【不動産のプロが解説】武蔵小杉が水没。これからどうなる都内のタワーマンション

この記事のざっくりしたポイント
  1. 水没の原因は雨水排水管の逆流の可能性が高い
  2. 高級レジデンスでエレベーターが停止やトイレが使えない等の被害が発生した
  3. タワーマンションの立地は実は川沿いや湾岸地域が多い
  4. 風評被害はあるものの、浸水対策により今後の水害のリスクは限定的なのでは

タワーマンションに明確な定義はありませんが、一般的に高さ60メートル以上20階建て以上の高層マンションを指します。不動産経済研究所の調査によりますと2018年までに首都圏に877棟(約25万戸)が建設されました。

免震・耐震構造の採用などで地震対策が施されてきましたが水害対策は施されてきたのかが疑問視されています。専門家の間でも今回の台風19号の水害をきっかけに水害対策を根本的に見直すべきとの声が上がっています。

1.武蔵小杉が水没

台風19号の影響で武蔵小杉駅周辺が水没しましたが、どうしてそこが水没したのですか?

多摩川の水位が上昇し雨水排水管を逆流したことによります。元々旧河道でもありました。

1-1.浸水の原因

10月12日の夜から台風19号による大雨の影響で多摩川の水位が氾濫危険水位まで上昇し、武蔵小杉周辺に降った雨水を多摩川に流出させる雨水排水管を通して、多摩川の水が逆流したことが原因と考えられています。

MEMO
深さ1.5mまで浸水した区域もあり、警察や消防が出動し取り残された人々をボートで救助する事態となりました。現在は武蔵小杉駅周辺では水は引いていますが、大量の泥水が残された状態となりました。

1-2.川崎市中原区のハザードマップ

武蔵小杉駅周辺と冠水地域の大まかな位置を示すと下図の通りです。

Δ川崎市中原区:洪水浸水想定区域(多摩川水系)※1を加工

平成27年に水防法が改正されたことに伴い川崎市中原区の洪水ハザードマップは平成30年3月に改定が行われました。上記に記した最大規模の降雨量を想定した浸水区域以外にも浸水深、浸水継続時間、家屋倒壊等氾濫想定区域を明示しています。※1

  想定降雨量:多摩川の場合:2日間の総雨量:588mm

 (1000年に1回程度発生する可能性のある降雨量を上回る設定)

1-3.周辺状況

横須賀線の武蔵小杉駅前周辺が広い範囲で冠水し一時通過駅扱いとなりました。また近隣の大型商業施設「グランツリー」も1階部分が浸水し、復旧作業に追われました。また川崎市高津区にある低層マンションでは1階部分が水没し、マンション住民が亡くなりました。

1-4.武蔵小杉は旧河道

武蔵小杉は多摩川の南側に位置しますが昔は河川敷の中にありました。長い年月をかけ氾濫を繰り返し流路を変えてきた結果が現在の多摩川の位置です。その歴史の中で武蔵小杉は多摩川の中に位置していた時期もありました。

ですので基本的に低地であるため豪雨になれば元々冠水し易い地形であったといえます。昭和の初期頃までは水路が多く残り、それを活用する工場が多く立地していた程です。

2.タワーマンションが浸水被害

武蔵小杉のタワーマンションでトイレ・エレベーター使用不可、断水が起こりましたが何故ですか?

浸水による停電が原因です。

神奈川県川崎市中原区の武蔵小杉駅の近くにあるタワーマンション(47階建て)が多摩川からの浸水の影響で停電や断水が生じました。その後、電気や水はほぼ復旧したもののタワーマンションの水害対策に対して教訓を残しました。

2-1.タワーマンションが停電

武蔵小杉駅周辺のタワーマンションの中には1階から地下に浸水することにより配電盤が故障し停電になる事態となりました。

2-2.トイレが使えない

トイレが使えなくなる事態にもなりました。あるタワーマンションの掲示板には「原則、住戸のトイレは水を流さないで下さい(地下であふれる)」と注意喚起をし、各階に簡易トイレが設置されました。

原因はそのタワーマンションの下層に下水処理施設が設置されており、処理機械の電気設備が停電により停止した模様です。あと下水貯留槽に道路冠水した水などが侵入し溢れないように管理会社が事前に措置したものです。

MEMO
事故当時、補修工事に少なくとも一週間を要するとの管理会社からの通達が住民に対してなされました。トイレを使用しての排水量は一人一日当たり平均1.7リットルです。タワーマンションの規模にもよりますが住人は数百名から千数百名に及び、汚水量も膨大な量となります。下水処理施設が停止すれば下層階では溢れ出す可能性も生じます。

2-3.エレベーターが稼働不能

停電によりエレベーターが使用不可となりました。住民は階段での移動を余儀なくされており、親戚などの家に避難する人も少なからず出ました。

2-4.水が出ない

水道水は3階建て位までは水道の供給元からの水圧で蛇口から水が出ます。タワーマンションともなると高層階へは電気モーターで水の汲み上げを行うため、停電すれば水の供給は出来なくなります

その対策として給水車による水の配給が行われますが、あくまでも地上階です。高層階の住民は水の確保に階段を上り下りすることを強いられます。高層階に住む高齢者で足腰が弱っている方は実際問題として水の確保が不可能となります。

注意
災害時には停電し、電気・水道・エレベーターが使用不可になることを前提として対策を取らなければなりません。東京都の想定では電力復旧までに1週間を要すると試算しています。

3.タワーマンションの立地や構造に懸念

タワーマンションに根本的な問題はないのですか?

