居前・退去後の状況を明らかにしておく

入居時の住居の状況について入居者から書面を提出してもらうなど、トラブルを避けるための証拠を入手しておくことも大切です。また、退去後についても信頼できる業者に立ち合いを依頼して、客観的なデータを取得しておくことで、当事者双方が納得できる結論に導くことができます。

敷引のルールや保証金のルールを設定しておく

敷引のルールや保証金のルールについても契約書に記載し、重要事項として宅建業者から説明してもらうことも重要です。地域によって商慣習がことなり、賃貸人の認識と賃借人の理解にずれがあることはよくあります。入居前の説明で、ルールに納得してもらうことで、トラブルを回避できるでしょう。




民法改正と原状回復工事

原状回復のルールについては、国交省のガイドラインのほか東京都のガイドラインも参考になりますので、あわせてご参照ください。

東京都住宅政策本部 賃貸住宅紛争防止条例&賃貸住宅トラブル防止ガイドライン

また、令和2年4月に施行された改正民法では、原状回復や敷金・保証金の取り扱いに関して、ガイドラインに沿った形で明文化されました。

今後は、今までの商慣習よりも改正民法の条文やガイドラインにのっとった実務ルールを優先して適用することが多くなるでしょう。国交省や都道府県のガイドラインについて理解を深め、今回ご紹介したトラブル予防法をこれからの賃貸契約に生かしてください。