超高層ゆえの立地や構造に懸念があります。

3-1.タワーマンションの立地

タワーマンションは超高層になるため日陰面積が大きくなり、北側近隣地域への日照に関する悪影響が出ます。それを避けるために川沿いや湾岸地域に建築される傾向にあります。居住者にとっても見晴らしが良く人気が高いのです。そのため洪水や高潮が発生すると水害による被害を直接被る事態となります。

3-2.タワーマンションの構造

タワーマンションは電気機械設備を地下に設置することが多く、その換気のための通風口を設ける規定になっていますが、そこから浸水する可能性があります。通風口は地表面からさほど高くない箇所に設置する傾向にあるため浸水し易いのです。今後は建築設計時においても水害対策としての見直しが必要になります。

4.これからどうなる?都内のタワーマンション

都内のタワーマンションはどうなるのでしょうか?

電気系統をストップさせない措置が必至となります。

4-1.タワーマンションは災害に強い?

これまでタワーマンションは災害に強いと思われてきました。地震対策としては免震・耐震構造などが採用され安心安全が謳われてきましたが、今回あらためて水害対策への脆弱性が浮き彫りになりました。

上記「3-1.タワーマンションの立地」でも触れましたが、そもそも建築を避けた方が良い立地にタワーマンションが林立する傾向にあります。武蔵小杉もそうですし湾岸部もです。いくら建物本体が頑丈に造られていても水害に遭遇し地下への浸水を許し電気系統がストップすれば、トイレ・エレベーターは使用不可となり断水が生じる事態となることがわかりました。

4-2.地震による液状化

水害ではありませんが特に旧河道や湾岸部の埋立地では地震発生による液状化が生じ、地中にあったインフラ設備(上下水道管、ガス管など)が破壊され今回と同様にトイレ使用不可、断水となり、ガス使用不可となります。

記憶に新しいところでは東日本大震災で千葉県浦安市や千葉市海浜幕張駅周辺で発生した液状化です。両者とも比較的新しい埋立地でした。

4-3.東京都江東5区のハザードマップ

東京都江東5区(江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区、足立区)の大規模水害ハザードマップは下図の通りです。

Δ東京都江東5区大規模水害ハザードマップ ※2

今回の台風19号による洪水に対して荒川、江戸川などの治水施設がかろうじて耐えることができ、下流域において被害は生じませんでした。しかし関西大学特任教授:河田恵昭氏(中央防災会議元座長)の解析結果によりますと、今回の台風19号が20km東にルートがそれていれば降雨量がさらに増し、首都圏外郭放水路や神田川地下調節地の貯水能力をはるかに上回る洪水が発生し、東京都心は水没したとのことです。

実際に江戸川区は以前からスーパー台風が襲撃した際には区外への避難を住民に呼びかけ物議をかもしています。江東5区を含めた東京湾岸部のタワーマンションは洪水に加え、高潮に対する水害対策も必要になります。

4-4.地下への浸水を絶対に阻止

武蔵小杉で実際に地下への浸水が生じたタワーマンションは限定的です。他のタワーマンションは1m以上の冠水があっても地下への浸水を阻止しています。阻止できたタワーマンションは地下駐車場への出入り口に強固なシャッターが配備され、なおかつ土嚢で二重に水害対策を施していました

MEMO
地下への浸水を許すと莫大な被害が生じますが、浸水を阻止すると軽微な被害で済みます。このことを教訓としてその地域に適した水害対策が必至です。

5.まとめ

好調だったタワーマンション市場ですが台風19号の影響により買い控えの懸念が高まっています。それは武蔵小杉周辺だけでなく湾岸エリアでも敬遠される可能性が高まっています。その一方でタワーマンションは交通の利便性の高い地域に立地されることが多く、水害が起こっても立地の利便性は変わらないので需要は底堅いという意見もあります。

タワーマンションの固定資産税評価額の見直しがあったとはいえ、依然相続税対策としては有効ですので買い控えは限定的との予測もあります。いずれにせよ、今後1000年に1度といわれるスーパー台風が毎年来るとも限りません。洪水や高潮が直撃するものと想定してのタワーマンションの水害対策が急がれます

出所

このコラムは以下のハザードマップを転載・加工しております。

※1 「川崎市中原区洪水ハザードマップ」 川崎市

※2 「江東5区大規模水害ハザードマップ・江東5区大規模水害広域避難計画について」 江東区